私は元々、この叔母達が好きでは無かった。
祖母が倒れた時のことがあったからだ。
祖母も叔母も、ある宗教に夢中になっていた。
奈良にあるその宗教の施設で祖母が倒れた時、その宗教の名の付いた病院に入院したのだが、【病院なんかに行かなくても、ここ(施設)で修行してれば治る】と言って、ほとんどの治療もリハビリも、その宗教の支部の偉いさんと結託し拒否した。
その病院の先生も頑張って、喧嘩腰で治療しようとしてくれたのだが、結局は押し通してしまった。
おかげで祖母は、寝たきりになり、しかもそのあとの面倒を見ることもなく放置していた。
第一、数年に一度会うかどうかの人達だった。
いくら、私が母のことを嫌っていても、この人達にそんなことを言われる筋合いはないハズだ。
そもそも、母があれ程キツくなったのは、父がい い加減な生活をしていたのも一因なのではないか。
お互い様だろ。
大体、私の結婚式というオメデタイ席でワザワザ言う言葉だろか?
一応笑顔は保っていたものの、話しは聞いていなかった。
叔母達は一通り悪口を言ったのだろ、スッキリした顔で帰っていった。
この時ばかりは、流石に母を気の毒に思った。
最後にとんだケチがついたが、何とか結婚式を終えた私達は、そのまま彼の実家へ向かった。
結婚式があまりに急だった為、新婚旅行は一ヶ月ほど後だったのだ。
暫し話しをした後、【泊まっていけば良いのに】という義父の提案を丁重にお断りし(そらそーだろ)私達は帰宅することに。
しかし【このまま帰って自宅で初夜を迎えるのも】ってことで、途中のラブホで一泊することにした。
今思えば…新婚初日にラブホもどうかと思うが。
だが結局、私達はそこで初夜を迎えることはなかった。
お風呂に入った後、彼が勤しんだのは…ゲームだったのだから。
その間、もちろん私のことなぞ放置で。
それなのに側にはいなくてはならず、しかも時々【凄いね】とか【あー、惜しい】とか、彼の心地好く感じる言葉を発し続けねばならなかった。
高いお金を支払い、一睡もせず、ヤルコトもやらず、ひたすらゲームをして帰った、記念すべき素晴らしき初夜となった。
そんな感じで(苦笑;)やっと新婚生活が始まった。
しかし、共働きがこれ程大変だとは思ってもいなかった。
彼は、自分が家に居る時に、私が家のことをやるのを嫌った。
で、彼が家に居る時は、ひたすらゲームをやり続ける彼の側に、ただ黙っているしかなかった。
したがって部屋は散らかり放題、シンクはいつも 洗い物があり、洗濯物は週末にやるかどうか…という状態だった。
それでも、あの口うるさい母から解放され、私は心が軽かった。
四六時中ウダウダ文句を言われ続ける生活から脱することが出来たのだから。
あんな生活に比べたら、少々の不自由さは気にならなかった。
しかし、残念ながら私達が住んでいたのは、私の実家から車で10分程度の所だった。
小言ばかりの母が2人とも苦手で、私の実家より、車で1時間程の彼の実家にばかり毎週のように行っていたので、なかなか来ない私達に痺れを切らし、両親は度々私達のアパートへやって来た。
こんな部屋の状態では、またウルサク言われる…と、 何度居留守を使ったことか。
何かと金品は貰っていた癖に、だ。
まったく、自己中な親不孝者である。
そんな中、待ちに待った新婚旅行。
初の海外(ハワイ)。
初の飛行機。
緊張もしたが、気分はハイテンションだった。
ところが。
飛行機が着いたのは朝だったので、そのままあちこち観光に連れ回された。
(私達が結婚式を挙げた式場で、同じく式を挙げた人達が集められた団体での行動だった)
初めてづくしの疲れ。
寝不足の疲れ。
時差ボケ。
私は遂に具合が悪くなってしまった。
彼がチョイチョイぶち切れていたが、そんなことに構っていられない程ボロボロだった。
移動バスの車内には、更に具合を悪くさせる匂いが充満していた。
空港でかけて貰った【レイ】の匂いだった。
あの、色鮮やかな美しい花の首飾りだ。
だがその時の私には、地獄への道しるべでしかなかった。
散々な初日だったが、翌日からは元気を取り戻し、ツアーやらビーチやら、 楽しい時間を過ごした。
ビーチといえば。
海で溺れかけ、外人さんに笑われたっけ。
(相手にとっては私達の方が外人さんだが)
最初は浅い所で泳いだりして遊んでいたのだが、深い所まで彼に無理矢理連れて行かれた。
『ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ行くだけだから。』
と、言葉巧みに。
彼は普通に立っていられたが、私の身長では、足がつりそうなくらい、つま先立ちでピョンピョコ飛び跳ねていなけらばならない深さだった。
必死に跳ねながら、連れ戻してくれるように言っていた…その時!!
今までよりも高い波に襲われた私は、完璧に水没。
彼に救出されながら、半ベソで文句を言う私。
あの笑った外人さんは、私が水没する一部始終を見ていたのだろう。
可愛らしいと思ったのか、滑稽だと思ったのか。
彼はゴメンゴメンと言いながらも、大爆笑。
その笑い方も、心底馬鹿にした【ざまぁみろ】的なものを感じた。
流石にいい気持ちはしなかった。
あとから思えばチャンスはいくらでもあった。
新婚初夜の出来事といい、日常の出来事といい、今回の水没事件といい、こんな風に、彼の私に対するおかしな言動に疑問を持つチャンスは。
でもやはり、私の【ココロの目】は曇っていた。
それがどんなにおかしなことなのか…気付いたのは結局、随分月日が経ってからになるのである。