第3巻ではこれまでに店に訪れた『客』の対価について語られます。
最初は女性二人の内の一人が持っていたマスコットの取れた首、山狗と夜雀からの対価の先遣(さきやり)、正式な交換で得た強運を込められた三十円、桜の花が咲く家で預かった籠と花。
依頼者達に対して敢えて何もしなかった侑子と、依頼者を通じて対価や物を得たわたぬき。
わたぬきはそれらの物を手に入れる為に違う世界に渡ったという事。
なぜわたぬきが対価を手に入れられたかと言うと、実は依頼者に応えて行ったのはわたぬきだったのです。
だから全ての物はわたぬきの物になったのでしょう。
タイトルについた『戻』は、わたぬきにとって過去に戻るという事と、帰りたい時期に戻るという両方の意味だったのかなと思います。
それは失った幸せを取り戻すという事だったのかもしれません。
誰にでも失ったものを取り戻したいと思う事もあるでしょう。
もしくは過去に戻ってやり直したいと振り返る事もあるでしょう。
それは現実の世界において出来ない事ではありません。
例えばその時のに撮った写真や残っている画像、当時に写した映像を見たり、もしくは自分で過去の記憶をさかのぼったり、誰かと昔話をしたり、思い出の場所に行ってみたりという事です。
だけど本当の過去に戻る訳ではありません。
そして同じ過去を取り戻した事でもありません。
わたぬきは違う世界に渡って過去と似た世界に戻ったという事でしょうか。
戻りたかった世界に戻った時、ずっとそこに居続けたいと思うかもしれません。
楽しかったあの頃に戻って、居心地の良い場所に居続けたいと思うようになるかもしれません。
でも、それはただ思い出に浸るというのではなく、過去に囚われるという事です。
それは自分の世界に閉じ籠るという事です。
楽しくて幸せな事を求めているにも関わらず、実際はただ現実逃避をしているだけなのでしょう。
侑子はわたぬきに選択を求めます。
戻るのか、戻らないのか。
わたぬきは元いた世界に『戻る』事を選びます。
一度過去に戻る事で大切なものを失ったという事に少しは心の整理が出来たのではと感じます。
決して消える事のない心残りを残して。
わたぬきは過去から元の世界に戻って来ました。
これからの自分の行く末の為に、そして必要としてくれる人達の為に。
今回のホリック戻というのはわたぬきが失ったものとどう向き合い、どのようにして現実に戻るかという話だと感じます。
失ったものが自分にとって大切なものであればあるほど過去に囚われるものです。
そして囚われてはいけないと分かっていても、囚われ続ける事もあります。
だけど自分を縛っているのは自分なんですね。
だから囚われを無くすのも自分しかいません。
囚われているものと向き合い、その囚われを無くすのは自分しかいないという事を改めて思い出させてくれました。
これで戻の話は結末を迎えたと思っていましたが、元の世界に戻った後の話が第4巻であるようです。
4巻が楽しみです。