『全日本パ・リーグ党宣言』 純パの会 | 手当たり次第の読書日記

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新旧は全くお構いなく、読んだ本・好きな本について書いていきます。ジャンルはミステリに相当偏りつつ、児童文学やマンガ、司馬遼太郎なども混ざるでしょう。
新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。

純パの会
全日本パ・リーグ党宣言

前にも書いたことがあったと思いますが、昔の時事ネタ、雑誌の記事なんていうものを、後になってから読むと意外と面白いんですよね。
創元推理文庫が2007年に中村雅楽全集を出してくれるなどとは神ならぬ身の知るよしもなかった十数年前、東京は神田神保町の古書店街で昭和30年代のミステリ雑誌を探しまくったことがありましたが、これが予想以上の大収穫でした。

目当ての小説以外のエッセイやコラムを、30年後の目で読むのがすこぶる面白かったんです。大相撲の中継をNHK以外に日本テレビでもやっていたり、特撮というものの出始めの頃で、あれは一体どうやってやるんだろうと視聴者が不思議がっていたり……。
という訳で、ふと思いついて父親の本棚からこんなものを引っ張り出してきてみました。20年前に出た本です。
純パの会とは一体何なのかというと、文藝春秋編集委員宮田親平氏という人が自社の「Number」誌に発表した「七たび生れ変っても、我、パ・リーグを愛す」という一文をきっかけに、1982年に結成された会とのこと。この本のあとがきには、


 『純パの会』とは略称「P・P」で、Pure PacificとPacific promotionの両義を意味し、「パ・リーグの試合をできるだけ多く観戦する」「純パ・ファンの増加に努める」──このことによって日本のプロ野球に定着化した不公正、いわば「偏セ値」を是正しようとするのが、その運動方針です。


とあります。

早い話が、へそまがりの集団(爆)。
いや、この会発足当時のプロ野球人気の状況からいえば、そうですよ。後楽園球場(!)におけるファイターズの主催試合の様子は、こんな風に描写されているんです。


 ナイターにかけつけるために水道橋駅に降り立つと、そこからのぞけるジャンボスタンドは、夕暮れの中に空しく電灯に照らされて、人っ子一人見当たらず、青と赤に染め分けられた座席だけが、ヤケに鮮やかに映っていることが多い。
 「アレッ、野球やってないのにライトがついてらあ」
 「バカ。パ・リーグの試合なんだよ。いつもガラガラなんだ」
 プラットホームの高校生らの不快な囁きを耳から追い払うように、早足で球場へ。ところがここからが一苦労なのだ。
 信じない向きもあるかもしれないが、パのゲームにもダフ屋が出ているのである。ところが彼等は常態に反して切符を正価より安く売るのだ。どこからかタダで配られた入場券を集めてきて、なにがしかの値段で客に売りつけるのであるらしい。
 このダフ屋諸氏の商売熱心にはホトホト感心する。が、断固として正規に入場券を求める。それはぼくが型通りの法治主義者だからではない。この赤字チームをひきとり、パを救ってくれた大社オーナーへの感謝の、ぼくなりのささやかな意思表示なのである。


北海道移転以来のファンも知識としては知っている苦闘の時代ですが、その当時にリアルタイムで書かれた文章にこうあるのを見ると、やはり、胸に突き刺さるものが違います(苦笑)。
「20年前に将来有望な若手として挙がってた名前は誰だったっけなー♪」という程度の、全く軽い気持ちで開いてみた本でしたが……大袈裟に言うと、1ページ読むごとに目頭は熱くなり胸に込み上げるものがある、という状態になってしまいました。
人気上昇のために、「最大の隘路は、フランチャイズが東京地区と関西地区に偏していることである」と書かれています。「ライオンズに見捨てられた、しかし大票田を持つ福岡の平和台に一チームを移す、またあまりにも老朽化し、地の利の悪い川崎球場のロッテが新天地を見いだすなどの工作が必要であろう。が、これらは貧寒たるぼくらファンの手にとどきかねる経営、行政サイドの領域である……こんなのを読むと、20年前に戻って筆者に告げたくなってしまいます。本当にそうなったんですよ!って。
今、スポーツニュースのキャンプ情報はパのチームの話題が花盛りです。練習試合で2イニング投げただけでも「ダルビッシュ初登板」と夕刊のテレビ欄にわざわざ載るし、「報道ステーション」ではイーグルス野村監督に密着取材。書店へ行けばムネリンと西岡剛が「プロ野球ai」の表紙を飾っていて、テレビをつければマー君出演のCM。
うっかり当たり前のように思ってしまいがちだけれど、こんなこと、以前はとても考えられないことだったんですよね、そういえば……。