『パーカー・パインの事件簿』アガサ・クリスティー | 手当たり次第の読書日記

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新選組と北海道日本ハムファイターズとコンサドーレ札幌のファンブログでは断じてありません(笑)。

著者: アガサ・クリスティ, 厚木 淳
タイトル: パーカー・パインの事件簿
前回の続き。
ヨン様ファンを「妓生観光」呼ばわりする人がいる。これは何故なのか? 日本人が韓国人を仰ぎ見るなんてありえない、日本人は韓国人を見下すものだ、と脳味噌に彫り込まれてしまってる人(特に中高年、特に男性)がいるというのは容易に想像できますが、しかしそれだけではないでしょう。
ヨン様ファンには、彼よりはるかに年上の女性が数多く存在するためだと思われます。この年齢差では、たとえ夢想の中でさえ、恋仲になることを想定などできまい。すると彼女達の欲望は何なのか。たとえ無自覚にもせよ、若く美しい男を「買っている」のではないか……というところでしょうか?
しかし男はどうか知りませんが、婦女子一般が憧れのスターに抱くときめきは、そういう具体的なものではない気がします。前回取り上げた佐野洋子の本にも、「六十四歳の女に性欲があるかどうか、自分でも判断がつかなかった。無理に掘って掘って掘りまくれば、川底の砂金の一つぶの様なものが見つかるかもしれないが、もしそれを使用せよと云われたら、私はベッカム様のために使用したいとは思わなかった」とありますし。
ポアロやミス・マープルほど有名ではないけど、面白さでは引けを取らないパーカー・パイン。この短編集の第1話は「中年の人妻の事件」です。
柄でもないのに火遊びしたがる夫に疲れ果てた妻に、悩み解決人のパイン氏は1人の美青年を紹介します。着飾って食事やダンスに出かけ、会話を楽しみ、元気を取り戻す彼女。やがて彼女は、彼に高価な贈り物をしようとしますが、そのことで彼を怒らせてしまいます。自分はジゴロだ、でもあなたに出会ったから生まれ変わる。そう誓って彼は去ります。母親の形見だという指輪と、毎年この日に新聞に伝言を載せるという約束を残して。
……という夢のような秘密を彼女は持つことになるわけですが、実はこの別れまでが全部、パイン氏の書いたシナリオなんですね。自分のお洒落のためにお金を使い、美青年に優しくエスコートされて、確かにストレス発散にはなった。しかし、将来にわたって彼女が不幸ではなくなり、アホな夫ごときに心を煩わされなくなるためには、それだけでは不十分。彼との思い出が、本物の「ロマンス」となることが必要だったというわけです。
「女はね、一時の激情なら、ずたずたに引き裂いてしまうし、しかもそこからはなんの利益も得ないものだが、ロマンスなら大切に保存して、末長くながめることができるのだ」
婦女子に必要なのは情事にあらず。ロマンスです。