4月の終わり、一人の男性が息を引き取った  


 大腿部に彫り物あり、歯が数本


 口数は少なく。存在感あり。


 入居約10年。


 ホームドクターからは、余命一ヶ月


 在宅酸素での療養と。


 彼は綺麗好き。


 なんとか彼のしたいことを。


 彼に何が欲しい?と。


 ほうきとちりとりが欲しい


 そんなもんくらいあげます。


 次の日ホームセンターで購入し


 プレゼント。


 その日から彼は、どんどん元気に。


 ぴしーっと綺麗な引き出しの中


 チリ一つない居室。


 彼は車椅子でノボーン。


 目はギラついてる


 彼は世間では反社会的な組織のナンバー2だった


 という。


 私は彼が好きで  やっさん、やっさん


 大きな声で呼ぶと、あほか? 

 

 そばで大きな声


 聞こえてるぞ。


 おまえは、あほや。


 いつも、枯れた声でそう言われ続けてた


 急激に体幹に浮腫が見られるように。


 しっかり気丈が災い、寝付かなかった。


 粗相をしても自分で洗ったり


 最後まで自分を。


 十年の間に、二組プレゼントした。


 ほうきとちりとり


 部屋の隅に。


 引き出しはピシッと畳んだ着類


 もう、あほか。を言われることがなくなった


 私は男性の利用者さんのうちの大好き


 一番、二番である。


 彼には兄弟もいて、甥や姪もいる。


 しかし、時間がないとお知らせしても、


 誰も面会に来ず。


 福祉課ての処理となった。


 私がしゃしゃりでても良かったのかも。


 今回は何故か何もてきなかった。


 彼がなにもするな。


 わしはこれていいんや。


 そんな気がしたから。


 でも、さみしいよ。


 私の一番二番やで。


 忘れへん。そして、あほか。


 私に言う唯一の人だ。


 忘れへんから。


 余命一月から。十年近く。


 儲けさせてくれてありがとう


 また、出会いましょう


 そん時は、あほか、


 聞かせてね。