トラネキサム酸の作用機序について その2 | 青山ヒフ科クリニック院長Dr.亀山のオフィシャルブログ

青山ヒフ科クリニック院長Dr.亀山のオフィシャルブログ

表参道にある青山ヒフ科クリニック 院長 亀山孝一郎のブログです。

4.トラネキサム酸の表皮細胞、内皮細胞への作用

興味深いことに、上の図に示すように表皮細胞や血管の内腔を覆う内皮細胞は常に自分自身でプラスミンやトリプシンなどの蛋白分解酵素を産生して自分自身のPAR1,PAR2という蛋白分解酵素受容体を刺激しています。その結果表皮細胞はメラノサイトが産生したメラニンの取り込みを行ったり、アクネ菌などの異物を認識したり、貪食する作用を維持し、インターロイキン1や活性酸素を産生して異物の侵入に備えています。そしてカリクレインは角層の剥離を促進して、異物を含む表皮成分の排出を促進します。血管内皮細胞も血管透過性を上げて、異物が侵入すると直ちに炎症性細胞を血管周囲に配置するようにしています。いわばごく弱い慢性炎症を起こしています。この程度が適正であれば問題はないのですが、炎症の程度が激しくなると、動脈硬化、糖尿病、高血圧、ニキビ、赤ら顔、毛穴の開きやシミ、しわ、皮膚バリア機能低下などの皮膚トラブルを引き起こします。この過剰な炎症を抑制するのがトラネキサム酸です。 上の図で示した黄色いバツの部分をトラネキサム酸は抑制します。トラネキサム酸やアドナを外用したりイオン導入すると、瞬時に肌は白くなり、赤みが低下します。これはトラネキサム酸が血管内や細胞外のプラスミンに結合して、プラスミンがPAR1に結合するのを抑制する以外に、トラネキサム酸やアドナが蛋白分解酵素受容体に活性化後に起こるフォスフォリパーゼCという酵素の活性化や細胞内へのカルシウムの流入というシグナル伝達に必要な要素を抑えて、蛋白分解酵素酵素体の活性化を抑制するために起こる現象です(下図参照)。

平常状態では表皮細胞、内皮細胞、肥満細胞などは蛋白分解酵素を産生して、ある程度の血管透過性を上げて、目に見えない穏やかな炎症を起こしています。この時皮膚は内皮細胞隙間から赤血球が透けて見え赤くなります。

この状態にトラネキサム酸を投与すると上のバツ印の部分が抑制されます。

その結果上の図に示すように内皮細胞を結びつけるVEカドヘリンがしっかりと内皮細胞を結び付けて、赤血球が血管の外から見えなくなり、皮膚は白くなり、赤みが低下するのです。

上の図に示すように表皮細胞は自分自身で産生したカリクレインや肥満細胞が産生するトリプターゼという蛋白分解酵素で自らの蛋白分解酵素受容体であるPAR2を刺激して、メラノサイトが産生したメラニンを表皮細胞内に取り込んで、皮膚全体にメラニンが広がるようにして、皮膚を褐色にして紫外線によるダメージから皮膚を保護しています。しかしながら、この反応が強くなりすぎると皮膚の色素沈着が起こってしまいます。上の図に示すようにトラネキサム酸は黄色い矢印で示した部分を抑制して美白作用、抗炎症作用を発揮します。

トラネキサム酸はウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベイター(uPA)を抑制してプラスミンの産生を抑えます。

さらに、トラネキサム酸はプラスミンが‘PAR2の活性化を抑制して表皮角化細胞がメラニンを取り込むのを抑制します。

ビタミンCが直接メラニン産生を抑制するのとは全く異なる機序で美白を実現します。

なお、トラネキサム酸がメラニン産生を直接抑制するという報告と、抑制しないという報告があります。

これについては今後の検討が必要です。