なぜ飽食すると皮脂分泌が盛んになるの:ミトコンドリアからクエン酸が漏れて皮脂になるから | 青山ヒフ科クリニック院長Dr.亀山のオフィシャルブログ

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表参道にある青山ヒフ科クリニック 院長 亀山孝一郎のブログです。

前回、ビタミンCは脂肪前駆細胞が脂肪細胞に分化するのを抑制して

成熟した脂肪細胞に脂肪が蓄積するのを抑制すると報告しました。

太ると脂肪細胞に脂肪が蓄積して肥満になります。

実は全く同じメカニズムで皮脂腺細胞に脂肪が蓄積するのです。

 

皮脂腺細胞特異的な皮脂合成酵素や皮脂合成経路はないのです。

 

皮脂腺細胞に蓄積した皮脂はやがて皮脂として分泌されますが

この分泌が激しくなると毛穴の開き、赤ら顔、ニキビなどのトラブルが生じるのです。

皮脂腺細胞で皮脂を合成する酵素は表皮細胞などの一般の細胞内で脂質が合成される機序と同じなのです。

 

皮膚科医はしばしば皮膚の現象のみを観察してそれを治そうとします。

見て診断して治療を行うのは皮膚科医として当然のことですが

皮膚の毛穴が開くという現象がなぜ起こるのかを理解して

皮脂分泌の根本を理解してそれを治療に生かすことも大切なのです。

 

上の図は”ミトコンドリアはどこからきたか”というNHK出版の表皮で細胞の電子顕微鏡写真が載っています。

右の写真の細胞質に存在する赤い粒子がミトコンドリアです。

ミトコンドリアは赤血球以外のすべての細胞に数百個から数千個存在します。

ミトコンドリアではATPという高エネルギー物質が産生されます、いわばエネルギー産生工場です。

 

皮脂分泌は代謝と密接に関係しています。

代謝は外から取り込んだ炭水化物、脂質、蛋白質を酸化的リン酸化反応を行いミトコンドリアでATPを作る異化反応と

そしてATPをもとにして表皮細胞の増殖やコラーゲンの産生が行われる同化反応からなります。

要は外から取り込んだものを、分解してエネルギーを得て、そのエネルギーを利用して

自分自身の蛋白、脂質などを合成することが代謝です。

炭水化物が分解して生じたピルビン酸、アミノ酸、脂肪酸は血管から細胞質を経てミトコンドリア内にとりこまれ

アセチルCoAをへてクエン酸回路で代謝されNADHとなります。

NADHは電子伝達系に電子を与え、最終的にATP合成酵素の作用でATPが作られます。

NADHは電子伝達系に電子を与え、NAD+となります。

NADHはニコチンアミドアデニンヂヌクレオチドという電子の供与体です。

電子を供与するとNAD+と表現されます。

 

NAD+はSIRT(サーチュイン)という若返り酵素を活性化してAMPKというリン酸化酵素を活性化します。

この経路と機構が皮脂合成の制御のポイントなのですが、”NAD+/SIRT-AMPK経路” については次回説明します。

 

ATPのエネルギーを利用して、細胞の合成、骨格筋や心筋平滑筋の収縮、神経伝達物質の産生

そして蛋白質の合成や細胞の増殖が起こります。

ATPは生物が生きていくための根幹の活動に必要なのです。

ATPなくしては人は生きていくことができません。

これら栄養素をミトコンドリア内に取り込んで代謝をするためにはビタミンCや

レチノール(ビタミンA)そしてビタミンB群が必須です。

ビタミンABCが不足すると疲れやすくなるのはATPが十分に産生されなくなるからです。

 

上の図にミトコンドリアと細胞質の関係を示します。ミトコンドリアには血液中から取り込まれた

3大栄養素が細胞質を経て取り込まれます。細胞質に取り込まれた細胞酸の一部は

上の図の右側に示すようにアシルCoAを経て皮脂になります。

上の図に示すように飢餓状態や腹8分の食事を摂取している場合はミトコンドリア内で生じたクエン酸は

細胞質に漏れ出すことはなくATP合成に使用されます。

 

ところが過食をしてATPが有り余っている状態ではアセチルCoAをへてクエン酸まで代謝された栄養素は

ATP合成には使用されず、生じたクエン酸は細胞質に漏れ出してしまいます。

もれ出したクエン酸はアセチルCoAを経てアセチルCoAカルボキシラーゼという酵素の作用でマロニルCoAを経て

アシルCoAとなり脂肪酸となり、皮脂の成分となります。

上の図の横の赤い矢印で示した部分です。

 

要は飽食すると血液中からの脂質の取り込みが増加するだけでなく(上の図の縦の赤い矢印です)

ミトコンドリアからクエン酸が漏れ出して皮脂が合成されるのです(上の図の横の赤い矢印です)。

ビタミンCやカルニチンがたくさんあると血液中から細胞質にとりこまれた脂肪酸は皮脂成分にはあまりならずに

ミトコンドリアに取り込まれてATP産生に使われるようになりますが、飽食しているとエネルギー産生の

過程で生じたクエン酸がミトコンドリアの外に飛び出して皮脂合成に回ってしまうのです。

クエン酸がミトコンドリアから細胞質に漏れ出すのをビタミンB3はある程度抑制しますが

ATP過剰状態ではビタミンB3のこの作用は弱まり、大量のクエン酸が漏れて皮脂合成に使用されてしまうのです。

過剰なATPはイソクエン酸脱水素酵素を抑制してクエン酸回路を停止してしまい、

クエン酸を細胞質に漏れ出させる作用を持っています。

 

要は、ビタミンABCがいくら大量に組織に存在していても、飽食状態ではビタミンABCで活性化したミトコンドリアは

細胞質での皮脂合成をある程度アシストしてしまうということになるのです。

 

ちなみにATPは毎日体重と同じくらいの量かそれ以上がが産生され分解されます。

膨大な量ですね。

このATPやその前駆体であるNAD+の性質や細胞に存在するAMPKをうまく利用することが

皮脂抑制のポイントになります。

皮脂を抑制しても代謝を抑制しては、代謝の盛んなみずみずしい透明感のある肌は実現できません。

代謝を上げて毛穴を閉じることを可能にするのが、ビタミンABCグルタチオンを使用する

青山ヒフ科クリニックの治療法なのです。