新型コロナウイルス感染症に負けないがん診療を目指して
新年あけましておめでとうございます。
今月から、西日本の先生方へ、九州がんセンターからのがん診療の情報発信を開始させていただきます。どうぞ宜しくお願い申し上げます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で猛威をふるい、先行きが見えない状況です。がんの患者さんは、新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいという報告があります。さらに、がん検診の中断や患者さんご自身の受診抑制の結果として、進行がん患者さんが増加するのではないかと危惧されています。一方で、COVID-19対策で診療に制限が生じており、私たちがんの医療者の心も穏やかではありません。
しかし、当センターでは、患者さんやご家族の協力も得ながら、考えうる最大の予防策を講じており、現在は通常の診療レベルに戻しています。また、がん検診で要精検とされたようながんの確定診断がついていない(がん疑いの)患者さんでも、積極的に受入れています。さらに、全国でも有数の実績を上げている臨床試験や治験も継続しています。
九州で唯一のがん専門診療施設として、地域の先生方との連携を深め、最新のがん情報を共有することで、一人でも多くのがん患者さん・ご家族の満足度を高めることが私たちの使命だと考え、今後当センターの臨床情報を発信して参ります。
藤 也寸志院長
九州がんセンターの理念・ビジョンと診療の概要
当センターは1972年に設立され、初代院長・二代院長の言葉を含んだ基本理念 <私たちは「病む人の気持ちを」、そして「家族の気持ちを」尊重し、温かく思いやりのある、最良のがん医療をめざします>を常に心に刻み、患者さんやご家族の気持ちに寄り添いながら、地域の先生方と全スタッフが一丸となって診療に臨んでいます。
現在、福岡県の『都道府県がん診療連携拠点病院』および『がんゲノム医療拠点病院』に国指定されており、福岡に限らず九州のがん診療の拠点として活動をしています。入院患者さんの居住地を見ると、当センターが位置する福岡糸島2次医療圏からは約40%であり、半数以上は九州を中心とした県外を含む2次医療圏外からの受診となっています。福岡都市高速道路の野多目インターが病院前にあり、遠方からの受診でも容易です。
当センターは、2016年に全面建替えによる新病院がオープンして新たな一歩を踏み出しました。「患者さんにもご家族にもスタッフにも優しい日本をリードするがん専門病院」を新生九州がんセンターのビジョンとして掲げ、さらに“世界トップレベルのがん専門病院”を目指しています。そして、そのビジョンを達成するために、がんの克服を目指す診療・教育・研究体制をさらに充実させるだけでなく、“全職種が参加して一人の患者さんを支えるチーム医療の実践”および”地域の先生方との緊密な医療連携“を強力に推進しています。
昨年10月に、アメリカNewsweek誌が行ったWorld’s Best Hospitals 2021のがん診療部門で、世界のトップ200病院にランクインしました。これは、4万人を越える世界の医療エキスパートによる評価の結果で、当センターが先生方とともに行う“がん医療の総合力”の高さを示しているのだと思っています。
九州がんセンターの診療体制とその特徴
当センター全体の主な診療実績は表の通りですが、数に表れない活動も広範かつ積極的に行っていますので、それらの取り組みについてご紹介いたします。
(1) 患者さんに“寄り添う”診療体制
その最大の特徴は、診療科間・部門間の垣根がとても低く、真の意味でのチーム医療が実践できていることです。そして、標準治療を確実に行いながら、新しい治療法の開発を目指して、最先端の臨床試験や治験を数多く行っています。
①キャンサーボードの推進
多診療科・専門的多職種による合同カンファレンスである『キャンサーボード』を、初診患者の70%に開催しています。一診療科だけの判断ではなく、外科・内科・放射線科など複数の診療科、さらに看護師や薬剤師、臨床心理士なども含む多職種の判断も取り入れて、“一人一人の患者さんにとってベストの治療は何か”を判断しています。
②年齢や全身状態を考慮した診療の展開
全国に先駆けて開設した『老年腫瘍科』による高齢者機能評価、『腫瘍循環器科』による心機能評価などを治療開始前に行い、治療適応決定や治療による合併症の予防に努めています。
③薬物療法に対する取り組み
進歩が著しい抗がん薬治療に関して、医師個人に任せるのではなく、エビデンスに基づき院内で承認・登録された方法でのみ施行可能にしています。外来での薬物治療を推進していますが、一方では遠方などの理由で通院が困難な患者さんには、希望を最優先として入院での治療も行っています。
④多数のがん関連資格の取得者による診療
高度ながん診療のためには、各職種のプロとしての活動が必要です。当院はがん専門診療施設として、きわめて多数の各専門学会の認定医・専門医・指導医やがん治療認定医などを有しています。がん診療連携拠点病院でも全国的に人材の雇用が容易ではない放射線治療医や専従病理診断医(各3人)なども配置しています。また、がん専門・認定看護師、がん薬物療法認定薬剤師、放射線治療専門技師など多くの人材を確保しています。
(2) 新しい治療法の開発
①質の高い臨床試験・治験の推進
当センターでは、がん専門診療施設としての使命の一つである臨床研究にも力を入れています。『臨床研究センター』に多くのCRC(Clinical Research Coordinator)を配置し、質の高い臨床研究を進めています。医師主導臨床試験や限定された施設でのみ可能な第1相試験を含む新薬の治験(世界規模で行われるグローバル試験を含む)を多数施行しており、この分野で日本のリーダー施設の1つになっています。標準的な治療法がなくなった多くの患者さんが、積極的に参加されています。
②がんゲノム医療の推進
近年のがんゲノム医療の発展により、自分のがんの遺伝子異常の検査を希望される患者さんが増えてきています。当センターは国指定の『がんゲノム医療拠点病院』として、患者さん個々の遺伝子異常に基づく治療法について、多職種で検討するエキスパートパネルを開催しています。検査やエキスパートパネルの体制構築に加えて、患者さんの疑問や相談、心配事に対応する“がん遺伝外来”なども開設しています。
(3) 充実した患者・家族へのサポート体制
『患者・家族支援センター』では、患者さんやご家族の広範囲のご相談に対応可能ながん相談支援センターや緩和ケアセンター、さらに先生方との緊密な連携のための地域連携室が有機的に交わりながら、患者さんやご家族をサポートしています。
①がん相談支援センター
当センターのがん相談支援センターは、“認定がん相談支援センター”(全国で24施設が指定)として活動しており、院内・院外からきわめて多くの相談に対応しています。多数のがん専門相談員(看護師8人、医療ソーシャルワーカー4人)を配置しています。さらに、患者さんの就労に関する支援を行う社会保険労務士(福岡県との協働)が常駐しており、仕事と治療の両立支援コーディネーター2人とともに、がん患者さんの就労支援も行っています。
②緩和ケアセンター
緩和担当医師や看護師だけでなく、臨床心理士や薬剤師など多職種が連携して、緩和ケアチーム、緩和ケア外来、がん看護外来等を含む緩和ケアのチーム医療を提供しています。地域の医療機関とも連携し、院内だけでなく地域の緩和ケアの質的向上を図る体制を整備しています。 また、患者さんが望む人生の最終段階における医療やケアについて、医療・介護従事者やケアチーム等と繰り返し話し合い共有するアドバンス・ケア・プランニング(ACP)の取り組みを病院全体で行っています。
九州がんセンターの地域医療連携と地域への情報発信
①地域の医療機関への訪問
診療所を中心とした地域の医療機関の訪問によって、顔の見える医療連携を推進しています。幹部医師や診療科長に加えて、がん相談支援センター看護師長や事務員など多職種で年間約150施設に訪問させていただいています。
その上で、当センターの連携医療機関として登録していただき、“かかりつけ医をもちましょう”の呼びかけとともに、ホームページや院内に掲示させていただいています。
②在宅医療の推進
当センターでは、がん専門診療施設として初めて『訪問看護ステーション』を開設し、がん患者さんの在宅医療を行っています。この目的は、私たち病院勤務の医師や看護師の在宅医療への理解を深めることもあります。病棟看護師が訪問時に随行したり、在宅での状況を主治医や病棟看護師にフィードバックすることにより、在宅医療の理解を深めています。また、全病棟に退院調整専従看護師を配置し、外来での入退院支援センターの活動と協働してスムーズな退院へとつなげています。
③地域への情報発信
がん診療連携拠点病院として、患者さんを含む市民や地域の医療者に向けて、がんに関する多くの情報発信をしています。
まとめ
今後、おそらく長期になるがん医療と新型コロナウイルスとの共存をどうしていくか、がん患者さんのためには何がベストかを、先生方とともに常に考え続ける覚悟が必要だと思います。九州で唯一のがん専門診療施設として、地域の先生方との連携を深めて、最新のがん情報を共有して、「病む人の気持ちを」、さらに「家族の気持ちを」常に考えながら、一人でも多くのがん患者さん・ご家族の満足度を高めることが私たちの使命だと思っています。
皆様方のご指導ご鞭撻の程、何卒宜しくお願い申し上げます。
藤 也寸志(とう やすし)院長
■略歴
1984年 九州大学医学部卒業
1989年 九州大学大学院医学研究科博士課程修了(医学博士)
1992年 M.D.Anderson Cancer Center,Tumor Biology(Houston,USA)
1995年 九州大学医学部第二外科・助手
1997年 国立病院(現・国立病院機構)九州がんセンター
(臨床研究部医師、消化器外科医師、消化器外科医長、消化器外科部長、専任診療部長、統括診療部長、副院長を経て、2015年より院長)
2017年 日本学術会議・連携会員(第24期)
■所属学会
日本食道学会 監事
日本気管食道科学会 常任理事
がん治療認定医機構 理事、がん治療認定医
日本胸部外科学会 評議員
日本癌治療学会 代議員
日本医療マネジメント学会 評議員
お問い合わせ先
独立行政法人国立病院機構 九州がんセンター がん相談支援センター(地域連携室)
TEL:092-542-8532 8:30~16:00
FAX:092-541-3390
メールアドレス:601-keieikikaku@mail.hosp.go.jp
ホームページ:https://kyushu-cc.hosp.go.jp/index.html