街とその不確かな壁  村上春樹 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

 

 

 

 

十七歳のぼくに、十六歳のきみが教えてくれた街は高い壁に囲まれており、本当のきみは図書館に勤めていると言う。そこでは、人々は古い共同住宅に住み、簡素だが不自由のない暮らしをしている。その街に入り、本当のきみに会いたいと望んだぼくは、どうすればそこに入れるか訊ねた。きみは答える。中に入るのはとてもむずかしく、特別な資格がいる。そして、出ていくことは更にむずかしいと。しかし、望めばそこに入れるとも言う。図書館の書庫で<古い夢>を読む<夢読み>の仕事が、ぼくのために用意されているのだから。但し、心から何かを望むことは、そんなに簡単ではない。

 

 

 

 

初期の頃の村上作品が好きでした。うさぎ飛び出すハート

 

『風の歌を聴け』だとか、羊男の出てくるやつとか。

なかでも『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は、最高にハート好き。

一番好きかも。。。

 

だから、『世界の終りと~』の焼き直しのようなこの作品、期待度MAXで臨みました。

 

 

図書館、ジャズ、井戸、耳、小じゃれたパスタ料理にワイン、白いテニスシューズ、薪ストーブ、春の野原の若い兎、薬草茶に、イエロー・サブマリン、……。

上質で質素、よく使いこまれた品々で満たされ、しかし現実とは違う、よその世界。

そして、こんなセリフが、

頭に皿を載せているときには、空を見上げない方がいいってことさ

 

 

村上ワールドだぁ。ラブラブ

 

かつて、そこは、私にとっても、しんどくなったら逃げ込みたくなる不思議な世界でした。

しかし、逃げて来たはずなのに、ふと気づくと、その街は、恐怖という壁で囲まれていて、もはや壁の外に出ることを拒まれ、その恐怖と闘ってまで出る気持ちなどおきなくなってしまうという怖ろしい世界でもありました。

 

それでも、取り敢えず多くを望まなければ、壁のなかにいれば、楽ちんでいられるのは魅力的でもあり。。。

 

 

 

”本当の彼女”のいる世界へ行くことを強く望んだぼくは、希望どおり図書館の<夢読み>の仕事に就きます。

そこで彼女と過ごし、一日の終わりには、彼女を家まで送っていくという、望み通りの日々が続きます。

 

しかし、街に入る前に門番に、自分の影と引き離されてしまい、ぼくから離れた影は日に日に弱っていきます。

ぼくは影を助けるため、街からの脱出を試みますが、土壇場でぼくは街に残ることを選び、影だけを逃がします。

はたして、影は元の世界に無事戻れたのだろうか。

 

わぉ~、『世界の終りと~』再読した~い。音符

あの棚の奥にハードカバーがあるのは解っているんだけど、メンドクサイ。

図書館で借りようかな。

 

 

第二部では、リアル世界で影のある私は、現実にそぐわないと感じながら日々を送っています。

ある朝、上司に辞職願をだし、地方のZ**町にある小さな図書館の館長として働き始め、そこで、前館長:子易さんから引き継ぎを受けるのですが、彼は既にこの世の人ではなく……。

この辺り、ゾクゾクします。ハート

 

その後、図書館に通うサヴァン症候群の少年:M**くんと出会い、彼を通して再び、もう一つの世界の物語へと繋がっていきます。

 

 

強く願うことで街にやってきたぼくには、もう影はありません。

街の不法侵入者である少年との結合をきっかけに、壁に囲まれた街からの帰還を試みるのですが、そこに必要とされるのが、無条件での影への信頼ピンクハートです。

影とは、いわば自分の分身であるのだから、突き詰めれば、自分自身を信じること になるのかな。

 

直球かい、甘いな。

と思いつつ良くも悪くも、あのころの村上作品が重なって、なんだかニヤついてしまいます。

結局、私も、甘くてゆるい物語が好きなのは変わってないんだな。笑ううさぎ笑

 

 

 

 ランニング

    

本 しかし、と私は思う、現実はおそらくひとつだけではない。現実とはいくつかの選択肢の中から、自分で選び取らなくてはならないものなのだ。

スニーカー 

 


 

 

 

 

 

 

【おまけ】

 

◆パラレルワールド?

あとがきで、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を出版した一九八五年に三十六歳だったとあります。

私の記憶では、まだ二十代だったと記憶しているのですが。

 

『ノルウェーの森』が苦手で、それ以降の作品から、ちょっと距離を置くようになっていて、気づいたら作者の年齢が、ぐんとアップアップされていてびっくりしたという記憶もあります。

鯖読んでた?とネット検索しても、それらしいのはヒットしないし、私の思い違いなんでしょうかね。

 

もしかして、パラレルワールドだったりする? 汗うさぎ

 

 

    

本 ぼくは思うのだが、この世界に心に秘密を抱かないものはいない。それは、人がこの世界を生き延びていくためには必要なことなのだ。

 そうじゃないのだろうか?

ロックグラスリキュール 

 

◆パラレルワールド2

 

    

本 そちらでは、いつだってどこかとどこかが戦をしていたからな。

ヒマワリ ヒマワリヒマワリヒマワリ 

 

どこにも戦争がない世界。

全ての人が強く望めば、叶うはずなのに。

心から望むことが、そんなに簡単ではない という証明になっているのが悲しい。