ウイリー・オハラ大尉が、ハーレムに戦死した黒人兵:ジョー・ロビンスの家を訪ねたのには、ある目的があった。戦場で負傷したオハラ大尉は、ジョーからの臓器移植で生き残った。手紙には、そのことが記されており、南部の名家出身の白人であるオハラにとって、それは屈辱以外のなにものでもなかった。老いた母親は、移植された心臓の音を聞かせてくれと頼むが拒否され、手紙を燃やされてしまう。
第2話 ジョーを訪ねた男
人種差別の権化のようなオハラ大尉です。
しかし、黒人が売った血液が、白人の輸血用に使われていることを聞かされるに及び改心し、母親の元を再訪するのですが……。
改心は、間に合わなかった。
ラストの天に唾する自業自得の結末は予想通り。
それでも、過ちをあらたむるにしくはなし。
だから、ちょっと悲しい。
毎週日曜日の新聞で、子ども向け紙面の「手塚塾」と称するコーナーで、手塚マンガが紹介されています。
そこで、上記の「ジョーを訪ねた男」も紹介されていました。
気になってネットで読んだものの、収録されている巻を図書館予約しました。
この巻には、昭和43年から45年にかけて、「プレイコミック」誌に掲載された大人向けの短編が16話収められています。
戦争や公害や人体実験や近親相姦などを扱ったダークな内容のものが多くて、お子たちには、ちょっとどうかなーと思いました。
鉄砲玉のチンピラヤクザが逃走中に、飛行機事故で遭難した客を助ける羽目に。警察から表彰され一躍有名人となり、講演会、インタビュー、座談会と引っ張りだこに。しかし、追われる身としては迷惑な話で、命の恩人であることを利用し、遭難者の所持する小型飛行機に乗せてもらうことに……。
第8話 そこに穴があった
これまた天に唾するものはで、偶然の人助けくらいで、犯した罪は贖えなく、偶然の罰を受けるってことですね。
さしずめ、天網恢恢疎にして漏らさずですか。
嵐の夜、助けた男:チャドが来るまでは、ジュリは、姉:ロザと父親の三人で暮らしていた。宇宙移民のテストのため、ここアリゾナ州スカイピークの宇宙基地の近くの谷間で、何代にもわたり隔離され家族だけで生活していた。ほどなく、ロザと恋仲になったチャド。しかし、チャドが病気であることが判明し、感染を恐れた父は彼を殺そうとした。父から逃げるためチャドと共に谷の上に出たロゼが見たものは……。
第9話 わが谷は未知なりき
これまた、ゾクッとする結末。
「火の鳥」とかでも、なかったかなぁ、こういうの。
南伊豆へ休暇がてらスケッチ旅行にでかけたぼくは、大学時代の悪友:小栗を訪ねた。小栗はロバンナという一頭のロバを室内で飼っていた。急な雷雨で一晩泊めてもらうことにしたぼくは、夜中に病気で臥せっていると聞いていた小栗夫人が、ロバンナに襲いかかるのを見た。そして、入室を禁じられていた地下室には……。
第15話 ロバンナよ
映画『ザ・フライ』のロババージョンでした。
ロバの目に浮かぶ涙に、涙です。
一九××年、二、三の大国による戦闘で、多発性核ミサイルが、世界中に致死量のプルトニウム灰をばらまいた。日本の空も同様だった。しかし、宇宙旅行用ユニット・カプセルで、二人の赤ん坊:みどりとジョウが育てられていた。彼らはビデオで学習し、恋に落ちた。ある日見たビデオで、愛し合うふたりのため、万国博では結婚式をあげることができると知り、ふたりはコトブキパビリオンを目指し、外の世界へと脱出した。
第16話 ふたりは空気の底に
背景には、太陽の塔が描かれていたりします。
ということは、一九七〇年?
取り敢えず、そーゆーことになっていない現在に感謝?かな。
でも、いまなったら即アウトやけど。
だって、宇宙旅行用ユニット・カプセルなんて、まだないもん。
いや、どっかに、もうあるんかな。
今、宇宙ステーションに滞在している人はどうなるんやろ。
などと考えると、これまたゾクッが止まりません。
ぼくたちが
こんど生まれるなら
……こんなにごった
空気の底じゃなくて
あのひろい星の
世界のどこかに
住みたいねえ