鈴鹿峠の桜の森の花の下を通ると、旅人は皆気が変になり、やがて、誰もがその道を避けるようになった。その後、山には一人の山賊が住みついた。しかし、山賊とて例外ではなく、狂気から逃れるすべはなかったものの、花の季節が過ぎると、その恐ろしさを忘れてしまい、女をさらってきては女房にしていた。八人目の女をさらったとき、その女は、先の六人の女房たちを殺すよう男に命じた。
怖いですねぇ。
これは、忘れっぽい私も、しっかり覚えております。
でも、「乙女の本棚」シリーズ大好きなので再読しました。
短編ですが、同シリーズの今まで読んだものと比べると文字が多いためか、絵少な目です。
しかし、その分、文字だけのページにも、数行で1ページを使ったり、背景と文字の色をそれぞれのシーンに合わせて変えたりと、細かな工夫が施されています。
一枚目の桜だけの絵が、めちゃめちゃ綺麗。
美しいです。
心がざわつくほどに。
しかし、女と山賊は、ちょっとイメージ違ってました。
私の希望としては、女はもっと妖艶であって欲しかったし、山賊は、イケメン風(顔は髪でかくれてて見えないけど)でシュッとし過ぎてる気がします。
もっとワイルド前面出しマッチョで、お願いしたかったです。
だって、この女、かなりな性悪。
この先、山賊をそそのかして、都へ引っ越し、夜毎、男にねだるのは、首、首、首。
生首なのですよ。
さすがに、描写のグロい画は、描かれてはいませんが。
まぁ、感じ方は人それぞれですがね。
今時は、こんなイメージなんでしょか。
山賊が女をオブって、初めてわが家へと向かう絵と、後に都からわが家へ戻る絵が、まったく同じ構図で描かれています。
これは、面白いなぁ。
しかし、背景の木の茂り具合とか、手前にあしらわれた草花、そして、注目すべきは、二人の表情が違うのです。
芸が細かい。
驚いたのは、その後、背中に負われた女が鬼化するのですが、なんと、上弦の肆:半天狗そっくりではないですか。
って、鬼は、みんなこんな顔やけど。
はてさて、女は鬼だったのか。
はたまた、男の幻だったのか。
いやいや、男さえも、存在していたのかどうか、妖しいことこの上ありません。
桜ゆえに、綺麗で妖しい物語。
頭上に花がありました。その下にひっそりと無限の虚空がみちていました。ひそひそと花が降ります。それだけのことです。外には何の秘密もないのでした。