国家反逆罪の罪に問われている研究者:キャサリン・クーパが姿を消した。特殊な生命維持装置から離れらない彼女は、研究所から出ることができず、裁判の関係者が定期的に研究所を訪れ、話を聞くことになっていた。その日、研究所に入った八人の検事局員とも、連絡が途絶えた。一週間後、日本の情報局を通して、ドイツ情報局から調査協力の依頼があり、僕:グアトは、同居するロジと、派遣された情報局員:セリンとともに、研究所を訪ねた。
「WWシリーズ」三作目です。
ものごとは、完全な形にはならない。素晴らしく画期的な発明や技術にも、なんらかの欠陥が必ずある。効き目のある手法ほど、副作用があり、リスクが伴うというのも常識だ。歴史を振り返れば、多くの新技術がそうだった。例外はほとんどないといっても良い。上手い話はない、が科学者の普通の感覚なのである。
そもそも、人類は繁栄しすぎたのだ。問題を解決しすぎて、地球上で一人勝ちとなりすぎて、バランスを崩してしまった。
↑のプロローグでのグアトの思考に、現在を重ねて、うすら寒い気持ちになりました。
未来に設定されたこの物語では、「子どもが生まれない問題」をめぐる思考なんですが、なんだか他の痛いところも同時に突かれてるような。
そして、こう続きます。
子供が生まれない問題も、新たに出現した障害のように見えるけれど、実は、自然のバランスを維持するための、大きな均質化の流れと見ることもできるだろう。増えすぎた種は、必ず滅びる。増えすぎたことが、環境を破壊するからだ。
クーパ博士の専門は、生命科学で、ツェリン博士と共同研究をしていた時期もあったらしく、でも、生命維持のため無菌環境が必要で、研究所の中に造られた無菌室のドームの中で暮らしていました。
そして、驚くことに、何らかの方法で子供、しかも女の子を産み、その子と二人で生活していたということが、判明します。
密室、女の子、研究者と言えば、そう、四季じゃないですかぁ。
で、女の子の名前が、「ミチル」とくれば。。。
期待するよぉ。
「F]にそっくりやん。
物語は、クーパ博士と娘のミチル、そして、検事局の人間二人、ウォーカロン二人、ロボット四人が、どのように姿を消したのかという謎を追いながら進みます。
そして、ラストには、意外な解が用意されていました。
マガタ博士も登場して、相変わらずその天才っぷりを披露してくれています。
クーパ博士とマガタ博士が違うのは、クーパ博士が内に向かって解決を図ったのに対し、マガタ博士は外に向かったってことでしょうか。
内には限界があります。
しかし、外は無限。
そういえば、クーパ博士のバーチャルの背景は、吹雪の極寒の世界なのに対して、マガタ博士のは、リゾート感満載のビーチってのも、格の違いを見たような気になります。
いや、あれは、クーパ博士ではなく、スーパ・コンピュータのゾフィだったっけ。
なんかねぇ、翻弄されます。
どれが、真実なのか。
あっ、そうだ、真実はないんだった。
それは、各自が考えた結果で、それぞれが納得して、自分の正解を手に入れる(グアト談)んでしたね。
それって、なんでもアリやん。
はぁ、よーわからんわ。
「うん、つまりね……、読んだのです(話をしたんだ)」
「何(の話)を?」
「それは、本質ではない」
と、ここは、グアトのまねっこして、うやむやにして凌ごう。
ふふふ、この応用は便利だ。
読んだことが重要なのであって、内容は……。
読んだのには間違いないしね。
それにしても、マガタ博士、グアトとの会話で、「今から百二十年まえから、百五年前まで」なんて言葉が、サラッと出てくるのには、苦笑しました。
どんだけ生きとんや。
ラストに、ボォッシュがペーシェンスと手をつないで歩くシーンが、好き。
<未来の議論、突飛な発想、新しいアイデア、それに、つまらないジョーク>と肩を並べるくらい、人間くさいと思いました。
あっ、ペーシェンスに、ミチルとロイディの記憶が。。。
こっちも、気になるんですけどぉ。
いつ、どーやって繋がるんかなぁ。
この先も、目が離せません。
喧しい時間があるから、静けさが聞こえるのと同じで、平穏というものを感じて、これが掛け替えのないものだ、と思い出した。