キャサリンはどのように子供を産んだのか?  森博嗣 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

 

 

 

国家反逆罪の罪に問われている研究者:キャサリン・クーパが姿を消した。特殊な生命維持装置から離れらない彼女は、研究所から出ることができず、裁判の関係者が定期的に研究所を訪れ、話を聞くことになっていた。その日、研究所に入った八人の検事局員とも、連絡が途絶えた。一週間後、日本の情報局を通して、ドイツ情報局から調査協力の依頼があり、僕:グアトは、同居するロジと、派遣された情報局員:セリンとともに、研究所を訪ねた。

 

 

 

 

「WWシリーズ」三作目です。

 

 

本 ものごとは、完全な形にはならない。素晴らしく画期的な発明や技術にも、なんらかの欠陥が必ずある。効き目のある手法ほど、副作用があり、リスクが伴うというのも常識だ。歴史を振り返れば、多くの新技術がそうだった。例外はほとんどないといっても良い。上手い話はない、が科学者の普通の感覚なのである。

 そもそも、人類は繁栄しすぎたのだ。問題を解決しすぎて、地球上で一人勝ちとなりすぎて、バランスを崩してしまった。

 

 

↑のプロローグでのグアトの思考に、現在を重ねて、うすら寒い気持ちになりました。

 

未来に設定されたこの物語では、「子どもが生まれない問題」をめぐる思考なんですが、なんだか他の痛いところも同時に突かれてるような。

 

そして、こう続きます。

 

 

本 子供が生まれない問題も、新たに出現した障害のように見えるけれど、実は、自然のバランスを維持するための、大きな均質化の流れと見ることもできるだろう。増えすぎた種は、必ず滅びる。増えすぎたことが、環境を破壊するからだ。

 

 

 

クーパ博士の専門は、生命科学で、ツェリン博士と共同研究をしていた時期もあったらしく、でも、生命維持のため無菌環境が必要で、研究所の中に造られた無菌室のドームの中で暮らしていました。

そして、驚くことに、何らかの方法で子供、しかも女の子を産み、その子と二人で生活していたということが、判明します。

 

密室、女の子、研究者と言えば、そう、四季じゃないですかぁ。

で、女の子の名前が、「ミチル」とくれば。。。

 

期待するよぉ。ラブ

「F]にそっくりやん。

 

 

物語は、クーパ博士と娘のミチル、そして、検事局の人間二人、ウォーカロン二人、ロボット四人が、どのように姿を消したのかという謎を追いながら進みます。

 

そして、ラストには、意外な解が用意されていました。

 

 

マガタ博士も登場して、相変わらずそのキラキラ天才っぷりを披露してくれています。

 

クーパ博士とマガタ博士が違うのは、クーパ博士が内に向かって解決を図ったのに対し、マガタ博士は外に向かったってことでしょうか。

内には限界があります。

しかし、外は無限。

 

そういえば、クーパ博士のバーチャルの背景は、吹雪の雪の結晶極寒の世界なのに対して、マガタ博士のは、リゾート感やしの木満載のビーチってのも、格の違いを見たような気になります。

いや、あれは、クーパ博士ではなく、スーパ・コンピュータのゾフィだったっけ。

 

 

なんかねぇ、翻弄されます。

どれが、真実なのか。

あっ、ひらめき電球そうだ、真実はないんだった。

 

それは、各自が考えた結果で、それぞれが納得して、自分の正解を手に入れる(グアト談)んでしたね。

それって、なんでもアリやん。

はぁ、よーわからんわ。

 

 

「うん、つまりね……、読んだのです(話をしたんだ)」

「何(の話)を?」

それは、本質ではない

 

と、ここは、グアトのまねっこオッドアイ猫して、うやむやにして凌ごう。

ふふふ、この応用は便利だ。

読んだことが重要なのであって、内容は……。

読んだのには間違いないしね。

 

 

 

それにしても、マガタ博士、グアトとの会話で、「今から百二十年まえから、百五年前まで」なんて言葉が、サラッと出てくるのには、苦笑しました。

どんだけ生きとんや。びっくりおいで

 

 

ラストに、ボォッシュがペーシェンスと手をつないで歩くシーンが、好き。

<未来の議論、突飛な発想、新しいアイデア、それに、つまらないジョーク>と肩を並べるくらい、人間くさいと思いました。

 

あっ、ペーシェンスに、ミチルとロイディの記憶が。。。

こっちも、気になるんですけどぉ。

いつ、どーやって繋がるんかなぁ。

この先も、目が離せません。

 

 

 

 

本 喧しい時間があるから、静けさが聞こえるのと同じで、平穏というものを感じて、これが掛け替えのないものだ、と思い出した。