ヨッパ谷への降下 自選ファンタジー傑作集  筒井康隆 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

ヨッパ谷への降下 自選ファンタジー傑作集 (新潮文庫)/新潮社
¥562
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「ナンセンス」ってなんだろう。
意味のないこと、バカげたこと、つまらないこと。
なんだけど、
私、なーんかイマイチよくわかりません。目あせる

ナンセンス文学ってどれやろ?
代表は、やっぱりアリスだよね。ウサギ
でも、アリスはもういいや。

で思い付いたのが、筒井康隆。
って、ちょっとベタやね。あせる

でも、下ネタ全開はイヤやな。
どーしよー。
サブタイトルに「ファンタジー」って入ってるし、「ヨッパ谷~」は川端康成賞受賞やし、うーん、これにしよ。

ということでチョイス。


「薬菜飯店」
偶然見つけた小さな中国料理店。主人とその孫娘:青娘(チンニャン)の二人で切り盛りする「薬菜飯店」は、薬膳料理店らしく、メニューには、料理名のあとに効能が書かれている。さっそく数品注文すると、あまりの旨さに思わずのどが鳴った。注文する料理はすべて旨い。しかし、身体に異変が。。。

「海皇」、「別館牡丹園」、「東天閣」、「群愛飯店」、「第一楼」。
冒頭には、実在した神戸の美味しい中華料理店(名店ばかり)の名前が並びます。
そーいえば、「海皇」って、昔あったなぁ。
ほかのお店も、場所を変えたり、リニューアルしてたりと、時の流れを感じます。

ん?
エッセイかと思う間もなく、下ネタトイレ満載やん。叫び
まぁ、食べたら出すのは当然の帰結やけど。
はぁ、のっけから、これか。
先が思いやられるわ。ガックリ

美味しく食べて、健康を取り戻せるのには文句ないけど、それには、代償がいるんだな。


「法子(ほっす)と雲界」★★★★★
法主が庵に戻ってみると、弟子の八忽(はつこつ)と十忽(じつこつ)が、言い争っていた。二人は、法主の留守中に、博打をしていた。しかし、金の代わりに木の葉を賭けていたと言う。それを聞いた法主は、二人の前に平伏した。法主曰く、……。

夢を説き、虚構の想像力を語る法主と、その弟子である雲海、八忽と十忽の九つのエピソード。

これがねぇ、どれも面白い。ラブラブ
それぞれ最後に、落語のようなオチがついてるのも楽しいです。

そして、<素炭の倒潰も待つに如かず>とか、<不悉の産も汗魚に勝る>だとかの意味不明のもっともらしい言い回しに、一瞬?
意味わからん。
出鱈目やん。
<瓢子の「乱語」>は、孔子の論語のバッタもんと判るけど、無知な私は、もしかして……と、一応検索サーチかけました。あせる

「薬菜飯店」の料理名もだけど、いかにも、ありそーなんだな、これが。
とんだナンセンスだよ。音譜
でも、作者の妄想虚構や夢を軽んじない姿勢が重ねられているようで、好もしく感じました。


「エロチック街道」
帰りの燃料がなくなるので、乗り換えてくれと途中でタクシーを降ろされた町:根岸は、最寄りの鉄道の駅がある根岸舞子まで、温泉隧道(トンネル)があり、温泉の湧き出る隧道を一気に滑り降りることができる。浴衣に着替え湯女の先導で、洞窟のような温泉隧道を進む。

ウォータースライダーならぬ、温泉温泉スライダー。
うわっ、これ、楽しそう。
だけど、タイトルどうりエロいです。ガックリ

うーん、ファンタジーか?これ。目汗
まぁ、男性読者には、ファンタジーかも。


「箪笥」
軽井沢の別荘で、ぼく:文麿は、一歳年上の毬子さんと、お祖父さまがフランスで買い付けたという今は使われていないロココ様式の箪笥を見つける。偶然、鍵を見つけた二人は、小抽出しの中身を一つ一つ確認するが、……。

次々にでてくるものに絶句。
やっぱりエロい。ガックリ
でも、毬子さんのカマトトぶりが笑える。音譜
そして、二年後、毬子さんが海軍士官と婚約したと聞いたぼくの独白に、意表を突かれます。
そう来るか。


「タマゴアゲハのいる里」
妻と旅行中のおれは、鄙びた寿司屋で夕食をとり、宿屋もしていると聞き泊まることにした。しかし、部屋は一つしかなく相部屋に。先客は、若い男女で、どうやら昆虫学者らしい。

酢の物にされる淡水のムスメイカが、ホラーっぽくて、これは苦手。汗
ラストになんだか希望が感じられる仕様なのですが、個人的には蝶々が嫌いで気持ち悪くて、私これダメです。


「九死虫」★★★★★
人類が絶滅した二万年後、八たび死に、九度目で最後の死を迎える九死虫が、生物の頂点に立っていた。死の到来を、なんとか先送りしようと試みながら果たせなかった八度目の死から蘇ったおれは、そんな自らの失敗を、子孫に教訓として残すことに。

これは、面白かったです。ラブラブ
九たびの死を許されても、一度の死と何ら変わることなく、やはり死に怯える九死虫。
否、先に八回死を経験し、もう後がないだけに、こっちの方が、より恐怖かも。叫び
それにしても、生への執着がスゴイのは、人と一緒。
だからこそ、身につまされるのです。


「秒読み」★★★★★
夜勤を終え、指令室を出たおれ:ボブ・ギャレット大佐は、エレベーター・ホールで同僚のモーリスと出会った。秒読みが始まると言う。核戦争だ。おれは、マイカーではなく、職員住宅へ向かう退勤バスに乗り込んだ。なぜなら、二年前のバスの中での異常な体験を思い出したからだ。おれの思惑通り、バスはハイスクール・バスに変化し、四十年前へと連れ戻した。おれが、二度目の人生で選んだのは……。

これキラキラ最高。
ラスト一行に、喝采クラッカーです。
ボブ、どうか人類のためにも、君の夢を叶えてくれ。
そして、その崇高な目的も忘れないでね。


「北極王」
ぼくは、おとうさんもおかあさんもいないので、夏休みに、どこへもつれていってもらえませんでした。でも、北極の王さまから、北極までの電車の切符と一緒に招待状が届き、ひとりで北極へ行ってきました。

夏休みの宿題の作文。
両親を交通事故で亡くし、おばあさんと暮らす宇野和博くんの嘘つき作文が、悲しい。
なんだかなぁ。ダウン


「あのふたり様子が変」★★★★★
いいなずけの佐登子と洋一は、いい雰囲気になり、一線を超えようと試みるが、思わぬ邪魔がはいり、悶々としながら思いを遂げることのできる場所を探して、迷路のような旧家を彷徨う。

これも、思いもよらないラストに脱力しました。
靄がかかっているかのように、「反戦」が、かすかに感じられるのが、好きです。
エロいけど、クスリとさせられ、この結末なら許せる。
二人にとっては、最悪やけど。ドクロ


「東京幻視」
地方の旧家を継ぐ父:伊左衛門は、村長を務め、たびたび上京した。そんな父が語る東京は、松太郎にとっては憧れだった。ある時、父が東京に連れて行ってくれることになった。しかし、東京へ発つ二日前から松太郎は熱を出して寝込んだ。耳下腺炎だった。当然、上京はならず……。

恋焦がれ夢にまで見る東京タワー東京。
しかし、時代は変化し、旧家の威光も衰退の一途を辿ります。
そして、松太郎の東京も、成長とともに色あせる。
無常。


「家」
海の中に立つ巨大な家には、障子で仕切られた部屋毎に、複数の家族が暮らしていた。他の階への行き来は禁止され、十日に一度、大人の男たちが伝馬船に乗って、どこからか食料や材木を運んでくる。一階の東の縁側の北端に住む隆夫は、南の縁側の西端に住む茜のことが気になっていた。暴風雨がくることを告げられた慰霊祭の夜、隆夫は熱を出した。その熱にまかせて、隆夫は、かねてからの疑問を、再度父にぶつけた。「伝馬船は、どこから、材木や、食べものを、とってくるんだい」 その質問は父の怒りを買い、隆夫は嵐の夜、部屋を追い出され。。。

これも、ホラーっぽいです。
ナンセンスホラー?叫び
詳細に語られる家が、謎めいていて、何が何だか分からないまま。
終わった。ガックリ


「ヨッパ谷への降下」
共に暮らしはじめた朱女(あけめ)は、「ご飯の中に社会が見えます」と口走るような女だった。彼女は、子供の頃、ヨッパグモの巣にひっかかり、半日後に助け出された。そんな朱女がヨッパ谷の吊り橋から落ちた。吊り橋の下には、半透明乳白色のヨッパグモの巣が張り巡らされている。ザイルを巻き付け、鎌で巣を切り裂きながら降下する。絡みつく糸は強靭で、ヨッパグモに齧られ、幻覚に襲われる。朱女を助けることができるのか。。。

叫び 気持ち悪ーっ。
ヨッパ谷って、ヨッパグモの巣くう谷のことだったのね。
あはは、谷から酔っ払いでも、落ちるのかと思ってました。あせる

このヨッパグモなる生物、クモと呼びながら蜘蛛類ではないのですね。
本体は、一粍にも満たない乳白色をした不透明の生物。
蜘蛛というよりダニっぽいね。
それが何千匹もが集まって、蜘蛛みたいな巣をつくるから、そう呼ばれてるみたい。
まぁ、小さいことは、気にしないのよ。

「ナンセンス」が見えたような気がしました。
ナンセンスは楽しい。音譜


本 「あのヨッパグモの巣の中には何が見えるの」
彼女は巣に眼を向けて答える。「いつもと同じです。あの中には政治が見えます」