13ヶ月と13週と13日と満月の夜  アレックス・シアラー | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

アレックス シアラー, Alex Shearer, 金原 瑞人
13ヵ月と13週と13日と満月の夜

真っ赤な髪にそばかす、ちょっとぽっちゃりしたカーリーはおしゃべりな12歳の少女。一人っ子で親友のような女きょうだいが欲しいと思っていた。新学期に、メレディスという転校生がおばあちゃんに連れられてやってきた。彼女は背が高くてほっそりして、濃い茶色の髪をしていた。そして、なによりも驚いたことは、彼女の正体は年老いた魔女・グレースで、いまの身体は本当はかつておばあちゃんのものだった。おばあちゃんから打ち明け話を聞いたカーリは、魔女からメレディスの身体を取り戻そうと‥‥。
タイムリミットは13ヶ月と13週と13日の満月の夜。


すごーくおもしろかった。
昨日図書館で借りて、今日一気に読んでしまいました。
カーリーの口から機関銃のように繰り出されるおしゃべりを聞いてるうちに、あっという間にラストシーンになってしまったという感じです。

ある日突然、12歳の子供から81歳のおばあちゃんになってしまったら‥‥。
13歳から80歳までの素晴らしい時を過ごすことなく、いきなり死を待ちながら暮らすことになるのです。
勉強も遊びも、恋さえすることもなく、いきなり関節痛や腰痛、心臓麻痺の心配をしなければならなくなったとしたら。
いったい、何のために生まれてきたのか、生まれてきたことさえ呪うのではないでしょうか。
カーリーには特に落ち度も無く、強いて言えば信じやすく寂しがりやで少しばかり不注意だったことくらい。
とにかく、あっという間に自分の身体をのっとられて老人ホーム行きなんて酷い展開。

年を取ることはすべての人に平等におきることだけど、普通は一日一日を積み重ねて身体の衰えと交換に人生の経験や知識を手にいれているはずです。
ところが、カーリーの場合は思い出一つ無く、老婆の身体のみ押し付けられることになってしまいます。
それがどんなに理不尽なことか。
恐いお話です。

同じ作家の「チョコレート・アンダーグラウンド」に登場するバビおばさんは、年を取っていることを逆手にとって自らボケ老人のふりをして苦境をのがれますが、カーリーの場合はほんとのことを話す毎に周りからますます痴呆症と思われていきます。
う~ん、このジレンマはとても悔しい。
でも、それが妙にリアルだったりします。

年を取ることでおきる身体の不自由さ等、老人に対する結構シビアな表現が溢れていて、でもそれゆえに私たちが過ごす今という一瞬一瞬が大切なものなのだと改めて考えさせられました。




――今あるものをすべて当然だと思ってはいけない。すべてが永久にこのままだなどと考えてはいけない。決して変わらないものなどないんだから。……しかし、明日何が起きるかはわからない。幸運というものは潮の流れのように変わる。われわれにできるのは、最善を祈ること、そして今、目の前にあるものを楽しむことだけ。今のために生きるのではなく、今を生きるんだよ。確実なのは今だけなのだから。




MINAMIN > 青子さん、こんにちは。
☆5つですね!
私もこの本を読み、今を生きることの大切さを感じました。
ぼんやりしていても過ぎていく時間。
時間と若さは取り返せないもの。本当に大切にしたいですね。 (2005/01/11 18:17)
みちまろ > 青子さん、こんばんは。コメント読ませていただきました。逆のパターンの物語は何作か記憶にあるのですが、いきなり死を待つだけの人生になっちゃうみたいですね。ちょっと想像しただけですが、体の自由がきかずに、何を訴えても痴呆症と判断されたらシビアですね。自分が経験していない年齢は想像がつかないもの事実ですが、目の前にある生活を大切にするしかないのかもしれないと思いました。 (2005/01/11 22:03)
青子 > MINAMINさん、みちまろさん、こんばんは。

MINAMINさん>☆5つは、新年だからちょっと御祝儀はいってます。先に読んだ「チョコレート・アンダーグラウンド」が4つ☆だったので、それよりおもしろかったので満点になっちゃいました。私なんか毎日ダラダラで反省してます。

みちまろさん>児童書なんでそんなに暗いお話ではないのですが、考えただけで恐ろしい状況ですね。いろいろな薬を飲まなければならなかったり、横断歩道が青信号の間に渡り切れなかったり、転んだ時の骨折を気にして走れなかったり‥‥とかなりおばあちゃんの生活は大変そうです。これがまた結構リアルに書かれていて、おばあちゃんには親切にしてあげなきゃなんて思いました。今という時間、本当に大切にしたいですね。 (2005/01/11 22:52)
北原杏子 > この本は書店などでよく見かけてましたが、こういう話とは!全然知らなかったです。けっこうシビアなんですね。ある日突然、おばあちゃんに・・・というとハウル思い出してしまう私ですが。あれとは全然違って、リアルで、怖い話なのですね。いつか読んでみたいです。 (2005/01/12 00:30)
青子 > 北原杏子さん、こんにちは。そう言えばソフィーもおばあちゃんに変えられていましたね。職場の近くの図書コーナーにやっと「ハウル」が戻ってきたので、お昼休みにまた頑張って通ってみます。時代が現代なので、リアルなのはリアルですね。老人ホームなんかも出てきて、ちょっと考えさせられました。現代社会の老人問題を子供たちにそれとなく知らせるのに役立つと思います。 (2005/01/12 17:21)
たばぞう > これ、面白いですよね!。出版後、話題になっていた時期に図書館で借りて読みました。カーリー、最後は「してやったり」でしたね。 (2005/01/15 20:04)
たばぞう > そういえば養老さんの「死の壁」という本に、「老醜をさらしたくない・・・というような事を平気で言う人は、自分が変わっていくという事に気付いていないのではないか」てなことが書かれていたように思います。植物も芽吹いて花を咲かせ、実を結んで枯れていく。人間も同じですよね。 (2005/01/15 20:10)
青子 > たばぞうさん、こちらにもレスありがとうございます。
「老醜をさらしたくない」ってなんか解るような気がしますが、人間化け物じゃないんだから年は取るでしょう。ですよねぇ。以前見たTVで、若い人が特殊なめがねや手袋、腰に重しなどをつけて擬似老人になって、どれだけ身体が束縛されるかを体験する番組を思い出しました。でも、年齢はやっぱり1年1年重ねていかなくちゃ。一気には辛すぎます。 (2005/01/16 00:31)