麦の海に沈む果実  恩田陸 | 青子の本棚

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「すぐれた作家は、高いところに小さな窓をもつその世界をわたしたちが覗きみることができるように、物語を書いてくれる。そういう作品は読者が背伸びしつつ中を覗くことを可能にしてくれる椅子のようなものだ。」  藤本和子
  ☆椅子にのぼって世界を覗こう。

恩田 陸
麦の海に沈む果実 (講談社文庫)

3月以外の転入生は学園を破滅に導くと言い伝えられる全寮制の学園へ、2月の終わりの日に転入してきた水野理瀬。そこは、湿原に囲まれた牢獄とも見える世間と隔離された学校で、ワケありの子どもたちが物質的には何不自由なく暮していた。あてがわれた部屋の天井の裏に隠された赤い表紙の本『三月は深き紅の淵を』を理瀬は偶然見つける。それは校長が探している理想の学園を描いた小説だった。ルームメイト・優理らと絶対的権力を持つ女装の校長が開くお茶会に招かれた理瀬は、行方不明の麗子を呼び寄せる降霊会の霊媒を頼まれ。。。



”ゆりかご(過保護な親に送り込まれた子)”
”養成所(専門教育を施すために入ってきた才能ある子)”
”墓場(存在を望まれない家庭の事情で放り込まれた子)”
の3種類の生徒がいるヨーロッパの寄宿舎を思わせる謎だらけの学園にやってきた記憶を失った美少女の転入生。
次々と起こる殺人事件。


「三月は深き紅の淵を」の第四章の間に挿まれたお話がコレ。


数学の天才少年・聖。
女優志望のルームメイト・優理。
ぶっきらぼうでやさしい少年・黎二。
天使のような笑顔の3月の転入生・ヨハン。
行方不明になった少女・麗子。

そして、誰よりも強烈な印象を与える校長は、日によって女装する男性。
彼に群がる親衛隊の少年・少女たち。
校長に気に入られた理瀬は、当然いじめの対象に。
その上、女の子の人気№1のヨハンも何故か理瀬に近寄ってきて。

元修道院を改造した学園は、贅沢な蔵書を抱えた図書館、薔薇の庭園、忘れられたドーム型の温室、大きな食堂。。。
そして、それらを繋ぐ迷路のような廊下。

望めばどんな家庭教師も呼んでもらえるという贅沢な環境。
学内で催される華やかなコンサートやハロウィンパーティー。
まるで少女漫画の世界ですぅ。
「三月は~」で予告編を見せられていたようなものなので、違和感なく読めました。


そこで起こる殺人事件や行方不明者は、突然自宅に呼び戻されたり、転校したことになり、いつの間にか忘れ去られていきます。

聖が碁石を使ったゲームをみんなに提案するのですが、この部分がかなり恐いです。
無記名とはいえ、腹の探り合いの心理戦の描き方が、秀逸です。


いやぁ、ホント楽しみました。
謎解きの部分に突入したところから、理瀬とともに誰もが信用できなくなり、この本が手放せなくなり一気に完読です。
唯一不満な点は、「三月は~」の中で、確か学園が火に包まれるシーンがあったと思うのですが、ここには出てこなかったので、最後の最後に火災が起きて・・・なーんて期待?していたので、あっけなく終わった感が否めません。



そして、こんなに過酷な環境なのに、

 「スクールデイズっていうのは、人生の休暇みたいなものだと思うな」

と醒めた口調でのたまうヨハン。
あんたは、スゴイです。



次は「黄昏の百合の骨」だ!!