台湾有事に関して集団自衛権を行使できる「存立危機事態」だと明言した高市首相の国会答弁。高市首相のことだから早晩中国と悶着を起こすことは予想していたので中国を激怒させていることはさておくとして(といいつつ後述する)、このように明言することが戦略的に失策だということは石破前首相はじめすでにあちこちで指摘されている。日本が介入するかどうかは明言せず、「するかもしれない、しないかもしれない」という不確実性をもたせて相手国に対する抑止とする「あいまい戦略」が定石だ。
だが高市首相の今回の発言が、安倍首相が強引に導入した「存立危機事態」による集団自衛権行使の枠組みすらも踏み外すものであることを知った(朝日新聞2025-11-19夕刊)。
2015年の安全保障関連法でいう存立危機事態というのは、日本と密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる事態をいうが、ここで想定されていたのは日米同盟であり、米国の求めに対して日本が防衛協力を行うこと。アメリカから求められてもいないのに日本のほうから独自に存立危機事態を認定することは想定されていなかったのだ。
もちろん、日本がアメリカの言いなりになるいわれはなく、求められても断ったり、逆に日本独自の存立危機事態を想定したりすることも理論的にはありそうな気がするが、平和憲法のもとで歩んできた日本が自国が直接攻撃されていない場合にも防衛協力できるケースを規定した、という大前提をふまえると、やはりアメリカの圧力もないのに日本が独自に具体的な有事を存立危機事態に含めることは、安倍政権下での想定以上に危険な動きだというべきだろう。
今回の発言は中国がレアアース規制を1年延期するなどして米中の経済対立が緩和しつつあった矢先に飛び出した。高市発言について問われたトランプ大統領が「同盟国の多くも友人ではない」などと述べて中国への批判を避けたとき、相変わらずのトランプ節だと思って顔をしかめたものだが、今回の記事をふまえて想起すると、高市首相を突き放したトランプ大統領の発言も仕方ないものかと思えてくる。
今回の発言は勢いにかられた失言なのかなと思ってしまったが、「自分のこだわりを盛り込んで、高市政権としての新たな答弁ラインを考えていた」結果ということらしい(朝日新聞2025-11-19夕刊)。確信犯だとしたら認識が甘すぎた。
リベラルを標榜する私は、高市首相だけは避けたいと思っていたくらいだから、国益に反する発言をしたことで早々に辞任してもらってもよかったのだが、首相が(撤回はしないながら)「今後特定のケースを想定したことをこの場で明言することは慎む」とまで言ったのに、中国が次から次へと対抗措置を繰り出すのを見てくると、「これに屈してはならない」という変な「愛国心」が芽生えてくる。日本旅行の自粛要請くらいならむしろ歓迎するつもりだったが、やっと再開した日本産水産物の輸入について検査要件を追加して事実上止めたとなると実害があるし、個人的には、中国・北京で行われた局長級協議で、会談後に中国の国定テレビがポケットに両手を入れた中国側の劉氏がうつむいた日本側の金井氏に話しかけている映像を配信し、一部メディアが「頭を低くして中国外務省を去る日本の高官」との見出しで配信した(朝日新聞2025-11-19)というのがカチンときた。韓国との対立のときも言った(過去記事)が、政府が強硬な姿勢に出ることで相手国の国民の「愛国心」に火をつけてしまうと、かえって相手国政府が譲歩できなくなってしまう。同じことは日本側にも言える。中国の薛剣在大阪総領事の「汚い首は斬ってやるしかない」というSNS投稿は問題だが、国外退去を求めて事態をエスカレートさせるのは得策ではない。お互い冷静になるべきときだ。
追記:党首討論で高市首相は、答弁の理由を「具体的な事例を挙げて聞かれたので誠実に答えた」と述べたという(朝日新聞2025-11-27)。SNSでは「聞いたほうが悪い」という声は早くからあったと聞く。たしかに私もこれまで、こういう答えに窮するようなことを聞かなくてもいいのに、と思ったことは多々あるのだが、答えないことだってできたはずだ。質問にまともに答えないのは首相が崇拝する安倍首相の得意技で、現に今回も政治とカネの問題については「そんなこと」と言って取り合わなかった。もちろん質問にまともに答えないのはほめられたことではないのだが、今回は「答えない」ことが外交戦略上も適切であった(「あいまい戦略」)。
とはいえ、上記のように、中国の強圧的な態度を見ると、いまさら屈したくないという気持ちが芽生えてくる。最終的には「限りなく撤回に近い妥協点」を見出すしかないのかもしれないが、中国が今のやり方では、私のように高市嫌いだった人まで高市擁護・反中国で団結させてしまうかもしれない。中国指導部はそのことを忘れないでほしい。テレビでは「国内で政権をたたいたら相手の思うつぼ」という発言があったといい(朝日新聞2025-11-26夕刊・素粒子)、私もそれに近い気持ちだ。だが、この言葉を高市首相を批判する人を非難する文脈で使うとしたら賛成できない。
別の番組ではコメンテーターが、台湾有事発言を非難する人に対して「あなた方日本人じゃないの?」と言ったという。政府を批判する人を「非国民」として排斥する時代には戻りたくない。
訂正:問題の高市答弁は原稿にあったものではなく、アドリブであったことは早くからわかっていたというが、内閣官房が作成した応答要領が公開されたことで確かめられた(朝日新聞2025-12-13)。このたびの公表は、応答要領にある「(台湾有事という仮定の質問にお答えすることは差し控えるが、)我が国の安全を確保し、国民の生命と財産を守り抜くことが政府の最大の責務であると考えている」という官僚的な模範答弁が、以前から変わらない政府の公式見解であることを強調するねらいがあるようだ。
だが高市首相の今回の発言が、安倍首相が強引に導入した「存立危機事態」による集団自衛権行使の枠組みすらも踏み外すものであることを知った(朝日新聞2025-11-19夕刊)。
2015年の安全保障関連法でいう存立危機事態というのは、日本と密接な関係にある他国が攻撃され、日本の存立が脅かされる事態をいうが、ここで想定されていたのは日米同盟であり、米国の求めに対して日本が防衛協力を行うこと。アメリカから求められてもいないのに日本のほうから独自に存立危機事態を認定することは想定されていなかったのだ。
もちろん、日本がアメリカの言いなりになるいわれはなく、求められても断ったり、逆に日本独自の存立危機事態を想定したりすることも理論的にはありそうな気がするが、平和憲法のもとで歩んできた日本が自国が直接攻撃されていない場合にも防衛協力できるケースを規定した、という大前提をふまえると、やはりアメリカの圧力もないのに日本が独自に具体的な有事を存立危機事態に含めることは、安倍政権下での想定以上に危険な動きだというべきだろう。
今回の発言は中国がレアアース規制を1年延期するなどして米中の経済対立が緩和しつつあった矢先に飛び出した。高市発言について問われたトランプ大統領が「同盟国の多くも友人ではない」などと述べて中国への批判を避けたとき、相変わらずのトランプ節だと思って顔をしかめたものだが、今回の記事をふまえて想起すると、高市首相を突き放したトランプ大統領の発言も仕方ないものかと思えてくる。
今回の発言は勢いにかられた失言なのかなと思ってしまったが、「自分のこだわりを盛り込んで、高市政権としての新たな答弁ラインを考えていた」結果ということらしい(朝日新聞2025-11-19夕刊)。確信犯だとしたら認識が甘すぎた。
リベラルを標榜する私は、高市首相だけは避けたいと思っていたくらいだから、国益に反する発言をしたことで早々に辞任してもらってもよかったのだが、首相が(撤回はしないながら)「今後特定のケースを想定したことをこの場で明言することは慎む」とまで言ったのに、中国が次から次へと対抗措置を繰り出すのを見てくると、「これに屈してはならない」という変な「愛国心」が芽生えてくる。日本旅行の自粛要請くらいならむしろ歓迎するつもりだったが、やっと再開した日本産水産物の輸入について検査要件を追加して事実上止めたとなると実害があるし、個人的には、中国・北京で行われた局長級協議で、会談後に中国の国定テレビがポケットに両手を入れた中国側の劉氏がうつむいた日本側の金井氏に話しかけている映像を配信し、一部メディアが「頭を低くして中国外務省を去る日本の高官」との見出しで配信した(朝日新聞2025-11-19)というのがカチンときた。韓国との対立のときも言った(過去記事)が、政府が強硬な姿勢に出ることで相手国の国民の「愛国心」に火をつけてしまうと、かえって相手国政府が譲歩できなくなってしまう。同じことは日本側にも言える。中国の薛剣在大阪総領事の「汚い首は斬ってやるしかない」というSNS投稿は問題だが、国外退去を求めて事態をエスカレートさせるのは得策ではない。お互い冷静になるべきときだ。
追記:党首討論で高市首相は、答弁の理由を「具体的な事例を挙げて聞かれたので誠実に答えた」と述べたという(朝日新聞2025-11-27)。SNSでは「聞いたほうが悪い」という声は早くからあったと聞く。たしかに私もこれまで、こういう答えに窮するようなことを聞かなくてもいいのに、と思ったことは多々あるのだが、答えないことだってできたはずだ。質問にまともに答えないのは首相が崇拝する安倍首相の得意技で、現に今回も政治とカネの問題については「そんなこと」と言って取り合わなかった。もちろん質問にまともに答えないのはほめられたことではないのだが、今回は「答えない」ことが外交戦略上も適切であった(「あいまい戦略」)。
とはいえ、上記のように、中国の強圧的な態度を見ると、いまさら屈したくないという気持ちが芽生えてくる。最終的には「限りなく撤回に近い妥協点」を見出すしかないのかもしれないが、中国が今のやり方では、私のように高市嫌いだった人まで高市擁護・反中国で団結させてしまうかもしれない。中国指導部はそのことを忘れないでほしい。テレビでは「国内で政権をたたいたら相手の思うつぼ」という発言があったといい(朝日新聞2025-11-26夕刊・素粒子)、私もそれに近い気持ちだ。だが、この言葉を高市首相を批判する人を非難する文脈で使うとしたら賛成できない。
別の番組ではコメンテーターが、台湾有事発言を非難する人に対して「あなた方日本人じゃないの?」と言ったという。政府を批判する人を「非国民」として排斥する時代には戻りたくない。
訂正:問題の高市答弁は原稿にあったものではなく、アドリブであったことは早くからわかっていたというが、内閣官房が作成した応答要領が公開されたことで確かめられた(朝日新聞2025-12-13)。このたびの公表は、応答要領にある「(台湾有事という仮定の質問にお答えすることは差し控えるが、)我が国の安全を確保し、国民の生命と財産を守り抜くことが政府の最大の責務であると考えている」という官僚的な模範答弁が、以前から変わらない政府の公式見解であることを強調するねらいがあるようだ。