「十八世中村勘三郎十三回忌追善・猿若祭二月大歌舞伎 三世河竹

   新七作 籠釣瓶花街酔醒」の「二幕目」に続きまして・・・・・。

 

   「三幕目・第一場 兵庫屋二階遣手部屋の場」

   「次郎左衛門」と仲間たちは、座敷の準備が調うまで「兵庫屋遣手

   部屋」で待つ事となりました。

   その間に「兵庫屋傾城・九重、七越」が挨拶に遣って参りますので、

   「次郎左衛門」は「仲間たち」に得意顔でございます。

   そこに「栄之丞と権八」が現れ、部屋の前を通りかかります。

   その「栄之丞」が 何となく気になった「次郎左衛門」は、後を追お

   うと致しましたが「立花屋女房・おきつ」に 止められて、仕方なく

   「八ッ橋」の部屋に向かうのでありました。

 

   「三幕目・第二場 兵庫屋廻し部屋の場」

   「兵庫屋廻し部屋」では、「栄之丞」が「八ッ橋」に「次郎左衛門」

   からの「身請け話」を問い質しております。

   思いも寄らない「栄之丞」の疑いに驚く「八ッ橋」ですが、そこに

   「権八」も加わり「八ッ橋」を責めます。

   「八ッ橋」は「確かに 身請けの相談はございましたが、親代わりで

   ございます権八に 伝えていない事が、次郎左衛門からの身請け話を

   承知していない証拠でございます。 なんとか 疑いを晴らして下さ

   いな」と申し開きを致します。

   「八ッ橋」の言葉を聞いても 未だ半信半疑の「栄之丞」は「それな

   ら、今晩の座敷で 次郎左衛門に愛想尽かしをして見せろ、それが出

   来たら 疑いを晴らして遣ろう」と告げます。

   「八ッ橋」は、これまで恩を受けた客「次郎左衛門」に 突然掌を返

   して愛想尽かしをするような不義理出来ないと躊躇いますが・・・。

   なおも「栄之丞と権八」が「愛想尽かし」をせよ と迫るので、困惑

   し泣き伏してしまう「八ッ橋」でございます。

 

   「三幕目・第三場 兵庫屋八ッ橋部屋縁切りの場」

   「八ッ橋の部屋」では「宴」が 既に始まっております。

   「幇間」の芸を見ながら「次郎左衛門」を始め「丹兵衛や 丈助」が 

   浮かれ騒いでいる処に、遅れて 遣って参りました「下男・治六」も

   加わり、「治六」に相方の「初菊」を 引き合わせている処で、よう

   やく「八ッ橋」が現れます・・・が、その「八ッ橋」は 浮かぬ顔で、

   いつもとは違う様子でございます。

   そんな「八ッ橋」を気遣う「次郎左衛門」に「八ッ橋」は「もう 顔

   を合わすのが嫌になりました」などとつれない態度で「愛想尽かし」

   を始めます。

 

   「次郎左衛門」からの身請け話を きっぱり断り、今後は遊びに来て

   もほしくないとまで 皆の前で言いだします。

   今までとは全く異なる 豹変ぶりに「次郎左衛門」は戸惑い、また周

         囲の者たちも大いに驚きます。

   慌てた「おきつ」や「九重」が 仲を取り持とうと致しますが、「八

   ッ橋」は知らぬ顔で「嫌になった」の一点張りでございます。

   これまでとは打って変わった「八ッ橋」の様子に、あまりに 不実な

   態度であると「治六」も 怒りだし、それを止める「次郎左衛門」で

   ありましたが、寝耳に水の縁切りの衝撃は大きく、思わず「八ツ橋」

   の不人情な態度に恨み言が出てしまいます。

 

   その時「次郎左衛門」は、廊下から 座敷の様子を窺う「栄之丞」の

   姿に気が付きます。

   ここで全てを察した「次郎左衛門」は「八ッ橋」に、「今の男は?」

   と尋ねますと、「八ッ橋」は包み隠さず「今居た男は 栄之丞、自分

   の間夫でございます」と言って 座敷を後に致します。

 

   すっかり興醒めした雰囲気漂う座敷で、「丹兵衛と 丈助」が「次郎

   左衛門」を「なに、八ッ橋を身請けするだ なんぞ言って、俺たちを

   呼んでおきながら 振られてやがる」と 散々に馬鹿にし、座敷を替え

   ようと出て行きます。

   これを見ていた「治六」は ますます悔しがります。

   面目 丸潰れの「次郎左衛門」を見かねて、「おきつ」が「内証」に

   掛け合うと 言い出しますが、「次郎左衛門」は「八ッ橋の事は、諦

   めた。 まずは 国に戻ります」と告げて、「おきつと九重」に暇乞

   いをして、思い詰めた面持ちのまま帰って行きます。

 

   「大詰 立花屋二階の場」

   あれから四か月が過ぎた頃、「次郎左衛門」が久し振りに「立花屋」

   を訪れます。

   二階の座敷に通された「次郎左衛門」を、「おきつ」をはじめ 女中

   や芸者、幇間たちが 次々と大喜びで出迎えます。

   やがて「八ッ橋」が遣手に連れられて挨拶に遣って参ります。

   「八ッ橋」は「次郎左衛門」には 顔向けが出来ないと 恐縮しながら

   詫びを 致しますと、「次郎左衛門」は「いや、また今日から 初会と

   なって遊んでほしい」と冷静に申し入れます。

   その「次郎左衛門」の言葉を聞き 以前のわだかまりを 心配していた

   「八ッ橋」は 勿論の事、その場に居合わせた者たちもすっかり 安堵

   して「次郎左衛門」が「八ッ橋」と 二人で話をしたい と言いますの

   で、気をきかせ、皆は座を外します。

 

   人払いをした後に「次郎左衛門」は、差し向かいになった「八ッ橋」

   に酌を致します。

   それを嬉しそうに受ける「八ッ橋」でしたが、突然、「次郎左衛門」

   は「八ッ橋」の手を押さえて「この世の別れの盃だよぉ」と告げる。

   驚いた「八ッ橋」は 逃げようと致しますが、「八ッ橋」の裾を踏み、

   「八ッ橋」への 積もり重なる恨みを述べ、持参して 床の間に隠し置

   いた「家宝の刀 籠釣瓶」を手にすると、逃げる「八ッ橋」を 一刀の

   下に斬り捨てます。

   その場に倒れ込む「八ッ橋」

   そこに「明かり」を持って来た「女中」にも太刀を浴びせます。

   蠟燭の薄明りのなかで、「次郎左衛門」は鬼気迫る表情で「籠釣瓶、

   よく斬れるなぁ」と「刀」に見入る処で・・・・「幕」となります。