「祐天寺歌舞伎鑑賞会」で「歌舞伎座・十八世中村勘三郎 十三回忌

   追善・猿若祭二月大歌舞伎 昼の部」に伺いました。

 

   『三世河竹新七作 籠釣瓶花街酔醒・四幕七場 

    序幕:吉原仲之町見染の場より 大詰:立花屋二階の場まで』

   この作品は 享保年間(1716~35)「江戸吉原」で、「下野国

   ・百姓 次郎左衛門」が「傾城八ッ橋」の不実を恨み、「八ッ橋」を

   はじめ 大勢を殺傷したとされる「吉原百人斬り」と伝わる実際に起

   きた事件を基にして、講釈から脚色された「世話狂言」だそうです。

   明治21年(1888)に「東京 千歳座」で初演され、「初世市川

   左團次」が「佐野次郎左衛門」、「四世中村福助(五世歌右衛門)」

   が「八ッ橋」を演じて大好評を得たと云います。

 

   「序幕:吉原仲之町見染の場」

   「吉原仲之町」は桜が満開に咲き誇り、花街は何時にも増して 華や

   かな様子です(暗かった場内で「幕」が開き、一気に 明るくなると

   桜満開の舞台、館内から「お、おっお~ 綺麗だねぇ」の声が漏れ聞

   こえてきます)

 

   「吉原・大門」から「白倉屋・万八」に案内されて「下野国佐野 絹

   商人・佐野次郎左衛門」と「下男・治六」が、周りをキョロキョロ、

   口をアングリ開けて遣って参ります。

   田舎暮らしの素朴な商人と下男の二人連れ、江戸で 商いをした帰り

   に田舎への土産話、話の種にと「吉原遊郭」を覘きに来たようです。

   噂には聞くが、初めて見る「吉原の風情」に圧倒され 驚いておりま

   すと、「万八」は「旅籠並みの料金で、廓遊びをさせましょう」と

   悪い誘いを仕掛けています。

   (「佐野次郎左衛門:中村勘九郎、下男・治六:中村橋之助、白倉屋

   ・万八:中村吉三郎」)

   

   そこに通りかかった「引手茶屋 立花屋亭主・長兵衛」が「万八」を

   呼び止めまして「おいおい、吉原の事情を知らない者を 巧みな言葉

   で誘っちゃあ 廓に連れ込んで、法外の値段を吹っ掛けるようなあく

   どい商売をしちゃあ イケないよ」と追い払い、二人には「廓で遊ぶ

   んならば、勝手を知ってる者に尋ねないと 危ないよ」と忠告して去

   って行きます。

   (「立花屋長兵衛:中村歌六」)

 

   「いやぁ~ 危ない処 だったんだねぇ、もう 宿に帰ろうじゃないか。

   さっき来た『大門』は どっちの方角だい? これだけの豪華な風情

   を見せて貰ったんだ、拝観料が 要るんじゃないか」等と言いながら、

   名残惜しそうに見廻しているところで・・・「兵庫屋 傾城・九重」

   と「兵庫屋 傾城・七越」の道中が行き交わす場面に遭遇致します。

   「あああ、これが『花魁道中』って奴かい! 豪勢な もんだ、まあ

   土産話が増えたねぇ」と満足して二人が 宿に帰ろうとした、その時

   今度は「兵庫屋 一の傾城・八ツ橋」が「遣手・お辰」や「禿」らを

   引き連れて「道中」を仕立てて遣って参ります。

   (「兵庫屋・九重:中村児太郎、兵庫屋・七越:中村芝のぶ、兵庫屋

   ・八ツ橋:中村七之助、遣手・お辰:中村歌女之丞」)   

 

   最前の二人にも増した 絢爛豪華な道中に加え、この世の者とは思え

   ないほど美しい「八ッ橋」の姿を見た「次郎左衛門」は 呆然として

   すっかり心を奪われ 立ち固まってしまいます。

   その様子を見て微笑む「八ツ橋」、そして去り行く「八ツ橋の道中」

   を見送る「次郎左衛門」が、思わず「宿へ帰るのが 嫌になった」と

   呟きます。

 

   「二幕目:第一場 立花屋見世先の場」

   それから半年が経ち・・・ここは「立花屋見世先」でございます。

   「次郎左衛門」は、江戸に来る度に 足繁く「八ツ橋」の許に通う様

   になりまして、田舎者ではございますが 人柄良く、気前も良いので

   「佐野の大尽」と呼ばれ、疱瘡だらけの顔は 玉に瑕ではございまし

   たが悪く言う者は居りません。

   見世先で「立花屋若い者・与助」と「女中・お咲」が「次郎左衛門」

   の話をしている処に、「八ツ橋」の父に「中間」として 仕えており

   ました「釣鐘権八」が「主人・長兵衛」を訪ねて遣って参ります。

   「権八」は 旧縁から「八ッ橋」に度々金の無心をしている無頼漢で、

   今日も、「八ッ橋が 次郎左衛門に身請けされる」と云う噂話を聞き

   つけて 五十両の金を借りたいと「長兵衛」に 口利きを頼みに遣って

   来たようです。

   「長兵衛」は、 十日前にも「次郎左衛門」から金を借りて、その際

   今後借金はしないと証文まで書いていたのを知っているので「権八」

   に意見して、その申し出を断ります。

   その場に顔を出した「長兵衛女房・おきつ」も きっぱりと断るので、

   「権八」は散々悪態をついて帰って行きます。

     (「釣鐘権八:尾上松緑、立花屋若い者・与助:中村吉之丞、立花屋

   女中・お咲:中村梅花、立花屋女房・おきつ:中村時蔵)

 

   ここに「次郎左衛門」が 絹商人仲間「丹兵衛」と「丈助」を連れて

   「立花屋」に遣って参ります。

   やがて「八ッ橋」が姿を見せますと、「丹兵衛」らは その美しさに

   驚き、「次郎左衛門」は 仲間たちに「八ッ橋」との仲の良さを見せ

   つけることが出来たと上機嫌でございます。

   (絹商人・丹兵衛:片岡亀蔵、絹商人・丈助:大谷桂三)

 

   「二幕目・第二場 大音寺前浪宅の場」

   処変わり、ここは「八ツ橋・間夫 繁山栄之丞」の浪宅。

   「八ッ橋」は廓勤めをする前から、「繁山栄之丞」と申します 浪人

   者と深い仲でございまして、今日も「八ッ橋」から 手紙と着物が届

         けられておりました。

   湯屋帰りの「繁山栄之丞」を追うように「権八」が遣って来まして、

   先程の腹いせにと「八ツ橋が不人情にも栄之丞に見切りをつけ 次郎

   左衛門に身請けされる気である」と語り始めます。

   最初の内は 相手にしなかった「栄之丞」でしたが、「権八」の煽り

   に次第に不安になり、「八ッ橋」の気持ちを確かめようと「兵庫屋」

   へと出向いて参ります。

   (「繁山栄之丞:片岡仁左衛門」)

 

   「三幕目・第一場 兵庫屋二階遣手部屋の場」に続きます。