「入船亭扇遊独演会 如月の独り看板」、「扇遊師匠」 が 『蜘蛛駕籠』 を終えて 高座に残り

   二席目の 『お見立て』 の 「マクラ」 に入って参ります・・・・・。

 

   昔のぉ 「寄席」ってぇのは、「夜席」 が混みましたですがねぇ、最近は ええ 「昼席」 の方が

   お客様が多くて 混むんですな。

   今日も大勢のお客様においで戴いております、お楽しみ戴ければと思うんでございますが、

   「男の遊び、遊び場所」、「遊び」 と申しましても 最近は地方で仕事をさせて戴いた後 お酒

   なんぞを酌み交わし 「あの~ここらで おつな遊び場所なんぞはございますか」 と聞きます

   と 「ああ、ございますよ」 と ご案内戴くのが 「地元のテーマパーク」 とかあるんですがねぇ

   昔、「男の遊び場所」 と申しますと 「吉の原」、浅草・浅草寺の 裏手にございました 「吉原」

   でございますなぁ。

   店の 妓夫(ぎゅう、牛太郎)が 「どうぞ、宜しくお見立て願います、どうぞ お上がりください」

   と客を引いておりますが・・・・・。

   「吉原」 では 客を褒める・くすぐる、よいしょってぇ奴ですが、客によって色の黒いだの白い

   だの 背が高いだの低いだの ご面相が良ろしいだの それぞれに誉め言葉が在ったようで

   ございますが、どうにも 褒める処がない客の場合には 如何するかってぇとですね、まずは

   ちょっと 驚くんですな、ギャア~~とか大袈裟に驚いちゃイケませんよ、少ぉし首を後ろに

   引きながら 「あっ・・・・あら・・・・・こちら初めてぇ~・・・・あら、まぁ~・・・・様子が良い」 って

   言うんです。

   何処が良いとは 言わないんですな、ただただ 「様子が良い」 って。

   「えっ、あ、俺かい。 そうなんだ、俺は様子が良いんだ」 なんて 納得したり致しまして・・・。

   「あの女、俺に惚れてやがんなぁ~、あはは、俺はアイツの間夫(まぶ) だぁ」 なんて 「虻

   (あぶ)」 みたいな顔して自惚れて。 まぁ自惚れのない男なんてぇものは居ないそうです。

 

   妓夫の 「喜助」 が 花魁の部屋に参りまして 「え~喜瀬川さんへ、え~喜瀬川さんへ・・・」

   「なんだい、ああ 喜助かい。 なんか、用なの?」

   「あ 花魁、こちらでしたか。 捜しましたよぉ、あたし、ああたの良い人、上にあげましたよ」

   「あら あたしの良い人がぁ来て呉れたのかぁい、嬉しいねぇ。で、誰が来て呉れたんだい」

   「誰がって・・・・・当てて 御覧なさいよぉ」

   「あらま そうかい、誰なんだろうねぇ。 あっ 若旦那が来て呉れ・・・、えっ 違う? それじゃ

   松さんかい? 違うのぉ、じゃ 竹さんかい? 違う・・・誰だろうね、ああ 梅さんだ!」

   「随分、良い人が居ますね、ああた。 そうじゃありませんよぉ~、あの 杢兵衛大尽が来て

   下さいました!」

 

   「あらぁ~、来たのぉ~、あん畜生がぁ~」

   「ええっ、あん畜生? ああた そんな事言っちゃあイケませんよぉ~。 あの お大尽に幾ら

   お金を使わしてんですぅ~」

   「そりゃあ、私だってお金要りようの時はさぁ~、あの人に甘い言葉 ひとつくらい言ったさぁ、

   でもさ 今は嫌いなんだよ、断って お呉れよぉ~」

   「断って呉って言ったって、私 上げちゃったんですよ、今さら 何て言って断るんです?」

   「何でも良いよぉ~、私が 病気で寝てるとか言って断っておくれよぉ~、嫌なんだから・・・」

   「病気で、寝てるぅ~・・・、弱っちゃったなぁ、上げちゃったんだよ・・・、あの一寸だけ顔見せ

   ちゃ呉れませんかぁ。 ええっ 如何しても嫌なんですか・・・・ああ そうですか、花魁が そう

   おっしゃるなら行ってきますけど、本当に良いんですね。 病気で寝てると・・・はい、分かり

   ました。 行ってきますんで・・・・(いやどうも、困ったもんだねぇ、あの花魁の我儘にもねぇ

   一寸だけ顔を出して呉れりゃ良いんだよ、あの お大尽金離れが良くってさぁ・・・でも しょう

   がないね、病気で寝てるって言ってみるか)、あっ お大尽 お待たせを致しました」

 

   「ぬははは、ああ 喜助かぁ、如何した喜瀬川?、オラ 来たっていったら はぁ 喜んだんべぇ

   喜瀬川」

   「はい、大変に喜んだんでございますが・・・実はでございますなぁ お大尽 大変に申し訳け

   ございません、花魁 こちらに来られなくなってしまいましてなぁ」

   「おい、如何した?」

   「ええ、あの・・・花魁 病気になって寝ておりまして如何しても こちらに来られない顔を出せ

   ないと申しまして・・・大尽に宜しくと云う事でございます」

   「なに、病気で寝てる? 喜瀬川が・・・そりゃ イかねえよぉ、何処が悪いんだぁ」

   「ふぇ 何処・・・何処、あ 何処・・・あ はいはい、え~そうですねぇ、あの 花魁は何処が悪い

   と云うと 塩梅が悪いんで」

   「だから寝てるんだんべえよぉ~、何処が・・・風邪でも引いたか?」

   「そう それです! 風邪を引きまして。 此処ん処暑いだの寒いだのございまして、高い熱

   出しまして寝込んでおりまして、如何しても来られないと・・・はい、申し訳ございません」

   「そりゃ イかねぇ、風邪は 万病の元っちゅうでな、ああ じゃあエエだエエだ、オラ ちょっくら

   見舞ってやるべぇ、オラの顔見りゃ、直ぐ 熱下がるだよぉ~、何処で寝てるぅ、案内ぶてぇ」

   「一寸お待ちください、喜瀬川を 見舞う? いや お大尽、そりゃ 駄目ですよ 出来ません」

   「なんでぇ 出来ねぇだ?」

   「いや、あの その・・・え~、あ そうだ・・・お大尽、この吉原には 昔から 病気の花魁を殿方

   が見舞ってはイケないと云う 決まりがございましてな、出来ません」

   「そんな決まり 在るんかぁ~、でも おら 久しぶりに遠くから遣ってきて、喜瀬川の顔見ねぇ

   で帰る事なんぞ出来ねえよぉ 喜助、わりゃ 何とかしろよぉ。 おめぇ、長いこと此処に務め

   てんべぇ。 智恵 働かしてよぉ、一目で エエから・・・そうだ、こうすべぇ。 オラが 客だから

   イケねぇだよぉ、決まりだからなぁ、こうしよう 郷から実の兄が出てきて どうしても相談ぶち

   てぇ事があるちゅうてよぅ、これだったら 良かんべぇ」

 

   「花魁・喜瀬川」 が 嫌気がさすのも成る程と云うくらい、しつこく粘る 「杢兵衛大尽」 でして、

   喜助が 喜瀬川の処に相談に参りますと 「杢兵衛大尽が暫らく来なかったんで、大尽に 恋

   焦がれて死んだって言っと呉れよ、そうすりゃ 喜んで帰るんだから、喜助、そこで涙の一つ

   でもポロッと流してごらんよぉ」

   「花魁、よく そんな嘘が出てきますねぇ。 洒落や冗談で 涙なんぞ出ませんよ」

   「出ないかい? 不器用だねぇ、ああ そうだ 喜助、お茶を持って行きなよ。 お前の お茶も

   持って行ってさ、隙を見て目の縁にお茶をね、そうすりゃ 泣いてるように見えるからさぁ~」

 

   「あの、お大尽 お待たせを致しました」

   「ああ、喜助 如何した・・・ああ、何処で寝とるんじゃ?」

   「それなんでございますが・・・あの 実は、あ 一寸待ってください、お茶を 持って参りました

   んで。 私 先程、喜瀬川が病気で寝てると申し上げましたが、それは 嘘でございいまして」

   「あんだぁ、嘘だぁ~ってか? う~ん、知っとったよぉ~、われ オラ 来た時 あんてってたぁ、

   やぁ~お大尽、お待ちしておりました。 花魁がお待ちかねでございますって そう言ったじゃ

   ねぇかよう。 エエだ エエだ、良いから 早う 喜瀬川を 呼んでこぅ」

   「いえ、このお話は・・・・お大尽にだけはしてイケないと 固く口止めをされておりまして。 と、

   申しますのも 花魁とお大尽の仲、当たり前の仲ではございませんから・・・」

   「んん、そだよぅ。 オラと喜瀬川の仲ぁ当たり前の仲じゃあねぇだよぅ。 年(季)が明けたら

   ヒーフになるべぇってぇ 仲だかんなぁ」

   「えっ ヒーフ? ああ 夫婦! これは恐れ入りました。 ですから、私・・・言っちゃイケないと

   言われていたんですが、隠せません。 申し上げますが・・・お大尽、気を落ち着けて聞いて

   下さい。 宜しいですか、実は・・・あの 喜瀬川花魁は・・・亡くなりました」

   「はぁ 無くなった? あんな デカイもんが 無くなった? 探して来い!」

   「あの、お大尽。 落ち着いて下さい・・・どう言えば・・・・あ、あの お大尽、喜瀬川は お隠れ

   になりました」

   「あんだ、隠れたぁ? 鬼は誰だぁ~」

   「しょうがねぇな、はっきり申し上げます。 お大尽、あの喜瀬川は 死んだんでございます」

   「喜助! ばっかやろう、われ 言って良い事と悪い事が在るだよぅ! 人の生き死にを洒落

   や冗談で・・・」

   「いや、洒落 冗談ではございません。 もう ハッキリ申し上げます。 お大尽、貴方が 殺した

   ようなもんです。 貴方ね、こないだ お出でになって、それから 暫らくお出でにならなかった

   でしょ! あれから直ぐ来て下されば 良かったんでございます。 お大尽が お帰りになった

   翌日から 花魁は お大尽に逢いたい、お大尽に逢いたいって・・・そればっかり言って暮して

   おりました。 食べる物も喉を通らなくなり やせ細って床につき・・・・花魁は、お大尽に 恋い

   焦がれて、焦がれ死にをしたんでございますよ、私はね 花魁が (目の縁を 「お茶」 で 濡ら

   しまして・・・・・) 可哀想で可哀想で、涙が」

   「喜助も、泣いとるか・・・まだ、喜瀬川が 近くに居るように思えてならねぇ」

   「(はい、近くに居るんでございますよね) 私 泣いております。 いま 盛んに泣いております。 

   洒落や冗談では泣けません!」

   「そうかぁ、目に茶殻が付いとるで」

   「ええっ、あ はい。 私、悲しくなると 目から茶殻が出る性質でして・・・そう云う訳で 花魁は、

   亡くなったんでございますよ」

   「喜瀬川が・・・・おっちんだぁ・・・そ、そりゃあ 可哀想な事をした。 オラに、恋い焦がれ死に

   したぁ~。 ああ、オラ えれえ事しちまった。 もちっと早く来て遣りゃあ良かったぁ~。 村で

   手ぇ離せね事あってよぉ 喜瀬川すまねぇ 勘弁してくんろ・・・・喜瀬川がおっちんだ、で いつ

   おっちんだ?」

   「え、ええっ。 ふぇ! あ、あ、いつ・・・あれは・・・いつが宜しいですか?」

   「あ、それって 先月の25日じゃあねぇか?」

   「恐れ入りやした・・・そう! 先月25日で ございますよ。 如何して お判りになりました?」

   「やぁっぱり。 そうかぁ その日 オラ 村で寄合が在ってよぉ、帰ってきて囲炉裏端でゴロっと

   横になっただよ、暫らくすると 耳元で だぁさま だぁさま ちゅう声がするだ。 それが 喜瀬川

   だぁ、われ 何しに来た言うたらよぉ、だぁさまに逢いとうてめえりやした言うからよ、あに言う

   だ アマっこの脚で こうたら遠くに来るもんでねぇ、こりゃ狐か狸に化かされた思うて、あれが

   喜瀬川だぁ、あん時 オラに別れ告げに来たに違げぇねぇ、そうかぁ喜瀬川・・・喜助、おめえ

   良く話して呉れた。 喜瀬川の居ねぇ こうたら処、二度と来ねぇ。 郷さ、けえるだオラ。 あ、

   そうだ・・・もう来ねぇからな、詫びにひとつ 墓参りして遣んべぇ。 墓は 何処だ? あ、寺は

   何処だ?」

   「え、なんです?」

   「墓は何処だ? 寺は・・・・・」

   「寺ぁ・・・ははは、寺・・・ああっ、寺は 寺は・・・・・ああっ」

   「寺は何処だ?」

   「はい、寺は 山谷ぁ!」

   「そうかぁ、山谷ちゅうと、此処から近けぇか、近けえ! 墓参りして帰ぇるから、案内ぶて」

   「私、外に出ますには断り入れにゃイカンので・・・・・直ぐ来ますんで、少々お待ちください」

   (おい、冗談じゃねぇぞ! 喜瀬川の墓参りだと、如何すりゃ良いんだ)

 

   「花魁、花魁・・・」

   「喜助か、如何した、お大尽は帰ったかい・・・帰らない? 私が死んだって言ったんだろ」

   「言ったんですが、あの顔で 涙ポロポロ流して、墓参りして遣る、寺は何処だって言うんで、

   私 思わず 山谷って言っちまったんですよ」

   「馬鹿だねぇ お前は。 なんで そんな近い処 言うんだよぉ~もっと遠い処を言や良いじゃ

   ないかよぅ、肥後熊本とか稚内とか 沖ノ島とかさ、しょうがないねぇ・・・・行ってきなさいよ、

   お前が言ったんだから」

   「行っといでって、何処へ?」

   「山谷! あの辺は 寺町と云う具合だから、幾らでも寺が在るから 適当に見繕ってさぁ」

   「はい、分かりました、分かりました・・・適当に見繕って行って参りますよ、祝儀をたっぷり

   戴きますからね」

 

   「ああ お大尽、行って参りました」

   「如何した・・・墓参り、案内ぶつか?」

   「それではこれから、お供を致しますんで」

   「そうか、それじゃあ、ああ、ちょっくら待て。 これ、われにも 世話になったでな、取っとけ。 

   それでな、これで 花と線香をな」

   「そうですかぁ、これは戴いて。 あ、お花と線香ですな。 それでは参りましょう.。 お大尽

   お帰りですよぉ、履物をお出しして。 あ、はいはい 私、直ぐに戻りますんで。 あ、お大尽、

   それにつけても 喜瀬川ってぇ花魁は・・・良い方でございましたなぁ」

   「(頷きながら) んだぁ、ぶぅうぇ~・・・ズルズル (涙、涙にむせぶ大尽であります」

   「良い方でしたぁ、先ずは器量が良い 絶世の美人てぇ奴ですな、情があって 客あしらいが

   上手い、まぁ大概の花魁は お見立て お見立てですよ、こう 並んでいる中からしょうがねぇ

   この花魁にするかってぇもんですよ、そこ行くと 喜瀬川花魁は お名指しだぁ、俺は 喜瀬川

   じゃなきゃ嫌だてぇ客が わっと大勢いる中で、その花魁を 恋 焦がれ死にさせるなんぞ、お

   大尽 ああた憎いねぇ・・・・(その顔で、本当にぃ) えへ、花魁殺し、女殺し、年増殺しぃ・・・、

   人殺しぃ (最後の 人殺しぃが大きな声になってしまったようで)

 

   「なに 急に大声出してぇ・・・ここらは 山谷でねぇか?」

   「え、あ、はい。 山谷でございますな」

   「で、寺は 何処だ?」

   「はいはい 寺でございますな。 一寸待って下さいよ、随分 寺が多いなぁ、寺が並んでるよ、

   こんなに無くたって良いんだよ・・・・・・ふうんん、と。 あっ 此処でございますよ、此処です! 

   あ、お婆さん、お参りさせて戴きますよ。 お大尽、此処でお待ち下さい。 お婆さん、お花と

   お線香を・・・お花は これだけ? じゃそれ そっくり戴きましょう、桶も貸して下さい。 それと

   お線香ね (お大尽の様子を探りながら、小声で) あの、お線香だけど 煙が ドッと出る奴を

   お願いしますよ。 え、みんな同じです? じゃあ良いよ・・・火ぃ点けて、幾らだい? ここに

   御あし置きますからね。 はい お花、桶に、線香を・・・。 えへ、ぶへぇ、ごほっ こりゃ松明

   だね。 墓場入口ね。 あ お大尽、こちらでございます・・・ああら、お大尽 墓ばっかりでござ

   いますよ」

   「当たり前ぇじゃねぇか、ここは墓場だ。 喜助、喜瀬川の墓はどれだぁ」

   「あっ、一寸待ってくださいよって・・・・え~ 喜瀬川さんの墓はどれだ? 喜瀬川さんの墓は

   どれですかとぉ~、え~ 喜瀬川さんのぉ墓はぁ どこにぃ~、え~え~え~」

   「馬っ鹿ぁ野郎! 喜瀬川の墓!」

 

   「一寸待って下さい、私だってのべつ来る訳じゃないんで・・・ここいらで・・・どれにしようかな

   あ、在りました、此処です此処です。 お待ちください、準備を致しますんで。 なんまんだぶ

   なんまんだぶ・・・古い お花なんか捨てちまって。 お花を供えて、墓石に刻んだ名前が見え

   ねぇように。 そうそう 線香を。 ぶへぇ、ごほっ 煙で前が見えねぇ、これで良しと。 お大尽

   どうぞお参りください! あ、お水を掛けときましょう・・・どなたの墓だか 存じませんが、花に

   線香を供えてお参りをさせて戴きますんで少々ご辛抱を、さぁさ お大尽こちらでございます」

   「此処か、喜瀬川・・・わりゃ、こうだら姿に なっちまってよう、すまなかったぁ オラが もう少し

   早く来てやりゃ良かった・・・あああ、喜瀬川ぁ~、オラな 郷に帰って 女房と名のつくものはぁ

   持たねぇよ、オラは お前の骨 分けて貰ろうてな、朝に晩 手に手ぇ合してぇ・・・ぶへぇ ごほっ 

   喜助ぇ、おめえ 線香立てれば エエっちゅうもんじゃねぇ、煙くて しょうがねぇじゃ。 花だって、

   こんなに いっぺぇ供えちまって墓石が見えねぇじゃぁ・・・・なんまんだぶ なんまんだぶ (煙を

   払い、花を掻き分けて 墓石を確認して) ん、ん? なんだ 『****信士?』、『没年 天保

   三年?』 喜助ぇ! なんだこりゃ 『信士』 は男の戒名だぁ、没年 『天保三年』 だとぉ、そりゃ

   『鼠小僧』 が おっちんだ年じゃねぇか!」

   「いや、いや 間違えました! すみません・・・隣です、隣です」

   「なんだ、ああなデッけぇ墓と、こうたら 小っせえ墓と間違いやがって・・・喜瀬川ぁ 喜助の奴

   墓 間違げぇて、オラ 人様の墓の前で涙流しちまってよう、まぁ 隣だから聞えたんべぇがよう、

   ん、ん? 『**童女、行年 三歳?』・・・喜助ぇ!」

   「スミマセン、また間違えました・・・、お大尽、この隣です!」

   「馬っ鹿ゃ野郎! 喜瀬川の墓、何度も間違いやがって! 今度は大丈夫かぁ・・・・『故 陸軍

   歩兵上等兵****?』 ん、こら 喜助ぇ! 喜瀬川の墓ぁ、どれだぁ!」

   「へぇ ずらり並んでおります。 宜しいのを 『お見立て』 願います」