「一天四海・新涼の刻」、本日の 「トリ」 は 「入船亭扇遊師匠」 であります。

   

   本日の この天気、「台風・嵐」 でございますよ。

   それも 我々四人の 「日頃の悪行」 の数々が招いたのものでございましょうか?

   まぁ、そんな 「嵐」 の中を お運び戴きまして誠にありがとうございます。

   今日は 『心眼』 と云う 『噺』 をさせて戴くんでございますが、「お目」 の悪い方には 「音楽」 に

   優れた方が 大勢いらっしゃいましたな。

   「スティービー・ワンダー、レイ・チャールズ、日本では 辻井伸行さん」、そして シンガーソング・

   ライターであり ギタリストの 「長谷川きよしさん」 がおられます。

   「長谷川さん」 とは 「永六輔さん」 と ご一緒に、よく旅をさせて戴きましたなぁ。

   人間には 「五感」 と云います・・・「視覚・聴覚・触覚・味覚・嗅覚」 ですかね、それに加えまして 

   「第六感」 と云うものも在るんだそうですが、「長谷川さん」 とは 「麻雀」 を遣ったんでございま

   すが、「お目」 が 不自由ですから 「盲パイ」 と云う、「麻雀」 をされない方には お解かりに成ら

   ないと思いますが 「麻雀パイ」 を 「指先で読む」 と申しましょうかねぇ 「指先」 で 「パイ」 に 何

   が書かれているかを感じてゲームをするんですが、強いんですな。 

   「お目」 が不自由な方は 「杖」 をお持ちですが、その 「杖」 の突き方で 「生まれながらか 後に

   不自由になったか」 分かるそうですな。

   「生まれながら」 の方は 見た事が無い訳ですから、まぁ恐いもの知らずと申しましょうか 「頭が

   先に行く」、それに比べて 眼を患って見えなくなった方は 色々と恐いものを見ておりますから、

   どうしても 「杖」 ばっかりが前へ前へ行きまして 身体が後ろに残ると言いますなぁ。

 

   『心眼』

   「横浜」 まで営業に行き、「浅草寺」 に程近い 「浅草馬道」 の自宅に帰って参りました 「按摩の

   梅喜」 は 「不景気なのかね、仕事も無かったんで 早目に帰って来たよ」 と 言いますが、どうも

   様子がおかしい、顔色も悪いのを心配した 「女房・お竹」 が事情を察しまして 「お前さん・・・金

   さんと諍いがあったんじゃないかい」 と訊ねます。

   「女房」 から 優しく声を掛けられた時 「梅喜」 が急に泣き始めます、それも号泣でございまして

   涙ながらに話しますには 「実はな、家に飯代を持ち帰らなきゃと 『弟・金公』 に借金を頼みによ

   行ったんだい。 そしたら・・・・・・『ど盲、穀潰しの ど盲、ど盲』 と 罵られちまってな、悔しいから

   『茅場町の薬師様』 に信心してなぁ片目だけでも直して貰おうと、『横浜』 から歩いて来たんだ」

   と言うじゃありませんか。

   その日は、「女房」 に宥められて床に就いた 「梅喜」 ではございましたが、翌朝から 「薬師様」

   に 「目が明くように、二十一日の願掛け日参」 を始めまして・・・・・その 「満願の日」、何時もの

   ように 「賽銭」 を入れまして 「薬師様、浅草馬道の 『梅喜』 でございます。 きょうも 『賽銭』 を

   入れさせて貰いました。 今日で二十一日 『満願の日』 でございますよ。 私 『ひの・ふの・み』 

   で 手を叩きますんで、そしたら 『目が明く』 と言う事で よござんすかい。 じゃあ 叩きますんで、

   宜しく頼みます! 『ひの・ふの・み』 あ、あれ 目が・・・明かない。 もう一度 『ひの・ふの・み』

   あれ、明かないよ! あのぅ 『薬師様』、『梅喜』 で ございますよ、二十一日間 ええ毎日お参り

   に伺いまして、『お賽銭』 を 確かに入れさせて戴きましたよ! 今日で 『満願』 でございますよ

   ねぇ! でも 目が開きません。 『満願』 だってぇのに・・・・・『お賽銭』 だって 毎日・・・・・」

 

   「おいおい、お前 『梅喜』 じゃあないか? そうだ、『梅喜』 だよ・・・如何したんだい?」

   「えっ、あなたは・・・・?」

   「上総屋だよ、如何したんだい・・・『お薬師様に、二十一日の願掛け』 を、目が 見えるようにね。

   『満願』 なのに目が明かない? んん 『梅喜』、お前・・・見えてるんじゃないか? 私の顔が見

   えてるんじゃないか?」

   「え、ええっ。 あ、見えてる! 顔・姿が・・・・・。 貴方様が 『上総屋さん』 で、いや 初めまして、

   毎度お世話になって。 あああ 良かった! 目が見えるようになりました、『薬師様』 ありがとう

   ございます。 『上総屋の旦那さま』 ちょっと お尋ねいたします、家に 帰ろうと思うんですが・・・

   『浅草馬道』 は どちらに行けば宜しいんでしょうか?」

   「なんだい、二十一日間通ったんじゃないのかい?」

   「いえ、目が開きますとね 道が分かんなくなっちまって、手を引いては戴けませんか・・・ああっ 

   危ない! 『旦那さま』、今 私の前を行ったのは 何でございます? えっ、あれが 『人力車』 で

   ございますかぁ、話

   には聞いたことが、はい。 それで、あの乗っていた綺麗な人は どなたで ございましょうか?」

   「あ、あれが 『評判の芸者・小春』 だよ。 目が明いたばかりの お前にも 『綺麗だ』 って分かる

   んだねぇ。 え、家の 『女房・お竹』 も 『小春』 と同じように綺麗かってぇ・・・・・いやさ、お前さん

   は 『役者にも無いくらいの 良い男』 だよ、だが 『お竹』 は心だては良いんだが 『化け物』 に近

   くてなぁ よく 『人三・化け七』 ってえのがあるが、まぁ 『人無し化け十』 だな」

   自分の 「女房・お竹」 が 「化け物」 のようだと聞いてガッカリしております 『梅喜』 に 『上総屋』

   が、「そうだ、さっきの 『芸者・小春』 が言ってた 『お座敷で見かけた 按摩の梅喜さんて良い男

   だねぇ、役者にも無いってくらいだ。 目が不自由でなきゃ、一緒になりたいもんだ』 って惚れて

   たよ」

 

   それを聞いて喜ぶ 『梅喜』 でございましたが・・・・「浅草仲見世」 を通り、「観音様」 にお詣りを

   しておりますと、『上総屋』 は人混みに紛れて居なくなってしまいまして困っておりますと・・・・・。

   「おや、そこに居るのは 『梅喜さん』 じゃないか! あら 目が見えるようになったの?」

   『芸者・小春』 が声を掛けて 「良かった 良かった、あっ ここでは なんだから・・・・・食事でも」 と 

   富士下の 『待合い』 に案内して ご馳走をして呉れます。

   『小春』 に酒を注がれ 惚れてると・・・すっかり舞い上がった 『梅喜』、『化け物・お竹』 と別れて

   『小春』 と一緒になると言い出だしました処に、『上総屋』 から 『梅喜』 の 目が明いた事を知ら

   され 『観音様』 まで探しに来て 二人が 『待合い』 に入るのを見かけました 『女房・お竹』 が乗

   り込んでまいりまして、『梅喜』 の胸ぐらを掴み締め上げます!

   「勘弁してくれ、苦しい~。 『お竹』 俺が悪かった・・・・・苦しい~」

 

   「『梅喜さん』 如何したんだい? うなされてるよ。 起きなさい 『梅喜さん』 たら!」

   『梅喜』 は、『お竹』 に起こされて 目が覚めます・・・全て、『夢』 でございました。

   「今日から、『薬師様、二十一日願掛け』 を始めるのね。 一所懸命、信心して下さいね」

   「いや、俺は もう信心は止めたよ」

   「えっ、如何したのよ。 昨日まで思いつめた信心、如何して止す気になったんだい?」

   「盲ってぇ云うもんは、妙なものだねぇ。 寝てるうちだけが、良ぉ~く見えらい」