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シンガポール通信

Uniquely Singapore
with Global View

個人的な話で恐縮ですが、昨年より拘束力ゼロの完全自発的「勉強会」を業種横断的(実に多彩!)メンバーにて、月に一度のペースで夜7時くらいから3時間くらいの時間をかけ当事務所にて行っています。

会の名前は「クラウド」!

クラウドコンピューティングからとったネーミングですが、実にユニークなタレントの持ち主が集まっておりまして毎回楽しく頭の刺激を受けております。


さて、この「クラウド」メンバーの一人だった(この4月に帰国されました)
藻谷浩介氏
が今年6月に


「デフレの正体」-経済は「人口の波」で動くー

を角川より出されました。


まえがきで、「これは読んだ方がいい」ではじまる本です。こんな本は普通ありません・・爆。


巷の(数多いる)エコノミストや学者といった「識者」や、話題を煽るメディアは折に触れ景気予測、相場予測、xx予測等々といろんな予測をするものですが、普通当りません。
まあ、通常皆が納得しやすいような足元状況にバイアスの掛かった「予測」をするというのが通り相場ですので、その程度のものといえばそうなのですが、というか実際の人間の多様な振る舞いがあるからこそ市場が成立する(=出会いがある)と言えばいいでしょうか。


ただそういった中、めったに外れない予測があります。
人口動態予測です。


最強の地域エコノミストにして人口動態の現場観察者の同氏が展開されるポイントは、日本の多くの人にとってもしかしたら目からうろこかもしれません。
また、世界、アジア、当地シンガポールの将来を考える上でも多くの示唆に富むものです。
今後数回にわたり、この本が指摘する幾つかのポイントに沿ってシンガポール通信をお届けしようと思います。


まずは、「デフレの正体」-第1講 思い込みの殻にヒビを入れよう-
からの抜粋です。


~日本では、私が物心ついた頃からずっと、「GDPが上下した」「好景気だ」「いや不景気だ」というオール・オア・ナッシングな結論が、日々洪水のように流れています。
ですが、「GDPが下がる」とか「景気が悪い」とか言うのはつまり「何がどうなっている」ことなのでしょうか。景気がよくなると皆が幸せになっていろんな問題が解決するのでしょうか。
=中略=
健康診断にたとえましょう。日本の景気議論というのは、「自分の”総合体調指数”はAかBかCか」と騒いでいるようなものです。でも「総合体調指数」を見ているだけでは、血圧はいくらなのか、体脂肪率は、血糖値は、尿酸値は、肝機能は、というように、個別の重要指標がどうなっているのかわかりません。骨折していないか動脈瘤はないか、そういう外科的なこともわからない。
そんなことでは、仮に「総合体調指数」が悪化してきたとしても、運動すべきなのか静養すべきか、節食すべきなのかよく栄養を取るべきか、単にもっと寝ればいいのか特定の薬を飲むべきか、具体的な対処策は出てこないわけです。そんな中でやみくもに、「総合体調指数が落ちているぞ、とにかく健康づくりをしろ、健康づくりを」と叫んでも、「具体的にどこが悪いから、対処に何をしろ」というロジックがまるでないので、掛け声だけで終わるか、見当はずれの方向に行ってしまいがちです。
こういうと笑い話のようですが、「経済成長率が落ちているぞ、成長戦略をとれ、デフレ対策をしろ」と叫んでいるのも、まったくこれと同じ事なのです。=中略=
あちこちでいろんな人とお話しして気づくことですが、「内需が拡大しない理由は、景気が悪いからだ」なんて、機械的に考えている人も結構いらっしゃるのです。「景気が悪いのは内需が落ちているから」といった矢先に、「内需が落ちているのは景気が悪いから」では、ただの循環論法なのですが。
そして、これよりもさらに困った思考回路が、「景気さえよくなれば皆がハッピーになる」という思い込みです。今の「100年に1度の不況」が克服されればまた「好景気」がやってきて、皆が経済的に豊かになっていくというのですが、これは本当でしょうか。~


世間では「景気循環」等の「マクロ」の「理論」を振りかざした議論にややもすると焦点が当てられがちなのですが、「人口ボーナス(生産年齢人口が年々増加)」と「人口オーナス(生産年齢人口が減少に転じ、高齢者数が急増」という人口動態変化の影響たるや、景気の波(例えると普通の海の波)を簡単に打ち消してしまう、言ってみると潮の満ち引きにあたるものだ、というのが本書の底流に流れるものです。


今、日本を洗っているのは「景気の波」を打ち消すほど大きい、(100年どころか2000年来初めての)「人口の波」ということであり、又、「人口の加齢化」問題というのは何も日本だけの話しではなく、中国でもここシンガポールでもどこでも大局的には人類全体にのしかかる問題だという事です。

今回は筆者の趣味で、シンガポールのテニス事情について触れたいと思います。



あくまで筆者の体感ですが、シンガポールでテニスを趣味としてたしなむ人の数は少なくありません。全体における割合はともかく、実際にやる人は各々が週に複数回(多い人は一週間に五日間)テニスをします。大抵のコンドミニアムには住民用の施設としてテニスコートが用意されているのが主な理由でしょう。



しかしプロフェッショナルの世界でのシンガポールは、個人の選手名も国家自体も全くと言っていいほど話題に上りません。


その理由もそのはず。


男子個人という単位でのランキングは世界ツアーを運営しているATP(Association of Tennis Professionals)が出しています。このランキングによると、シンガポール国籍の人で男子の世界ツアーに登録されている数は1,782+人のうち「0」です。一人もいません(2010年7月19日現在)。この辺の事情は女子も同様で、WTA(Women's Tennis Association)に登録されている1,082+人のうち、シンガポール国籍を持つ者はやはりいません。つまり、後述する国別対抗戦には男女ともにアマチュア選手の集団で出場している事になります。


http://www.atpworldtour.com/Rankings/Singles.aspx
http://www.sonyericssonwtatour.com/page/RankingsSingles/


では国という単位での力はどうなのかというと、こちらも当然ながらパッとしません。


国別の力関係を見る場合はテニスの国家間対抗戦(男子のデビスカップと女子のフェドカップ)を運営するITF(International Tennis Federation)が発表するランキングを参照するのが一般的です。このITFランキングでは、シンガポールのデビスカップでの順位は135ヶ国中110位(2010年7月12日現在)、フェドカップでは94ヶ国中61位(2010年4月26日現在)という状況です。


ちなみに日本はデビスカップが29位、フェドカップでは20位ですね。このあいだの南アW杯で健闘した日本の男子サッカーのFIFA順位が今回45位から32位に上がった(女子サッカーのFIFA順位は5位、既に世界トップクラス)わけですが、それと比較すると日本のテニス界も結構頑張っていると言えます。


http://www.daviscup.com/ranking/current.asp
http://www.fedcup.com/ranking/current.asp



この現状に堪りかねてか、シンガポールの主なテニス運営主体であるSTA(Singapore Tennis Association)はシンガポール初のテニスプロを生み出すべく、12-14歳のジュニアから二人の育成対象を選定し、今後三年間、総額SGD500,000(約32百万円)を投入して二人をプロに育て上げるという声明を今年4月に発表しました。


選ばれる(或いは既に選定された)二人の為には一週間のうちに10回のトレーニングセッションが設けられるとの事です。代わりにその二人が要求される事は、学校をやめてテニスに完全に専念する事です。


STAの代表であるEdwin Lee氏曰く、「シンガポールという国は、社会体制や選手育成体制から考えてスポーツのプロとして生きていく事が難しい。シンガポール国民の才能が欠如しているとは思わない。ただ、隣国のタイやインドネシアのようにはテニスで成り上がろうとする人間がいなければ、組織的なサポートの用意もなかった。しかし、これからは違う。ファンドは立ち上げたし、才能ある選手も組織としてのバックアップ体制も整えた。結果がどう転ぶのかが実に楽しみだ」。


http://www.channelnewsasia.com/stories/singaporelocalnews/view/1047364/1/.html




この計画が上手くいってシンガポール国籍のツアープロを輩出できるのか、それとも思うようにいかずに、卓球よろしく他国の選手を輸入する手段に頼るハメとなるのか。泣いても笑っても、三年後には答えが出ます。

前回、大抵のシンガポール人は何らかのスポーツを定期的に行っている事が多いと書きました。ですが、皆が皆、能動的に行っているのか否かとなると話は全く変わってきます。


結論から言いますと、国家政策としてスポーツを重要視しており国民がスポーツ活動を行うのを推奨している事、運動能力試験を受験する事で一定の体力レベルを維持するよう促している事、そして徴兵制の関係で少なくとも男性はある程度鍛え続けざるを得ない事の三つが、多くのシンガポール人が運動を頻繁に行う動機となっていると筆者は推量しています。


シンガポールのスポーツ政策を担う機関は Singapore Sports Council といいます(直訳だとシンガポールスポーツ協議会でしょうか)。この機関はスポーツを国民生活に欠かせない重要なものとして位置づけており、「国民全体のスポーツへの積極的関与」、「国際大会における成績向上」、そして「シンガポール国内のスポーツ産業振興」の三つを政策の三本柱としています。


「国際大会における成績向上」と「シンガポール国内のスポーツ産業振興」を掲げる理由としては、要するにこれらは政府のスポーツに対する力の入れ具合を評価する際の指標としてもっとも分り易く、更にはシンガポール国家の世界全体における地位を定めるものの一つであり、だからこそ政策として推し進めていく必要だあるのだ、という事のようです。話としては分かる気がします。


「国民全体のスポーツへの積極的関与」の概要は以下。


「スポーツは国家のアイデンティティを表すものである。そしてスポーツは人種、文化、男女や経済力の違いを乗り越えて人々を一つにする力がある。(中略)スポーツを行い続ける事は国民全員の目標であるべきであり、スポーツをする事自体は決して才能溢れる人間だけの特権でもなんでもない。(中略)当機関は老若男女すべてに適したスポーツプログラムを用意している。また、国民参加用としてマラソン大会やトライアスロン大会を、観戦用として世界ツアーのゴルフ、バドミントンやバスケットボール大会を定期的に開催するものである」


http://www.ssc.gov.sg/publish/Corporate/en/participation/participation.html より拙訳)



上記のスポーツ政策の方針と関連して政府は運動能力試験(NAPFA, National Physical Fitness Award)を設けており、小中学生は受験するのが必須となっています。教育期間を終了した者は必須ではないものの、受験自体は依然として強く推奨されているようです。

NAPFAの内容は、いわゆる腹筋、立ち幅跳び、座位体前屈、懸垂、短距離ダッシュと2.4km走の三つで構成されています。評価はAからFの六段階で、全てE以上取るのが望ましいとされています(どれか一つでもFがあると、学校での成績評価に悪影響があるとかないとか)。日本でも同様の運動能力試験(スポーツテストという名称)がありますが、シンガポールの場合、このテストが特に男性にとって成人後も大きく人生に関わってくるという点で異なっています。



シンガポールには徴兵制があります。


対象者は満18歳以上のシンガポール国民か永住者の第二世代以降(永住権を獲得した時点で18歳以上の息子が存在する場合も、その息子は徴兵の対象)の男子で、二年間 Singapore Armed Force(SAF、シンガポール国防軍)、Singapore Police Force(警察機構)か Singapore Civil Defence Force(基本的には消防や救急医療を担当する模様)のいずれかに従属して訓練(Basic Military Training)を受ける必要があります。シンガポールは、徴兵期間が18ヶ月を越える国としてはイスラエルと韓国に次いで世界三位だそうです。


上記の二年間の訓練期間(この期間は先述のNAPFAの結果で多少減る事があり得ます。全試験項目でD評価以上を獲得した者は二ヶ月分免除され、持病や深刻な怪我や病気等がないと診断された者は更に二ヶ月分免除されます)を終えた者は常時待機という扱いとなります。年に一度の頻度で一週間ほどの訓練期間が設定されており、これは本人が40歳もしくは50歳になるまで続きます。訓練期間の増減は本人の評価次第。この年に一度の訓練には二種類あり、一つは実戦演習(一週間以上)で、もう一つは体力向上などを目的とする基礎訓練(六日間以上)です。運動能力次第で訓練期間が短くなるというのですから、鍛えないという選択肢はあり得ません。


このような事情からか、50歳未満のシンガポール人で肥満の人間はそんなに見ない気がします(50歳以上はなんとも)。国民が身体訓練を怠けるのを政策が許してはくれないんですね。元々運動が好きな人間にとっては何ともないでしょうが、元来運動が苦手な人間にとっては多少大変だとは思います。それでも、一定の体力レベルを維持し続ける事は一般論としては望ましい事だと言えます。そうする事で変な病気を患う事も減るでしょうし、心身の健康も維持できるというものです。


ですから、もし18歳未満の息子さんがいて、その子が運動もせずにグータラしていて悩ましいとお考えでしたら、シンガポールで永住権を獲得するのを考慮されてはいかがでしょうか。息子さんとの関係が良い方に変わるか、それとも悪い方向に変わるかは保証しかねますが…。