前回のシンガポール通信にて「もしかしたら、何がしかの異変が起こるかも」とお伝えいたしました、2011年シンガポール総選挙(5月7日投票日)ですが、結果は与党PAP(人民行動党)が議席の大半(81/87議席=93%)を獲得したものの、野党WP(労働者党)がなんと6議席も獲得するという前代未聞な結果となりました。
尤も、たかが6議席(7%相当)の話ですので別に騒ぐほどのものではないでしょう、とお思いのお方が殆どでしょうが、当地の実感からしますと今回の(過去に無い程の盛り上がりを見せた)総選挙結果は「これまでの、ひとつの時代の終わり」を示唆するもののように感じられます。
野党が過去最高の6議席!を獲得した事自体が快挙なのですが、野党の過去の獲得議席は全て定数1名の単独選挙区(SMC)での獲得だったのに対し、今回の獲得議席数6の内5議席は集団選挙区(GRC)選挙にて獲得したという点が特筆すべき点でしょうか。
集団選挙区というのはシンガポール特有の所謂「中選挙区制」の一種ですが、今回の選挙区割では、
(1)定数1名の単独選挙区(SMC)が12区(総数12議席)
(2)定数4~6名の集団選挙区(GRC)が15区(総数75議席)
となっており、毎度のことですが集団選挙区(GRC)が鍵となっていました。
集団選挙区(GRC)では、政党として
・その選挙区定数一杯の候補者をチームとして立てる必要があり、
・又そのチームは華人・マレー・インド系といった人種毎のバランスを取れたものにする必要があります。
集団選挙区の有権者は、候補政党のチームに投票し(無所属での立候補はありません)、得票数の高かった政党がその選挙区の「定数全議席を総取りする」という仕組みになっています。
従来は、ゲリマンダー的選挙区割の為に、なかなか与党PAPを上回る票を獲得することができなかった、というよりそもそも野党は集団選挙区に定数を満たすチーム候補の擁立すらままならず与党PAPに多くの集団選挙区で無投票当選を許してきたものでした。
それが今回は、ほぼ全ての集団選挙区で候補者を擁立しコンテストを競い、そしてアルジュニード集団選挙区にて、こともあろうに現職のジョージ・ヨー外相率いる与党PAPチームを破ってラウ・ ティアキアン労働者党(WP)書記長率いるチームが集団選挙区での初の勝利をあげることになりました。
当地シンガポールでの盛り上がり方は大変なもので、特に当然ながらアルジュニード地区はお祭り騒ぎでした。
因みに選挙翌日の(当地を代表する新聞)ストレイトタイムズ日曜版は選挙結果を掲載する為に遅れて店頭にならんだのですが、51万部売れたそうです。シンガポールに住む外国人を含めた全員の10人に1人が新聞を買った計算になります。
=分岐点=
アルジュニード集団選挙区での敗北を受けて、ジョージ・ヨー氏は政界からの引退を表明(*注)。
同じく単独選挙区(SMC)でWPに敗れた財務副大臣兼運輸副大臣でもあったMrsリム・フィーファ首相府相も政界引退を表明しました。
リー・ シェンロン首相は、今回の選挙結果について「有権者は政府が今の政治姿勢や手法を改めることを望んでおり、そのために野党勢力に人民行動党政府を監督する任務を託した」と総括した上で、「我々は今回の選挙戦から教訓を汲み取り、誤りを正したい」と事実上の敗北(?)を認めました。
・・・で、決断と実行はどこの国よりも早いシンガポール!
(どこかの国とはエライ違いです)
31年間首相の座にあった建国の父リー・クアンユー顧問相(87)と後任で14年間首相を務めたゴー・チョクトン上級相(69)は5月14日、共同声明を発表し、閣外へ去る事を早速表明しました。(議員は続行)
声明で両氏は総選挙を「分岐点」と表現し「若い世代は、自分たちに影響を与える決定に自らかかわりたいと望んでいる」と政治潮流に変化が起きていることを認め、若い世代の閣僚のみで構成する政府に将来を託すことを決めたというものでした。
リー顧問相は政府投資公社(GIC)会長職、ゴー上級相はMAS(シンガポール金融管理庁&中央銀行)長官職も辞任(とはいえ夫々上級顧問に就任)、後任はGIC会長がリー・シェンロン首相、MAS長官はターマン財務相が就任しました。
リー・シェンロン首相は5月18日、新内閣の陣容を発表。
14省のうち11省で大臣が交代しました。
ターマン・シャンムガラトナム財務相は人材開発相兼任となり、また副首相に登用されました。
テオ・チーヒエン副首相は内相および国防調整相兼任になりました。
リー顧問相、ゴー上級相、以外に内閣を去るのは、ウォン・カンセン内相、マー・ボータン国家開発相、レイモンド・リム運輸相、ジャヤクマル上級相・国防調整相、リム・ブンヘン首相府相、および選挙で落選したジョージ・ヨー外相とリム・フィーファ首相府相。
総選挙では与党・人民行動党(PAP)の傲慢とみなされる姿勢に対する不満に対し、リー首相は選挙戦半ば、イスラム原理主義者の脱獄、オーチャード・ロードの冠水、住宅価格の高騰、MRT(地下鉄・高架鉄道)の混雑等を謝罪していたのですが、これらの問題を担当した大臣は、ウォン内相、マー国家開発相、リム運輸相でした。
まさに、信賞必罰がはっきりした国ですねえ。
(どこかの国とはエライ違いです)
因みに、新内閣の平均年齢は53歳(前の内閣は59歳)。
閣僚数は兼任が多いため21人から15人に6人減少しています。
(*注)
選挙後の会見で、「与党・人民行動党(PAP)は国民、特に若い世代との一体感を構築するため変容が必要。多くの国民が、愛するシンガポールから疎外されていると感じているのは望ましいことではない」と述べ又、次期総選挙には出馬しない意向で「若い人に後を任せる」と語ったヨー氏ですが、大統領選挙あるいは国連事務総長選挙への出馬を求める声があるようです。
「私は自由が好きだから、大統領職は不向き。また国連事務総長人事は、潘基文氏の次はアジアからは選ばれないため論じるまでもない」と当初は否定していた同氏ですが、「多くの国民が大統領選への出馬を再検討するよう求めている。一所懸命考えている」との文章を6月1日のフェースブックに掲載しています。
尚、シンガポール大統領選挙は8月末までに行われる事になっており、既に資格審査のための書類配布が行われております。
