JR京浜東北線で、大宮から品川まで各駅停車で通っている。月曜から金曜まで、毎早朝サラリーマン諸氏にまみれて。彼ら彼女らと一緒に、地味にコツコツと。
しかし、加齢による体力消耗は著しい。
おまけに回復のペースも、どんどん鈍化してきている。
これから夏本番を迎える。通学途上で万が一、ということも心配しなくてはいけない年代に入っている。
そこで、危機管理を励行するようにした。

必ず座って行く

これだけを固守すると決めた。6月から必ず。
混雑で40分も立ちっぱなしを強いられるくらいなら、70分かけても座って鈍行で行く方が年寄りには良い。
立ったままの何にもできない40分と、座れることによりまがりなりにも読書やテキスト学習に充てられる70分の差の何と大きいことにも気づいた。これを4年継続したら、その差は残された人生時間にどれだけの成果をもたらしてくれるか。
答えははっきりしている。
高崎線と宇都宮線は、グリーン席にでも乗らない限り、通勤時間帯に大宮から座れるなんてことは、絶対ありえない。
だから、僕は、大宮から品川まで各駅停車の鈍行を選んで、それに揺られて海洋大に通学したんだよ。


車内の壁にある書籍広告のキャチーなアド文に今朝は目をひかれた。今朝6時の京浜東北線始発。

……せめて離れているときくらい、
あの人を忘れたい……

わかるなぁ、その気持ち。よぉく、わかる。
パートナーか、職場の上司か、取引相手のさき様か。
はたまた、地域の自治会か、子供のママ友かパパ友か、クラスメートか………いろいろあろう。
嫌いなら尚更、嫌いでなくとも、その日の気分でなぜかその人とは距離をおきたい……と思える日が確かにある。
公務員現役時代は、毎日がその気持ちとの格闘だった。
そして、海洋大に入って2ヶ月過ぎて、今の僕。
再びそんな感情がムクムク頭を持ち上げ出した。
わずか47人しかいない同じ学科のクラスメートは、公立普通科学級1クラス規模。
その半分も名前が覚えられない。とくに男子が駄目だ。
まったく彼らに興味が沸かない。沸かなきゃ、会話もないし、アイコンタクトも避ける。おのずと名前も覚えず、トイレで隣に立たれても同級生と気づかない。
さぞかし、男子学生の間では、評判悪いだろう。

あの爺ジイ、ウチラをシカトしてら。コッチもアイツ、ハブるべ。」

な〜んて、ライン回してたりして………
でも、コッチは全然気にしない。興味がないんだから、どんなに思われても気にならない。
とにかく男子はツマラナイ。
つまらない理由は、おいおい書く。僕の中で、そのネガティブな感情の理由は分析済みだから、まとめて沖縄サバニレースの後、たっぷり時間かけてここで述べよう。
あわせて、リケジョたちひとりひとりの、実に個性的かつユニークな人生がいかに僕を惹きつけてやまぬかも。
ただし、あらかじめ申しておくが、僕にはセクシュアルなよこしまな意図や感情は皆無だ。
おかしな犯罪に走ることは、死んでもない。

さて、道草が長くなった。
その書籍、だったね。
面と向かってそうできないなら、せめて離れている時くらい、頭の中から追い出したい。
そのノウハウを書いた1冊なのだろう。
面白い着眼点だ。そこそこは売れるに違いない。
悪いが、僕は金を出してまで買わないけど。


ほどよく孤独に生きてみる」……か。 


この「ほどよく」ってのが非常に難しい。

近頃の同調圧力に対する若者たちの無批判、無抵抗ぶりを日々横目で観察している。


「大変だな、今の若い奴らも」

………とは、思わない。そんな同情を抱くこともない。

多分産まれた時から、同調圧力の海で育てられてきた彼らには、その環境の中で生きることが呼吸と一緒になっているのだと思う。家族とは別の、空気とSNSの実に曖昧な世界でそこにワンノブセムであることの慰安感に浸る。

現実世界での独り歩きの不安さえ知らないのかも知れない。

孤立と孤独を昔から愛してきた僕にして、そんなふうに思えてくる。

ここにもまた、ひとつの埋めきれない溝の果てしなき深さを感じる。