【しらせ】しか、南極には行けないと思ってた。
総合研究大学院大学を経て、国立極地研究所に採用された研究者にならなきゃ、調理や施設メンテスタッフを除いて原則南極観測チームに加われないと思ってた。
海洋大を4年で卒業しても、まだ足りないんだと、少し諦めていた。
確かにそうだ。
でも、南極に行くには、もう一つ別のルートがあった。
知らなかった。
多分、多くの日本人もそうに違いない。
昨日のガイダンスで、海洋専攻科主任教授から、嬉しい情報がもたらされた。

海洋大には、「海洋専攻科」が併設されていて、学部3年ないし4年修了後に20名の枠で進学できる。
ここには、あと長崎大と鹿児島大からそれぞれ10名づつもやって来る。実習中心の航海技術者養成の専門課程になる。
1年修学期間を経て、「3級海技士」の免許資格が得られる。(→面接と口述のみで免許がもらえる)
船の大きさにより、クラス分けされた航海士資格が、与えられるのだ。普通の近海漁業船なら一等航海士になれる。
更に教員免許【商船】が無条件で付与される。
これがあるのは、東京海洋大だけなのだ。
海洋大だけの恩典なのだ。大切にしなくちゃ!



実は、この海洋専攻科期間中に、複数回の航海実習があり、その中の白眉が南極海航海なのだ!
吠える南緯60度を越え、荒れ狂う70度に達する航海で、南極大陸に限りなく接近する。
ただし、南極大陸接岸及び上陸はない。
主要実習船【海鷹丸】は、しらせが装備するラミング機能がないため、自力で着氷域航行が不可能になる。よって、おおむね70度より高緯度には接近しない。
しかし、それで良い。それで、もう今の自分の置かれた極めて制約された条件下では、満足するしかないし、十分満足できる。

僕は、決めた。
3年で必要単位を全部修め、繰り上げ卒業する。
そして、海洋専攻科に進む。大学院には行かない。
海鷹丸で南極海を航海すること、それだけを目標にしよう。
3年半後には、可能であれば、僕は、南極に果てしなく近づけるんだ。
海鷹丸の甲板に立ち、南極大陸中央から吹き付ける高気圧のカタバ風に全身を凍えさせて嬉々とする自分の姿が想像できた。
なんでも、そうだ。すべて、行動ありきだ。

夢がまたひとつ、現実に近づいた。