6月3日「橘香会」当日
お装束を付けて揚げ幕の前に立つ。ただこれだけなのに言葉では言い表せない不安に襲われる。
『立ち位置は本舞台に入ってから何足の所だった?』
『謡の調子は申合(リハーサル)通りでいくか、少し高めにするか?』
『座る時、動かないで座れる様に足首、膝を制御出来るか?』
自分の中で当日に向けて準備は怠っていないにもかかわらず、舞台当日独特の緊張感から来る不安。6月3日の橘香会、能「朝長」でツレのお役を頂き、舞台に出る直前の心境でした。
それでも能が始まってしまった以上、お役を全うせねばなりません。芸大時代の能楽担当教官がおっしゃっていました。「僕は年中人に教えているから、いつも自分に厳しく、これでいいのかな?と謙虚さを忘れないようにしてます。でも舞台では、これでいいのだ。と言い切って舞台に出て、舞台が終わってからすぐに反省するのがプロなんだよ。お金を払って見に来て頂く方に迷いのある舞台なんて見せるもんじゃないよ、君。」と。
全ての不安を体の奥底にしまい込み、強い気持ちで舞台に望みました。
結果が良かったかどうかなんてよくわかりません。ただ、万三郎先生やおシテの方から特別大きなご注意も無く舞台を終えられた事だけは確かでした。
舞台上で常に強い気持ちを忘れない事。これからの自分の大きなテーマのように感じました。
朝長 ツレ 青木健一 (撮影 山口宏子)