2022年11月12日
(その一)からの続きです
稜線の分岐点で暫しの休憩の後
山頂へ向けて稜線道を歩き出す
鞍部に近いこの辺りは風の通り道
南風がチシマザサの海を
サワサワと波打たせて吹き抜けて行く
それはまるで水面のさざ波のよう
そんな光景を目に暫しの登行の後
上越国境稜線を振り返る
オジカ沢ノ頭へとうねうねと続く稜線と
そこから俎嵓へと延びる美しいライン
もう幾度となく眺めた光景なのだが
見飽きる事がない
小さな露岩部を北側から巻くと
山頂と肩ノ小屋が見えて来る
頂きまではもうひと頑張りだ
だが、中ゴー尾根の緩みの無い急登道を
登って来たせいか
徐々に脚に疲労を感じ始める
ゆっくりと、それでも着実にと歩を進めて
漸く登山者の屯する
肩ノ小屋へと辿り着く
今朝出発してからここまで
誰にも会わなかったのだけれど
ここで瞬時に現実世界へと戻される
相変わらず人気の谷川岳だった
小屋から山頂まではひと登りの距離
13:17
折角だから山頂くらいは踏んでおこうと
トマノ耳まで登ってみる
頂標前は何時もの如く
登山者が入れ代わり立ち代わり
そんな様子を横目に
お決まりの展望写真を撮る
今日は雲もなくて好条件かと思ったが
それは北側の空気の乾いたエリアのみ
やはり南風の影響は大きくて
間近な俎嵓山稜辺りまで靄が迫り
南側の関東平野側は
予想通り遠望は利かなかった
山頂から肩ノ小屋まで戻り
下山路の天神尾根へと進路をとる
13時半を回ったというのに
登ってくる登山者も多い
ロープウェイの最終に
間に合えば良いと言うことか
そんな登山者たちと幾人もすれ違って
中ゴー尾根を望める辺りまで下りて来た
まるで爬虫類の背中のような中ゴー尾根
そしてその向こうには
俎嵓へと延びる美しい吊り尾根
谷川岳へ来てこの景色だけは外せない
ともすれば、手前の笹原に隠されて
見えない事も多い中ゴー尾根だが
その存在を知り己の脚で辿ってみると
中々奥深い谷川岳の
魅力の深さが見えてくる
13:50
天狗ノ留場を通過して
14:11
熊穴沢避難小屋まで下りて来た
ここは”いわお新道”の分岐点
だが、そちら側にはロープが張られて
通せんぼ状態になっていた
今朝辿って来た谷川沿いのあの道は
もはや一般的ではなく
一部の熟達者のみの世界
多くの登山者が行き交う
この天神尾根コースにおいては
その通せんぼ処置は
遭対協さんの適切な処置なのかも知れない
避難小屋で暫しの休憩をとり
更に下山路を行き
14:39
天神峠分岐点
ここをその天神峠方面へと進路をとる
ここから天神山までは登り返し
すっかり疲労が溜まってる脚では
この登り返しが本当にキツかった
それでも展望の利く露岩まで上がれば
疲れを癒す景色が待っていた
日が西に傾いて彫りの深くなった谷川岳
そして湯檜曽川を挟んだ先の笠ヶ岳
谷川の頂きからよりも
この高度から眺めるのが
美しいと思える姿だった
14:58
天神峠へやって来た
ここはリフトの頂上駅
幾人もの観光客の姿の中に
登山者姿の自分は一人浮いた存在に見える
頂上駅の南側が天神山の最高点
ですが、頂標はなく東屋があるだけ
そしてそこにも多くの観光客の姿が
でも、よく考えると
こんな山中の観光客の姿の方が異様かも?
で、その東屋の正面に
奥之院古道の入り口がある
15:04
その奥之院古道を下りだす
当初、保登野沢コースで下ろうと
思っていたのだけれど
以前にも下った事があるし
奥之院古道の刈払い具合が
とても良さそうだったので
急遽、こちらに変更したのでした
古道へ入ると確りと刈払いがなされている
ただ、道としての踏み跡は皆無に等しく
長い間、人に踏まれて無かったと思われる
思えば以前はこんな道は無かったし
地理院地図にも表記が無い
恐らく長い間
忘れ去られていた道なのだろうと
この時は感じたのだった
帰宅後に調べてみると
この道の起源は室町時代に遡り
オキノ耳の北方にある富士浅間神社奥之院へ
参拝する為の道だったとの事
しかし谷川岳ロープウェイが出来てからは
その存在意義が失われて廃道化
道は藪に飲まれて
何時しか忘れ去られてしまっていた
そんな由緒ある古道を復活させようと
最近刈払いの手が入り
道として再び姿を現したのだった
歩き出した道には
ふかふかに落ち葉が積もり
気持ち良いような歩き難いような
そんな道は次第に傾斜を強めて
何時しか急下降路へと姿を変える
勿論、そこにはトラロープが張られてはいるが
全くステップも無い急斜面
欲を言えばここにはハシゴが欲しいと
思う場所が随所に現れるが
あるのは長いトラロープのみ
ほぼトラロープにぶら下がるようにして
急下降路を下って行く
冒頭の高低図を見れば分かると思うが
往路の中ゴー尾根の傾斜より
この天神山からの傾斜の方が格段に強く
如何に急斜面なのかが表れている
長い長いトラロープ頼りの下降路も
漸く傾斜を緩めだして
15:51
送電線巡視路の分岐点に下り立った
そこには古い案内表示板
そしてその先には送電線鉄塔がある
そこからは緩やか傾斜で
広々とした歩きやすい道が始まる
恐らくこの鉄塔までは
奥之院古道も巡視路として使われ続けて
今に至っているのだろうと思われる
そのせいか道は確りと踏まれて
ちゃんと道の体を成している
そんな道をホッとした気持ちで下って行けば
何時しか日没の時間
西日は山の端に落ちて
振り返れば俎嵓山稜もシルエットとなって
彼方に佇んでいる
さあ、これからは暗くなる一方
まだ空が明るいうちに
下ってしまいたいと思う気持ちが
脚運びに表れる
だが、ここで焦ってはいけない
こんな時こそ慎重にだ
道は再び傾斜を増してトラロープも現れる
だが、先程のような傾斜にはならなかった
辺りは標高が落ちたせいか
紅葉がイイ感じに色付き出している
写真ではまだ明るさがあるように見えるが
それは高感度カメラの為せる業
実際は薄暗がりに明るい黄葉として見える
そんな傾斜の道を下ってきたが
闇はとうとう優勢となって
灯り無しでは厳しくなった
ここで観念してヘッドランプを灯す
道は相変わらず急な下り道
トラロープも続いているが
斜面にはステップが切られだして
漸く登山道らしくなってきた
クマ除けだろうか?
所々に鍋やフライパンが下げられていて
それを叩きながら下って行けば
道は丸太階段に切り替わり
17:02
僅かな距離で
富士浅間神社の境内に下り立った
そこから杉木立の参道を下り
鳥居を潜ると温泉街の車道に出る
17:13
無事に車へと到着です
今回初めて歩いた奥之院古道
鉄塔から上部は長い間廃道状態だった部分
刈払いは為されてはいましたが
道としてはまだまだ普請の余地ありで
登りなら未だしも下りでの使用には
かなりの危険箇所も見受けられました
折角の復活した古道ですから
今後の整備に期待したいと思います