同宿だった三人組が起きだし出発の準備の音で目覚める。
時計を見ると4:30だった。
窓の外を見ると朝焼けの空が見える、今日も天気は良さそうだ。
朝食を作り食べ始めると三人組が出発して行った、彼らは途中で朝食を摂る事にしたようだ。確かに、起きて直ぐは食は進まないものだ。
明月荘経由で滑川温泉に下ると言っていたので途中まではコースが同じ、どこかで追いつくかもしれない。
5:45に小屋を出発する、テント泊の時より15分程早く出発ができた。
木道を昨日来た方向へ歩きだす、朝露に濡れた高山植物が瑞々しい。
北西方向の山並みが墨絵のようだ。
昨日はまだ赤い蕾だったイワオトギリが黄色い花を開いていた、一晩で一斉に開くなどとは思ってもいなかった。
梵天岩から大凹(おおくぼ)へ下り中大巓(なかだいてん)へ登り返す。
人形石から藤十郎へ緩い下りを進む。
まだ歩きだしたばかりと言うのもあるが足が軽い。
昨日はこの辺りは終盤で疲れていたのでこんな傾斜でも大変だった。
藤十郎から見下ろす湿原の木道を三人組が歩いて行くのが見えた。
朝日に向かって気持ちの良い木道を歩く。
今回の一番気持ちの良い所はこの弥兵衛平だろう、と思いながら東大巓への登り気味な木道を進む。
明月荘の分岐点で一休み、あの三人組には追いつけなかった。
日が高くなるにつれ暑くなってきた、肌の露出部分に日焼け止めを塗る。
刈り払ったササが木道上に敷き詰められたように散らばっていて少し歩き難い。
東大巓分岐に着く。
ここから谷地平へ下り鎌沼へと登り返すように考えていた。
昨日のササの藪こぎはもう勘弁だ。
するとその谷地平の方から男性が登って来た。
見ると、ズボンや靴が泥だらけ、上体は汗だらけ、大きなザックを放り出すように降ろした。
開口一番「もう二度と通りたくねぇ」といった。
これからここを下ると言ったら、「やめた方がいい」と言われた。
今朝、谷地平小屋を出発したが判り難い徒渉点を何か所も通り、背丈以上のササの藪こぎがずっと上まで続いていて足元も見えず大変だったようだ。
昨日ニセ烏帽子の辺りの藪こぎが大変だった事を言うと、「ニセ烏帽子の方がマシだと思うよ」との返答。
やはり昨日のルートを戻ったほうが善さそうだ。
彼は今晩は西吾妻小屋に泊まるようなので水場の状況を教えてあげた。
東大巓分岐から稜線の道を東へ進む、道はササに覆われている。
前方のササ藪を揺らして大型の動物が谷の方へ逃げて行った。
あの藪の揺れ方はクマかイノシシだろう、シカやカモシカとは違うようだった。
今回はクマ避けのスズを忘れてきてしまっている、こうゆう時は手をパンパンたたくと効果がある。
この後は時々手をパンパン叩きながら進む。
昭元山、烏帽子山を通過してニセ烏帽子の山頂に着く。
ここで小休止する、二羽のホシガラスが鳴いている。
ニセ烏帽子の下り、藪こぎの始まりだ。
今日は覚悟ができているせいか昨日ほどの不安は無い、が、下りなので足元が本当に見えない。
突然、落とし穴にでも落ちたように段差を落ちる。
ササの切れ間に出ると前方から藪を揺らして何かが迫って来る、手を何度も叩くが効果なし。
これはいよいよ遭遇か、と思いきやひょっこりと老夫婦が顔を出す。
今朝、吾妻小屋を出て今夜は明月荘泊まりの予定だがこの藪こぎがどこまで続くか不安な様子。
ニセ烏帽子の山頂まで辛抱すれば、後は胸から下の藪こぎだと教えると安心したようだった。
兵子を過ぎ家形山まで来ると五色沼と一切経山が見える、何度みても素晴らしい景色だ。
雷鳴と伴に雨粒が落ちてくる、太陽はまだ見えているのでお天気雨だ。
雨具を着けずに五色沼へ向かうが途中で大粒の雨に変わってしまった。
今回は通常のカッパの他にポンチョを持ってきたのでそれを羽織る。
羽織るのにコツがいるが、これはなかなかいい、上体とザックをスッポリとカバーできてしかも蒸れない、状況によってはこれは優れものだと思う。
一切経山のザレた登りを急いで登る、雷鳴は強くなってきている。
山頂のケルンを遠巻きに通過し速足で酸ヶ平避難小屋を目指す。
雷鳴にビビリながらザレた道を下る。
避難小屋が近付くころ青空が現れ雷鳴は遠のいていた。
結局一番会いたくない所で雷と遭遇した事になってしまった。こんな僅かな時間なら五色沼湖畔の樹林の中で待避していれば良かったのかも知れない。
避難小屋から待避していた家族連れが出てくる。
小屋へは寄らず浄土平へ下る。
車に到着したのは3時だった。
今回の吾妻山、東西両端のコースは良く整備されているが中間の家形山から東大巓間の整備をお願いしたい。所々に古い米沢市の看板が掲げられていたので米沢市の管轄かと思います、行政はそんな余裕が無いと言われれば仕方が無いのですが、こんな素晴らしい所が勿体ない気もします。
山中で会った猟師さんも言っていたように震災後はパッタリひとが来てないようなので皆さん是非行って見て下さい。天元台スキー場からならば比較的楽に稜線に上がれます、そうすれば東大巓までの湿原群が楽しめると思います。
ガンバレ東北と言っているだけではなく少しでも足を運んではいかがでしょうか。