百名山のひとつ福島山形県境の吾妻山へ行ってきた。
磐梯吾妻スカイライン(今は無料開放)で浄土平に着く。
目の前に噴煙を上げた一切経山が大きく迫る。
準備を済ませ駐車場を出発したのが7:00だ。
散策路を西に進むと噴気孔の近くを通るルートの分岐点、しかし震災後の火山活動活発化でこのコースは閉鎖されていた。
この分岐を真っ直ぐ鎌沼方面に進み、酸ヶ平経由で一切経を目指す。
標高は1500mを越えているのに気温が高く汗が噴き出してくる。ここはそよ風が欲しい所だ。
酸ヶ平避難小屋を過ぎると鎌沼が見えてくる。
ザレた道を登り尾根上を進むと一切経山頂、だだっ広い山頂にケルン状に石が積まれ「空気大感謝塔」がある。
北側へ行くと五色沼が見えてくる、青い水を湛えた神秘的な湖だ。
ここまでは観光客もやってくる、観光ガイドなどでお馴染の景色だ、北側にザレた道を下る。
正面には家形山から連なる吾妻連峰が見渡せる
五色沼湖畔まで下る、湖面の色は空の色を映しているのかと思っていたがそうではないようだ。湖岸から深部に向かって微妙なグラデーションが怪しげに移ろう、もう少し見ていたいが先を急ぐので家形山の登りにかかる。
高湯温泉への分岐を過ぎるとジグザグの登り、道の両側にはゴヨウマツが茂っている、一見ハイマツの様に見えるが条件の良いところでは幹が立ち上がっているのでそれと判る。
家形山で小休止、五色沼と一切経山を振り返る。
三人の登山者が五色沼の方へ下って行く、この時間にここを通過するには早朝に明月荘あたりを出たのだろうか。
五色温泉への道を分けると下りだす、ササが道を覆うようになるが道形ははっきりしているので迷うような事は無い。
兵子の分岐を過ぎると登りだ、道を覆うササの背丈がだんだん高くなり自分の背丈より高くなってきた、こうなると完全な藪こぎ状態で、ササの中を潜るように進む。
半そでシャツから出た腕が小さな引っかき傷だらけになりそこへ汗がしみる。
ササの中は風などは無いからもう汗だくだ。
20分程ササと格闘するとササ藪が切れニセ烏帽子山の山頂に到着。
山頂は南側の展望があるだけだ、この先こんな道がどこまで続くのか心配だ。
烏帽子山へ向かい下る、ササは相変わらず道を覆っているが胸から腰程の高さで先ほどよりは全然歩き易い。しかし足元は良く見えないので段差や石に気を付けないと躓いたりする。
鞍部を過ぎると烏帽子山の登り、コメツガのトンネルの中を登る。ササの背丈は小さくなって大分歩き易くなってきた。
道端にはミヤマリンドウも咲いている、山頂部の平らな道を南に進むと烏帽子山の標柱のある山頂だった。
展望が良く、正面に谷地平を見下ろし東方には今朝来た一切経山が小さく見え歩いて来た距離が実感できる。西方を見ると直ぐとなりの昭元山から東大巓と西吾妻山へ続く稜線がうねっている。今日のゴールの西吾妻小屋まではまだ大分かかりそうだ。
足元の谷地平がきれいに見えて明日のコースは谷地平経由で鎌沼に上がるのも良いなとこの時は思った。
昭元山への下りはガレ場になっている、コメツガのトンネルを過ぎると昭元山の登り、腰程のササをかき分け登ると昭元山山頂だ。
山頂を少し下ると緩やかなアップダウンの道、もうササ藪に悩まされる事はなくなった。東大巓分岐に着く。湿原の中に池塘と木道がある。
谷地平へはここを下る事になると明日のコースを確認する。
緩やかな登りを進むと湿原が現れる、花の終わったチングルマの花穂が風に揺れて光っている。
中部山岳では3000m近い高地にあるがこの東北では2000m足らずでもチングルマが見られる。
ササを刈り払われた道を左に少し登ると東大巓山頂がある。
ササを刈り払った木道の道を進む、また湿原の道だ。
明月荘への道を分け木道を行く。先ほどの藪こぎなど無かったかのように快適な木道歩きが続く。この山上にこれ程の湿原が在るとはここへ来るまでは思わなかった。苗場山や平ヶ岳の高層湿原に引けを取らない素晴らしさだ。
このきれいな景色を独り占め状態、悪い事をしているわけでは無いが申し訳ない気もする。
「申し訳ないが気分がいい~全てはここに尽きるはず~」などと大昔の歌がでてしまう。
一人の男性がやって来た、木道の待避場所で待っていると「今日はあんたが初めてだ。」と言う、こちらも同感だった。
今朝、家形山で三人の登山者を見て以来だったからだ。
その男性は一見して山猟師とわかる、足には地下足袋を履き、背中にはキャンバス地のリュックを背負い、つばを取り去った麦わら帽子を被っている。
腰にはノコギリを下げ、大鎌を杖のようにして歩いて来た。
ニセ烏帽子の辺りがササで大変だったと言うと、中津川のヤケノママから来たがこちらも大変だったと言ってきた。今は人が少ないからなぁとも言った。
以前は沢山の人で木道ですれ違うのが大変だったが、震災後はパッタリと人が来なくなったと言う。
何を採りに来たか聞きそびれてしまったが風貌とは予想外に気さくな人だった。
そうは言っても日曜日だというのにこんな素晴らしいところに誰もいないなんて喜んで良いのか悲しんで良いのか解らなくなってきた。
夏雲がゆっくりと流れ、さわやかな風が通り過ぎて行く。
湿原のそこ彼処に空を映して池塘がたたずんでいる。
その中を木道がうねるように延びている。
こんな贅沢な景色を独り占めできるとは人生の内でもそう何度も無いだろう。
藤十郎を過ぎるといろは沼越しに西吾妻山が見えてくる。
緩い登りが続き大きな岩が寄り添っている人形石に着く。
人形石から少し下ると天元台との分岐点。ここを左に下る。
二組の登山者とすれ違う、多分リフト利用で天元台へ下りるのだろう。
あの湿原を見ずに下りてしまうのは勿体ない。
大凹の水場へ着く、今回ここで水を補給する予定だったが完全に涸れていた。
残っている水は300mℓ程、水の有り無しで行動は左右されるが、ここで今後の行動を考えても仕方がない。
無いものは無いのだからと割り切り小屋を目指す。
大きな岩の間を登ると梵天岩、平坦な道を進むと天狗岩だ。
天狗岩には吾妻神社が祀ってある。
ガレた道を下るとまた木道が始まる。
10分程進むと右手に西吾妻小屋が見えてきた。
小屋には三人組がいた、水場の案内が掲示されている。
西大巓方面へ下った所だ。ザックの荷物を小屋に置き水バックだけザックに入れて小屋を出る。
まずは西吾妻山のピークを目指す、百名山に来たのだから一応ピークは押さえておきたい。10分程で山頂に着く、樹林に囲まれていて展望はなかった。
記念写真を撮り下山する、案内の水場は20分程下ったところだった。
危なっかしい斜面を沢床まで下りる、心細い流れがチョロチョロと流れている。
15分程かけて3ℓの水を確保する、これで一安心、明日の行動も予定どうりこなせそうだ。
安心感からか小屋へ戻る足取りは軽かった、マットを広げ夕食の準備を始めると忘れ物に気付く、酒が無い。いつもは泡盛を小瓶に詰めて持ってくるのだが、今回は出発時にドタバタしていたので忘れてしまったようだ。
営業小屋なら買い求める事も出来るがここは無人小屋、まぁ酒無しの夜もたまには良いかぁ。と無理やり納得させる。
つまみに持ってきたハムやチーズを頬張りながら夕食を作る。
一日の最後が今一つ味気ない感じだったが少し本の活字を追っていると眠気がさしてきた。
あとは寝るだけだ。
(続く)