青い鳥文庫2. テルアビブの犬 | 青い鳥動物愛護会

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おはようございます

《あかるく あいかつ あおい鳥》

 

熱心なボランティアで

読書家のランさんがお薦めする

とっておきの動物愛護の本

前回は12月6日に

「猫は犬より働いた」を紹介して頂きました。

今回紹介してくれるのも

とっておきの1冊だそうです。

 

過酷な運命を生きる少年と犬との

無垢な魂の交響詩
 「テルアビブの犬」

小手鞠るい(文芸春秋 2015年)

 

chiro ラン

  これって「動物愛護の本?」って
ちょっと迷いましたが
皆さんにぜひ紹介しておきたい1冊です。
感動して引用が長くなりましたが
お読みいただけると嬉しいです。
 
* * * * *
 
  戦後間もない1947
父を戦争で亡くし
追うように母も亡くした2歳の少年を
たった一人の身内である祖父が引き取って
一緒に暮らしはじめます。
祖父は空襲で焼け出されて無一文となり
河原の土手に廃材でこしらえた掘っ立て小屋に住み
廃品回収で細々と暮らしていました。
もう80歳で自分があとどれくらい
生きられるのかもわからない中で
娘の忘れ形見の孫との生活がはじまります。
 
 少年は老人のもとで、病気ひとつせず、すくすくと成長した。どんなにおなかが空いていても、寒さで凍えそうな夜でも、彼は老人の顔をみると、にこにこ、くつくつ、笑ってくれる。
 
 少年は老人に生きる張り合いと希望をもたらします。
小屋の裏に野菜畑を作って
穫れたわずかばかりの野菜を
廃品回収の時に売り歩き
なんとか暮らしを支えていましたが
二人の食事は日に一度。
少年が学校に通うようになっても給食費を払えず
いつも空腹に耐えているというありさまでした。
 
 そんな二人に一つの願いが生まれます。
それは道端の草むらに倒れている犬を見つけ
小屋に連れ帰ったときからです。
狼によく似た大柄なめす犬で
まるで五月の空の色を写し取ったかのような
水色の瞳の持ち主でした。
犬は空(ソラ)と名づけられます。
少年が9歳、犬もまた9歳のときです。
 
 その日以来、毎朝、毎晩、老人と少年は、寝ても覚めても同じひとつの願いごとを「叶えて下さい」と、天に祈るようになった。
 いつまでもいつまでも、ソラが僕らといっしょにいてくれますように。
 この犬が長生きをして、わしらのそばにおってくれますように。
 もしもソラが死んでしまったら、僕とおじいちゃんは、生きていけない。
 もしもこの犬が我々を置いて先に逝ってしまったら、我々も生きてはおれん。
 
 横たわったままの犬は、二人の必死の看病で
手にすくった水を飲めるようになり
口に入れてもらった食べ物を噛めるようになり
起き上り、歩けるようになります。
こうして「青空を瞳に宿した犬」と
少年と老人の暮らしが始まります。
冬は寒風が吹き込み
夏は容赦ない日差しに焦がされる
掘っ立て小屋で
ひもじさに耐えながら
わずかばかりの食物を
分け合って生き延びる日々・・・。
それがソラの視点やソラ自身の語りも
含めて綴られていきます。
 
 灰色の街の路上で、街角で、公園のかたすみで、倒れて死にかけている哀れな犬を、彼女は毎日のように目にしていた。子犬のときだけ可愛がられて、大きくなってから飽きられ、捨てられてしまった犬。病気になったために、あるいは、怪我をしてしまったため、ごみのように捨てられた犬。子犬を生んだがために、子犬もろとも捨てられてしまった母犬。餓え、がりがりに痩せ、目だけをぎらつかせ、凍え、いずれ事切れていく運命にある犬たちに出会うたびに、彼女は、過去の自分を重ね合わせながら、声をかけた。
 「もうちょっとの辛抱よ。死ねば楽になれるから」
 
 この物語の背景は昭和20年代
終戦直後の日本ですが
哀しいことに現在でも
これが犬の目線で見た現実でしょう。
 二人に救われ
生き延びることのできたソラはこう語ります。
 
 どんな平凡な犬にも必ず備わっている、特別な能力があります。
 それは、感謝の気持ちです。
 感謝の気持ちを持たない、感じない、感じようともしない人間をおおぜい見てきました。犬は違います。感謝の気持ちを持たない犬は、いないのです。感謝の気持ちを抱いた犬は、どうするのか。献身です。この身を捧げ、尽くすのです。
 
 中学生になった少年は
過酷な日々の中でこう語ります。
 
  自分はいい。自分は罪深い人間なのだから、どんな過酷な運命でも、甘んじて受け入れなくてはならない。けれどもソラは犬だ。無垢な魂を持った美しい生き物だ。神様はなぜ、このような汚れなき存在に対して、無慈悲な鞭をふり下そうとするのか。
 
 物語りの終盤
ソラは少年にこう語りかけます。
 
 忘れたのですか?
 あなたは、わたしが犬だということを。
 人ならこういうときには、まず自分が助かり、自分が暖まり、自分が満たされることを願います。そのあとに、他人のことを考えるのです。でも、犬は違います。犬はまず、愛する者のことを思うのです。愛する者が満たされていなければ、犬は決して、充足できないのです。自分のことは、あとまわしでいいのです。いちばん最後でいいのです。
 
 これは、運命に翻弄されながら
必死に希望を見つけようとする少年と犬との
無垢な魂の交響詩です。
引用しているだけでも涙があふれて来ます。
物語りの下敷きに「フランダースの犬」があります。
 
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