内湖に向かって懸命に咲く雪柳

長年の句友である山本幸子さんが『父を抱く』をご上梓されました。

 本詩集は、「古い都の街角で/青年が赤い表紙のガイドブックを広げている/顔をあげて 青空を見上げる、、、」、こうして始まる作者の心の旅の軌跡です。「父が暴力を振るう家庭の末(の子)に生まれて/ひとに助けてもらえるということを/知らずに育った」とうたう作者。そんな思いを抱えて、旅を続ける作者に「寄り添ってくれた 一匹の犬/ここにいるよ/友だちだよ」。「人間がとてもこわかったころ/原生林が 友だちだった/深い森を/思い浮かべて こらえた日々/一本の老いたブナ、、、/わたしの友だち」。

 インドへチベットへとひとり旅を続ける作者の両親への思いは、いつしか祈りへと変わっていきます。

「この世でのわたしの父 わたしの母の/苦しかった生存での痛みまでもを/わたしのこの生で いやすのだろうか」。その祈りはさらに広がって、「銀河系宇宙の中の/悠久の時空をへだてた存在どうしが/ふと出逢う/こんにちは/あなたの物語を はなしてください/わたしに」と。

 そして、表題作『父を抱く』は、「妻や子に、暴力を振るうしかなかった父の/寒さの残る骨を抱いて/花冷えの京都市街に向かって/墓原の道を下る/蓮は泥田に咲く/父よ/わたしはあなたの/苦の生存を/受け止めます」と終っています。

 重いテーマを扱いながら、一筋の明るさと温かさを感じる詩集でした。

 山本幸子さん、御恵贈ありがとうございました。