内湖の白いすみれ
今日は、びわこ句会のオンライン感想会でした。春三月は、旅立ちの季節であり、それは、また、とりもなおさず別れの季節でもあります。それぞれの俳句からは、そんなの人生の様々な思いが感じられました。そんな思いを、言葉の風景画(俳句)として、すっと差し出されたら、読者の心も、わくわく、ざわざわ、ときには、くすっと、やわらかくなりそう。俳句は文学。文学は、私以外の存在への優しさの上に立っているものだから。
○木々芽吹く空の青さへ百面相 英子
青空に向かって、真直ぐにぐんぐんと芽吹く木々と、泣いたり笑ったりまるで百面相の人間の対比のおかしさよ。
○砂吐いて浅蜊の自白するシンク 樹
浅蜊は、何を自白しているのか。砂を吐く浅蜊を見ながら、シンクに立つ人も、我が心を見つめている。
○ミルクをふーっと三月十一日 亮子
「ふーっと」が効いている。日常の何気ないしぐさにも、あの地震の日がまざまざと思い出される。
○空色のチケット二枚つくしんぼ 敦子
つくしが、顔をのぞかせる早春の空色のチケット二枚。絵画展、コンサート、観劇、あるいは旅行券、何であっても、期待で胸が膨らむ。
○砂の怪獣きれいに消して春の波 寿子
誰かが砂で作った怪獣を、きれいに消し去る、柔らかな春の波。ずっと佇んでいたい春の海岸。
○ママランナーは遥か児は土筆摘み 裕子
ママのはやる気持ちと土筆摘みを楽しむ子供の対比が楽しい。
○スパイクの落としきれない春の砂 知子
スパイクの汚れは、洗ってもなかなか落ちないけれど、「春の砂」に希望が感じられる。
○砂利道をジャリジャリ行く子春が来た 登茂子
雪も解け、乾いた砂利道をわざとジャリジャリ音を立てて歩いて行く子。それは楽しい春の音。
○病窓にゆらり張り付く春の雪 正明
病窓の雪は、直ぐに溶けだす春の雪、希望の雪だ。
○山吹の万の重なり未来です せり
力強く言い切ったところが、よい。
○子育ての卒業証書子の背中 花凜
卒業する子の背中こそ、母への卒業証書。うれしいようなさみしいような。
○狐目の猫が横切ります黄砂 ひさし
黄砂を映像化すれば、狐目の猫が横切るという感じ。
○砂浜に足跡二つ春の空 寛子
春の空の下、恋人どおしの足跡でしょうか。
○沈丁花挟んで閉じる日記かな 千香子
早春のあまやかな香を放つ沈丁花を挟んだ日記には、何を書いたのでしょうか。
○春の陽は指からこぼれる砂のごと 和彦
柔らかな春の陽差しは、ぽろぽろと指からこばれる砂のようだ。