三月十日、よく晴れた暖かいこの日に、寺田伸一さんの所属するおおさか句会のべあ句会の主催で、『ぽつんと宇宙』の出版お祝い会が、開かれました。幾つもの川を渡って行く途中の橋の欄干にはライオンが大きな口を開け、会場のホテルの前の大川には、遊覧船の船着き場があり、うららかな春の川面がきらきら輝いていました。

 私は、寺田さんも良く参加して下さったびわこ句会の十六夜のお月見句会を思い出しました。

ある時は、巨大な亀の姿をした怪獣ガメラを連れて。

 

  十六夜やガメラの恋は自然主義 伸一

 

 映画では、ガメラは、怪獣だけれども、基本的に人間を守り、生態系、そして地球そのものを守るために戦っています。そんなガメラの恋は、自然主義だというこの句。月の昇りゆく湖に、今にも、ガメラが現れそうに感じられました。皆で琵琶湖から昇る月を待って、句会をわいわい楽しんだそんな十六夜句会の後、寺田さんは、ひとり琵琶湖畔のプリンスホテルに泊って、琵琶湖の月をゆっくり楽しむのが、常だったようです。寺田さんは、やはり、この句集のねんてん先生の序文に出てくる、放浪の自由人スナフキンかもしれません。この日、ねんてん先生は、寺田さんにスナフキンのマントをプレゼントされました。

 私が、サインしてもらった句は、

向日葵は余所見が苦手まるで犀 伸一

 向日葵の向日性を「余所見が苦手」と表現する屈折感がペーソスを醸し出し、さらに「まるで犀」と言い切る意外性からユーモアが感じられ、読むたびに、心をふっと伸びやかに開放してくれます。

 

初空の空という字の穴が好き

堺から南海線に乗る金魚

 

春一番又三郎よマタサボロウ

フロイトとフンコロガシのいる九月

リハビリ」が春の季語めく昭和町

葉桜や僕も貴方を好きでいる

桜餅「ほな」「ほな」言うたあれっきり

ケツカレは「どうぞ」の心さくら餅

 

ちょっと切なくて明るくて、なんだかおかしくて、寺田さんの俳句は、読むたびにこちらが元気になるから、不思議です。それは、重い現実を抱えながら、我が心を俳句という言葉の世界に開放してきた寺田さんの俳句なればこそでしょう。そしてその道のりには、いつも句会の仲間という人の輪があったということ。言葉は、人と人の間を行き来しながら育つということ、句会の中で育つということに、改めて心震える思いでした。

 寺田伸一さんとねんてん先生を囲んで。

「スナフキン」と言われれば、「僕、ハーモニカ吹けませんけど。」、、、「僕、苦労してへんから」が口癖の寺田さん。その明るさに、会場は始終笑いに包まれていました。

 最後は、船団恒例の句相撲。賞品は、でした。

ライオンの橋ぬけぽつんと春の雲   由紀子

新たなスタートラインに立った寺田さんの今後ますますのご健吟をお祈りして。