今年の夏のこと

私が我が家に夫を呼び

子供達と進学について話合いを

持たせた。

 

 

 

 

いやいやながら

我が家にやって来た夫は

私をリビングから閉め出し

子供達と話し合った末

「行きたい大学に行っていい」と

長男悠真に言ったのだった。

 

何年も前から

悠真がその大学に進学することは

夫の希望でもあり

夫も認めていたことなのだから

当然と言えば当然だ。

 

渋る夫を最終的には説得し

進学費用を出す約束をさせた。

 

それはまさに

悠真一人で勝ち得たものではなく

まさかの長女美織と次男健斗の

援護射撃があってのなせる技だった。


 

「行っていい」

 

その言葉を父からもらい

悠真はどれだけほっとしたことか。

 

その直後手紙で

 

「やっぱり大学費用はださない」

 

そんなことを舌の根も乾かないうちに

まさか父親が言ってきているなどとは

子供達は誰も知らない。

 

父親の承諾を受けた直後

悠真は学校主催の東京国立大学の

オープンキャンパス見学ツアーに

参加していた。

 

2泊3日のその小旅行は

いろんな可能性を秘めた高校3年生の

東京への夢探しの旅であり

悠真も仲間と共にその旅を

楽しんだのだった。

 

そこに自分の未来があると信じて。

 

その見学してきた

第一志望の大学の名の入った

封筒が今朝郵便受けに届いた。

 

悠真が建築士目指して憧れてきた

その大学の封筒が

ずっと応援してきた私にも

なんだか眩しく見えたのだった。

 

夕方遅く帰ってきた悠真。

 

その封筒を渡すと目が輝いた。

 

開けると中身は学校案内と

受験の願書だった。

 

着替えるのも忘れ

悠真は封筒の中身に

目を通すのに夢中。

 

そのきらきらしている目は

夢と希望に満ちているのが

キッチンからでもわかる。

 

「お母さん!見て!

こんな寮もあるんだって。

アパートお金かかるなら

僕は寮でもいいな。

2組の橋本もここ受けるんだけど

寮にしようかって二人で話してるんだ。

友達と一緒なら心強いよね!」

 

「うん、そうだよね」

 

「それに

ここの寮だとベッドも電化製品も

買わなくていいんだってよ。

橋本の親戚が何年前かまで

ここの寮にいたんだって!」

 

「そうなんだ」

 

「お母さん?ちゃんと聞いてる?」

 

「もちろん!もちろん聞いてるよ。

寮に入れたら一番いいね。

でもダメなら

高いアパートはちょっと無理だけど

家賃の安いアパートでも寮でも

お母さんは悠真のいいほうで

いいと思うよ」

 

「そっか!

もう一回橋本と話し合ってみるよ。

アパートだとしても

同じアパートにしようぜって

話してるんだ」

 

「地元の友達が一緒だとなにかと

心強いよね…」

 

「うん!」

 

美織と健斗が

夕飯に二階から降りてきた。

 

ソファでなにやら楽しげに

学校案内を見る悠真に目を付けて

すぐにちょっかいを出し始める。

 

「いいなーお兄ちゃん東京だもんなぁ。

僕東京で行ってみたいところいっぱい

あるんだよなぁ」

 

「へへへ。いいだろう~」

 

「私、お兄ちゃんが

東京行ってくれた方がいいな。

だってちょくちょく遊びに行けるもの。

泊めてももらえるしね」

と美織。

 

そんな春からの

新生活に夢を馳せる3人。

 

そんな会話を耳にすればするほど

キッチンの私の胸は

締め付けられるように苦しくなる。

 

センター試験まであと一ヶ月。

 

今だ

進学費用のめどは一切立っていない。

 

そして

このことを子供達は知らない。

 

全ては

長男の未来は

私の肩にかかっている。

 

私がくじければ

私が諦めれば

この子たちの未来は大きく変わる。

 

長男の進学で出さなければ

後に続く長女、次男の進学でも

夫はお金を出さないだろう。

 

それは死んでもできない。

 

この子達の夢は

なにがあっても私が絶対に守る。

 

絶対なのだ。

 

なにがあってもだ。

 

 

 

 

 

 

 


離婚ランキング