彼女が窓を叩く音がする
部屋は暖炉で暖かさも明るさも満ち足りていた。
男は暖炉の前で日々の習慣である日記を書いていた。
日記帳は真新しかった。
先日、長い間慣れ親しんだ日記帳が見当たらなくなった。
どこをどう探してもでてこない。
日記帳なんて持ち歩くものでもないし、ここ数日、男は家を出ていない。
無くなるわけなどないのに、日記帳は見当たらないのだった。
だから男は買い置きしてあった新しい日記帳を使うことにした。
本当であれば一年後に開くことになったであろう、ソレを少し繰り上げて使うことにしたのだった。
新しい日記帳はまだ男には馴染んではいなかった。
ちょっとペンを走らせるたびに、何かがひっかった。
男は不意に、ペンを止め窓に目をやる。
外は雪が降っていた。
もう数日もの間、雪は降り続いていた。
男はそれで外に出られないのだ。
不思議な雪だった。
しんしん。
男はこの土地に移り住む前までは雪国に住んでいた。
だから雪の降る音は知っていた。
しんしん。
しんしん。
しんしん。
そんな音だと思っていた。
しかし今降り続いている雪は音がしないのだ。
どちらかといえば
ひらひら
もしくは
ふらふら
あるいは
はらはら
涙のように
たまに
嗚咽のように
雪が降っていた。