佐賀住まい・福岡勤務の作業療法士の橋間葵です。
前回は、脳卒中片麻痺の回復メカニズムの3つの中の「自然回復」について記事にまとめました。
今回は「残存する健常な脳組織による機能代償」についてまとめたいと思います。
自然回復と違うところ
自然回復は、脳卒中初期の回復をもたらします。
次の段階である、「残存する健常な脳組織による機能代償」は、脳卒中後期の改善をもたらすものです。
この「残存する健全な脳組織」とは、ダメージを受けていない側の脳の部分です。
右側の脳がダメージを受けていれば、反対側の左側の脳が残存する健全な脳組織というわけです。
また、右側の脳がある部分がダメージを受けていても、右側の別の部分がダメージを受けていない場所も、残存する健全な脳組織と言えます。
この改善は、短期間の変化ではなく、長期的な変化をもたらすことがわかっています。
また、自然回復は、環境や周囲の刺激の関与は有りませんが、この時期の変化は、リハビリテーションが影響します。
回復をもたらすメカニズム
回復をもたらすメカニズムは以下の3つの報告があります。
◆他の大脳皮質領域の代行
出典: 「
✔️ ダメージを受けていない部分が、本来異なる機能を担っていた部分が肩代わりする
◆同側性神経支配の存在
脳から手足に至るまでの神経は、延髄で交差して右の脳の神経は左の手足を支配します。
しかし、一部の神経は延髄で交差することなく、そのまま右の脳の神経が右の手足を支配します。
よって、右の脳のダメージにより左の手足が動きにくくなったとしても、左の脳から左の手足を支配する一部の神経が残っています。
残っている一部の神経が改善に関わってきます。
✔️ 同側神経支配は急性期を過ぎてから働く
✔ 運動神経以外の神経も関与する
出典:脳の機能再編成
図2 ・左の図の「*」の部分がダメージ部位
・右脳のダメージで左手が動きにくくなる
・左脳が左手を動かす時に働いている
残されたダメージを受けていない反対側の脳の神経と連絡を結ぶ脊髄も、脊髄内で新たな神経回路をつくるという報告があります。
◆皮質下の再組織化
脳の表面部分でなく、脳の深い部分の神経繊維の変化が認められています。
この変化は、運動機能の変化と関係があると報告されています(文献3~5)。
3つを簡単にまとめると…
*直接ダメージを受けていない部位が肩代わりする
最後に
自然回復とは異なる、「残存する健常な脳組織による機能代償」についてまとめました。
いずれもリハビリテーションとの関連があるので、しっかり学び続けていきたいと思います。
引用・参考文献
1) 唐牛 大吾 他:脳血管障害のリハビリテーション理論と実際. J. Nihon Univ. Med. Ass., 2018; 77 (5): 283–286
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/77/5/77_283/_pdf/-char/ja
2) 加藤 宏之:随意運動の機能回復̶機能的 MRI の 知見̶.脳の機能再編成.Jpn J Rehabil Med 2009 ; 46 : 17.40
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/46/1/46_1_17/_pdf
3)Ruber T.Compensatory role of the cortico-rubro-spinal tract in motor recovery after stroke
Neurology 79 August 7, 2012
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3413760/pdf/znl515.pdf
4)Ishida A et.al.:Causal Link between the Cortico-Rubral Pathway and Functional Recovery through Forced Impaired Limb Use in Rats with Stroke.The Journal of Neuroscience, January 13, 2016 • 36(2):455– 467 • 455
https://www.jneurosci.org/content/jneuro/36/2/455.full.pdf
5)リハビリテーションは脳の配線を変え、機能の回復を導く