先日の『奇跡体験アンビリーバボー』という番組で、

“失われた日本の美徳を守る職人の闘い”

と題して、先祖代々続く醤油蔵の職人である、ヤマロク醤油5代目・山本康夫さんが紹介されていました。


これを見て、感動したポイントが2つあります。

ヤマロク醤油を経営する、山本家の長男として生まれた康夫さん。

物心がついた頃には、父・健司さんが4代目として醤油造りを行っていたそうです。

先祖から祖父へ、祖父から父へと受け継がれてきたヤマロク醤油。

康夫さん自身も、幼い頃から

「いつか、ヤマロク醤油を継ぐんだ」

と、思っていたそうです。

 


まず、私がすごいなと感動したポイントの1つめは、ここにあります。

いくら先祖代々続いているといっても、職業選択が自由な現代です。
必ずしも、家業を継がなくてはならないという法律や決まりはありません。

しかし、子供の頃から父の醤油造りを見てきた康夫さんは、自然といつからか、その後を継ぐことを考えていました。

それはきっと、醤油造りをする父の背中を見て、感じたからでしょう。

昔ながらの醤油の味を守り続ける、その意義を。


子供はとても純粋です。
それ故に、いくら言葉で美辞麗句を並べ立てたところで、その真意を見抜きます。

例えば、

「醤油造りはお金が儲かるよ!」

とか、

「伝統を守るのは、大切なんだよ!!」

と言ってきかせたところで、いつも暗い顔をしていたり、愚痴と文句ばかり言って働いていたら、きっと後を継ぐ気にはならないと思います。

しかも、康夫さんが大学を卒業した当時のヤマロク醤油は経営難でした。


すっかり家業を継ぐ気満々だった康夫さんでしたが、父から衝撃的な言葉を告げられます。

「醤油屋は儲からん。お前は別の所に就職しろ」

と―――。


可愛い我が子に、わざわざ苦労させたくないという父の言葉でしたが、康夫さんはショックを受けたそうです。

ヤマロク醤油で働くことが叶わなかった康夫さんは、佃煮メーカーに就職しました。

しかし、島を出て6年経っても、ヤマロク醤油への想いを捨てられなかった康夫さん。

あることをきっかけに、康夫さんは小豆島へ戻り、父に後を継がせてくれるように頼み込みました。


どんなに大変でも。

どんなに苦労することがわかっていても。

それ以上に得られる、かけがえのない価値を感じたからこそ、康夫さんは醤油造りを継いだのではないでしょうか。

そしてそれを感じさせるに至った、先祖から祖父へ、祖父から父へと続いている“想い”…“魂”と言っても良いかもしれません。


私は、それに感動しました。


伝統を継承させる上で大切なのは、知識や技術だけではない。

そこから溢れ出て、感じる想い。

そしてそれを伝えらるのは、表面的な言葉には非ず。

魂から溢れ出た“想い”が込められた言葉。


そして。

日々の行動の積み重ねこそが、それを語るのではないか

 

と思いました。



私が感動したポイントの2つめ。

それは、ヤマロク醤油の木桶が、康夫さんの息子の代以降まで持つかどうか分からないことが発覚した時に訪れます。

木桶が使えなくなれば、子供や孫の世代で、ヤマロク醤油が造れなくなる…

そんな思いを抱きながら、康夫さんが蔵を見ていた時。

彼は、桶の脇に木材があることに気が付きました。

それは、かつて蔵で使われていた桶の材料でした。

康夫さんが大学生の頃に、フォークリフトを蔵に入れるため、木桶を2つ解体したそうです。

その時、父・健司さんは、解体した木桶の材料を捨てずに取っておいたのです。

いつか今の桶が使えなくなった時に、蔵の菌が棲みついたこの木材を使うことができるようにという、想いを込めて…。


更に、世代を超えた奇跡のような贈り物は続きます。

木桶づくりに不可欠な真竹がどうしても手に入らない、絶体絶命の大ピンチ…。

そんな時、康夫さんは近所の竹炭造りが趣味な老人を訪ね、どこかに長い竹がないか聞いてみることにしました。


すると、信じられない答えが!

なんと、その老人の裏山に真竹があるという!!

しかも、その竹を植えたのは、康夫さんの祖父だと言うのです!!!


祖父はヤマロク醤油が康夫さんの代になったら、きっと必要になるからと、その老人の土地に、真竹を植えて欲しいと頼んだそうです。

こうして、何とか材料は整いました。
そして康夫さんは、修行して学んだ木桶造りの技術を活かし、木桶を完成させたのでした。


祖父が残してくれた真竹。
父が残してくれた桶の木材。
それらを結集させた、康夫さんの木桶造り。

どれ一つを欠いても、実際に現在使われている木桶は、完成しなかったでしょう。

番組の中で、康夫さんはこう語ってくれていました。


「次の世代、次の世代に繋ぐために何かしら手を打ってきている。

これは醤油だけの話ではないと思う。
昔から繋がってきている事は意味があるから続いているんです。

繋げていくのって駅伝だと思うんです。タスキを繋いでいくんです。

我々は今、タスキを渡された…この渡されたタスキを次の世代に渡していくのが自分たちの役目なんです。」



心に、ずしりと響く言葉でした。
これを聞いた時に、心理学講座で、インディアン・カウンセラーと呼ばれる衛藤先生が話して下さったことを思い出しました。


インディアンの言葉に、「セブンス・ジェネレーション(七代先の未来を考える)」というものがある。

彼らは決して、必要以上の狩りはしない。
狩った獲物の心臓の一部を切り取って母なる大地に埋め、

「七代先の子供たちの未来も豊かでありますように」

と祈りを捧げるんだ。

目先の利益や利己的な考えに囚われず、数年・数十年先どころか、何世代をも先の未来を見据えている。

それが彼らインディアンの考え方であり、生き方なのだ―――と。



今回のアンビリーバボーを見て、それはインディアンだけではない。

私たち日本人にも、受け継がれている美徳なんだと思いました。



スピード化、機械化が進み、大量生産・大量消費で溢れた現代。

「今が良ければそれで良い」

とか、

「自分たちさえ良ければ良い」

などという考えに偏ってしまっては、やがて未来は先細り、いつか断たれてしまうでしょう。

輝く未来を夢見ながら、
その未来を生きる次の世代へ。

何を残せるだろう。
何を与えられるだろう。

そう考えながら、「今ここ」を精一杯に生きる。



タスキを渡されているのは、何もこの康夫さんや、選ばれた特別な人間だけではありません。

「今ここ」を生きている、私たち一人一人に渡されています。

あなたは、何を残したいですか?
あなたは、何を与えたいですか?

次の世代へ、どんなタスキを渡したいですか?
 

 

 

※写真画像は、下記サイトよりお借りしました。

http://www.fujitv.co.jp/unb/contents/180118_2.html