『江戸美人捕物帳 入船長屋のおみわ 夢の花』(著/山本巧次)
入船長屋の大家の娘・お美羽は面倒見の良い容姿端麗のしっかり者。
しかし少々威勢が良すぎるせいか二十歳を越えても嫁入り先が決まっていない。
また熱血漢で不条理なことが許せないタイプでもある。
店子の一人、指物師の長次郎が十日も家を空け、心配してきたところにひどくやつれて帰って来た。彼は人を殺したと言うのだが・・・。
またも店子が事件に巻き込まれて物語が始まる。(前作の感想はこちら)
入り待ちが出るほど人気の長屋だが、こうも続けて店子が事件に遭遇するのでは大家商売に支障が出るのでは?と心配してしまう。
お曲がったことが嫌いで物事に白黒付かなくてはすっきりしないお美羽は、またも事件に首を突っ込んでいく。
前回に引き続き、頭脳も剣の腕も頼れる山際が登場してくれたのは有り難い。
お美羽の行動力は素晴らしいが、機転と腕のある山際が居るといないとでは読み手の安心感が違う。
十手持ちの喜十郎も頼りにはなるが、しっかとした証がないと動いて貰えないのが難点だ。
なかなか面白い切り口で事件が始まり、事件に絡む人間関係も複雑そうである。
ただ、やはりというか物語の進み方が予定調和の内にあるような気がしてしまうのだ。
今作のほうが思わせぶりな行動があったりするのだが、大筋が美羽の謎解き通りに事が運んでいるように感じてしまう。
目の前のことに熱中してしまう美羽にはもっと迷走して貰いたいと思うのは意地悪なのか。
ところで前回の感想で美羽の恋心の扱いが雑に感じる、と書いたが、その理由が分かった。
失恋したばかりで、しかも失恋した相手と事件の捜査をしているのに、色男が現れたらすぐに目を奪われてしまった。
なるほど、お美羽は惚れやすいのか。
お美羽の人柄と行動力はとても魅力的である。
まだしばらく嫁には行かず、長屋の謎解きに力を注いて貰いたい。
