『ハートフル・ラブ』(著/乾くるみ)
私的にリベンジの読書である。
過去に乾くるみ氏の著書(カラット探偵事務所の事件簿2)を読もうとして躓き、読破せずに図書館に返したことがあるのだ。
一時期推していた舞台俳優さん(野久保氏ではない)がお勧めされていた作家さんで、その勢いで借りて挫けた苦い経験だ。
もしかしたらシリーズものを『2』から読んだのが悪かったのかもしれない。
そんなわけで、別の図書館で出会ったこの本に改めて挑んでみた。
特に括りのない短編集で、作品のテイストも様々。
重々しい空気感のものもあれば、ラノベ風の軽いタッチのものもある。
通して読んでみて思ったのが、乾氏は理系の考え方をする方なのではないか、ということだ。
収録7編中2編で消費税を主題にした謎解きを行ってたり、割合をやたら引き合いに出す話があったりと具体的に数字に絡んだ話も多い。
だが、それ以前に話の進め方が理数系っぽいな、と感じた。
最後の謎解き(種明かし)に通じるように的確に伏線を並べていく。伏線に添って話を成り立たせている、という印象を受けることもある。
だからこそ最後になって『あれはこういうことか!』と驚かされるのだが、そこに行き着くまでの過程でのワクワク感が少ない。
最後の大どんでん返しを引き立たせるために効率的に話が勧められているようで、そこが文系ではなく理数系っぽい、と思った由縁だ。
(あと、登場人物に感情移入しにくかった)
しかしミステリー小説としての読み応えは充分で、特に『夫の余命』では初見では何の意味があるか分からなかった過去の風景が、最後になって真の理由を知る事となったときの驚嘆は読んで体験してもらいたいほどである。
他、予想と違う裏切られ方をした作品が多く収蔵されていた。
一冊読み切り堪能し、過去の自分にリベンジできた気分である。