『ショートケーキ。』(著/坂木司)
たまに手に馴染む本と出会うことがある。
読み出すとするすると読めて何度でも登場人物に共感してしまう。
確認したいことがあってめくっただけなのにそこから読むことが止まらなくなる。
のめり込んで読むような熱ではなく、物語が自然と体の中に流れ込んでくる感じ。
私にとってこの本はそんな本だった。
これはケーキに纏わる短編連作集である。
(前の話に関連ある人が次の話の主役になっていくタイプ)
全五編から成る短い本なのだが、総じて女性が格好いい。
颯爽と自信満々で進むような格好良さではない。
躓き挫け倒れそうになりながら必死に顔を上げて歩んで行く格好良さだ。
汗と涙に塗れた顔を袖でグッと拭って負けてられないと笑みを浮かべる、そんな気丈さを持っている。
主軸になる女性の立場は様々だ。
両親の離婚に所以するやり切れなさを抱える女子高生たち。
稼ぎがイマイチの両親に代わりに弟の学費を黙々と貯めるOL。
好きな紅茶を楽しむ間さえ無い新米ママ。
そんな彼女たちに力を与えてくれるのが甘く柔らかい『ケーキ』である。
本文に登場する某ケーキショップの店員の言葉がこの小説のテーマであり全てだと思う。
『私は心のどこかで、ケーキという存在を信じてる。(略)なんとなく『善なるもの』として扱ってしまう』
お菓子はこの世に沢山存在するが、やはり『ケーキ』は別格の扱いだ。
特別な時に登場して人の心を幸せにしたり慰めてくれたりする。
ケーキそのものが特別だけど、ケーキと一緒に自分も特別にしてくれる素敵な食べ物なのだ。
また同じ場面でも主観になる人が変わると受け止め方や感じ方が随分と変わるのが面白い。
特にゆかとこいちゃんの二人組と、彼女たちの存在に気が付いたカジモトくんの視線。
これが恋の始まりと見るか、敬愛に近い別の感情と受け取るか、それは読んでから判断してみて欲しい。
まあでも恋にならないボーイ・ミーツ・ガールがあってもいいんじゃないかと私は思ってる。
これにて、『表紙にケーキが描かれている文庫本』シリーズ終読!
偶然なんだけどケーキの表紙の本を4作連続で読んでました☆
ケーキってやっぱり特別だ
