『天保十四年のキャリーオーバー』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

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『天保十四年のキャリーオーバー』(著/五十嵐 貴久)

こういう話が時代小説の醍醐味なんだろうな、と思った。

読み手としてではなく書き手として。

 

 

主人公である七代目市川團十郎を始め、敵役の鳥居耀蔵、仲間となる二代目立川談志、矢部定謙に遠山景元と歴史上実在する人物が多数登場する。

彼らの史実は曲げず、歴史の隙間に大きな事件を捏造(笑)して話を作り上げているのだ。

この辻褄合わせが見事に嵌った時、時代小説家としての醍醐味を味わえるのではないかと思った次第である。

 

天保の改革によって歌舞伎を奪われ江戸から放逐された團十郎。彼は自分の生きがいを奪った鳥居と刺し違えても復讐を成し遂げようと心に誓う。

そんな彼に、同じく鳥居の策略により無実の罪に追い込まれた矢部定謙の養子である鶴松が共に鳥居に一矢報いようと持ちかける。

それは鳥居がご法度である裏富くじで稼いだ金をごっそり奪おうとする計画だった。

 

実は私は歴史がからっきし苦手で、読み始めた頃はどこまでがフィクションだか分かりもしなかった。

読み終わって調べてみて、登場人物の履歴がきちんと史実に即していたのだと知って驚いたのである。

また本文中の要所要所で時代背景を詳細に説明してくれるので、歴史に疎い私も時代の流れを理解することが出来た。

ただ、説明が多くなる分ストーリーの進行が遅くなりまどろっこしくも感じるが、後半に入ってからは時間との戦いのように止めどなく進行していく。

次々と起こる展開に目が離せず、電車を乗り過ごしてしまったくらいである。

(気が付いたら4つ先の駅だった)

 

江戸時代の転換期を舞台に歴史を(ほぼ)偽ることなく描かれたエンターテインメント溢れる一作。

終わり方も歴史に当て嵌めながらも綺麗にまとまっている。

年末ジャンボ宝くじの当選発表を気にしている人も多い年末。

一千万の富くじに熱狂する江戸時代の熱量を疑似体験してみたい方は是非。