まずいな、と大海はデータベースを広げながら顔を顰めた。
そこには直樹が居なくなる前と後の羞恥心に関するデータがまとめられている。
『悪の一派』の出現頻度は以前とさして変化はないが、羞恥心の出動機会は増える一方だった。
元々、いくつかのグループで『ヘキサレンジャー』は組織されていたのだが、現時点でまともに機能しているのは羞恥心だけで、その羞恥心だってメンバーを一人欠いた状態で対処してる。
今のところ大きな負傷などに繋がる事態には陥ってないが、このままではどうなるか分かったもんじゃない。
それに。
直樹が居なくなってから、敵を鎮圧するまでにかかる時間が大幅に伸びてきているのも気にかかる。
三人で戦ってきたものが二人になるのだからそれも当然なのだが、持久戦が続けはそれだけ二人の負担が大きくなる。
早いうちに手を打たなければ・・・。
「崎本さん、難しいお顔で何を考えているんですか?」
耳に優しい声は、中村のものだった。
柔和な笑みに、緊張していた心がほっと溜息をつく。
「いえ、最近の羞恥心の出動時間で気になることがありまして・・・。
やっぱり二人で戦っているせいか、戦闘時間が長引いてしまうんですよ」
中村にもデータを見せると、彼女はなるほど、と直樹が居たころと今とのデータを見比べた。
「これは、人数の問題ではなく、バトルスーツのエネルギー由来に関わる問題なんですよ」
「え?なんですって?エネルギー由来って、それはいったい・・・?」
思わぬ解答に大海が驚いていると、中村はゆったりとした表情のままで大海すら知らなかったことを教えてくれた。
「羞恥心のバトルスーツは一般人を超人的にパワーアップさせる代わりに、戦っている最中に膨大なエネルギーを必要とします。
そこで彼らは現場から必要なエネルギーを循環回収して、戦闘エネルギーへ変換させて使用しているのです」
はあ、と意味が分かったのか分からないのか、微妙な返事しか答えようがない。
そんな呆けた大海にも納得できるように、中村はさらに説明を続けた。
「つまりですね、自然エネルギーを回収し、それをバトルスーツの起動エネルギーに使用していたのです。
例えば太陽光だったり地中熱だったり、水分の気化熱だったり。バカにできないパワーになるんですよ。
ただ自然由来にすると、常に採取しやすい状態になるとは言えないのが欠点になります。
そこで羞恥心は、それぞれが別の自然由来のエネルギーを専門的に回収をし、そこから得たエネルギーを状況に応じて分散させて使っていたのです」
「つまり、それぞれに回収するエネルギーの担当があった、というわけですね?」
「さすが崎本さん、呑み込みが早い(*^-^*)
羞ことつるのさんは光や火などから、恥の野久保さんは水分や水蒸気、心の上地さんは大地や生命物からのエネルギーを回収していました。
場合と状況によって、回収しやすいエネルギー、回収しにくいエネルギーが出てきますが、三人で別のエネルギーを回収して使いまわすことによって、その弱点がカバーされていたのです。・・・、今までは」
ピン、と張った空気が二人の間を流れる。
何故に剛士と雄輔の動きが鈍くなってしまったかの答えも、そこに示されたいた。
「なのに、『水』からエネルギーを得ていた野久保さんが居なくなってしまった」
「そうです。そこでエネルギー回収のバランスが崩れ、羞恥心は本来の力が発揮できなくなっているのです」
羞恥心は、三人が揃わなくては意味がない。
いや、意味はあっても『無敵』ではいられなくなる。
それが気持ちの問題ではなく、システムとして影響あることが告げられた瞬間だった。
「なんでこんなことに・・・!」
悔しげに顔を歪めた崎本が、握りしめた拳を机に打ち付けた。
それは不慮の事態への憎しみでもあるが、何も出来ない自分の不甲斐なさを嘆いてもいる姿だった。
「もう一つ、崎本さんにお話しなくてはいけないことがあるのですが・・・」
中村の声の中に、今までには感じたことのない凛とした張りつめたモノが秘められていた。
はっとして見上げた彼女は、大らかに穏やかに笑っていてくれた。
その瞳の先に、切なげに揺れる物を湛えながら。
続く(次は来週!)