本作はフィクションです。
実在する人物・団体・法人等とは一切関係ありません。
すべて妄想の産物と理解してお読みください。
・・・・、なにげにBLです。
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あ・・・、と意識を取り戻した直樹は、一瞬自分がどうなっていたのか飲み込めなかった。
身体が変なふうに軋む。骨身まで冷えていて、咄嗟に手足が思うように動かない。
何時だろうと無理に身体を起こして時計を視界に入れると・・・。
午前4時。
一番冷え込む時間になって、目が覚めてしまったらしい。
直樹は凝り固まった身体を解しながら、冷たい床からどうにか体を持ち上げた。
四捨五入すれば三十路の大人が、泣き疲れてそのまま寝落ちなんて有り得ない。
思わぬ情けない状態に呆れて、昨晩の打ちのめされるくらいに沈んだ気持ちも薄れてきた。
とにかく、一度熱いシャワーでも浴びて気分を切り替えよう。
今日も休みだし、ちゃんとしたベッドで少し休んだほうが良いかな。
それから、と直樹は定位置に置いてある携帯に目を向けた。
後で、塩沢さんに連絡をいれよう。
これからよろしくお願いしますって・・・。
ツキン・・・、と胸が痛む。
これは雄輔から決別するために必要なことだ。
もう戻れないところに自分を追い込むしか、雄輔から離れるなんて出来そうになかったから。
どこかぼんやりする頭を抑えて、直樹は浴室へ向おうと立ち上がる。
夜が明ける直前、塗りつぶされた静寂の中でふと扉が目に止まった。
何故だか、妙に気になる。
その向こう側に何かが待っている気がしてならない。
まさかと思いながらも、どうしても気持ちがそこから離れない。
引き寄せられるように直樹はドアノブに手をかけた。
カチャン・・・と、やたら響く金属音を立てながらドアを押し開く。
星さえ見えない暗い空が、この町を覆いつくしているのがまず見えた。
誰もいない廊下、人気すらそこには感じられない。
何を期待したのだろう。
もし雄輔が戻って来ていたとしたって、あれから何時間も経っている。
春の盛りとは言え、こんな冷え込む夜に長々と彼が待っているはずはないじゃないか。
未練がましい自分に嫌気を覚えながら、なかなか部屋には戻れず呆然と廊下の先を見詰める。
ああ、あの角から雄輔が戻ってきてくれたら、靴を引き摺る独特のあの足音が聞こえたら。
無論そんな願いが叶うわけはない。
いくら待ってみたところで、厳粛で重厚な静寂が直樹に圧し掛かってくるだけだった。
肩から力が抜ける。
雄輔を敬遠したのは自分だ。今更何を期待するのだろう。
もういい加減で戻らなくては・・・。
そんな事をぼんやりと考える直樹の背中に、ふわりと何かが舞い降りた。
突然のコトに硬直する直樹の身体を、優しくしっかりと誰かが背後から誰かが抱き締めている。
少し熱っぽい温もりと、もたれるような重さは直樹の身体にすっかりと馴染んでいるものだった。
うそ、どうして・・・。
振り返ることすら出来ない直樹の肩口に、その人は甘えるみたいに顔を埋めている。
不精に伸ばした髭が柔肌を掠めて痛痒い。
目の端に入るのは、少し痛んでパサ付いたその人の前髪。
間違い、なかった。
間違えるはずもなかった。
雄輔だ。雄輔が抱き締めてくれているのだ。
次第に鼓動の音が早くなる。
耳の後ろで心臓が脈打っているようで、雄輔にも聞こえてしまいそうで、直樹は尚更焦った。
こんなドキドキが聞こえたら、雄輔に自分の想いがばれてしまう。
どんな風に雄輔を想っていたか、彼に伝わってしまう。
彼に秘めた思いを知られてしまうのは怖い。
だけど今の直樹は、雄輔を振りほどくほどの強がりを見せる余裕もなくなっていた。
続く