本作はフィクションです。
実在する人物・団体・法人等とは一切関係ありません。
すべて妄想の産物と理解してお読みください。
・・・・、なにげにBLです。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
湧き上がる感情と止まらない涙を必死に抑えて、直樹はただ只管に走り続けた。
悔しかった。
雄輔にこんなにも理解されてなかった事実が寂しくて切なくて、そして悔しかった。
雄輔や剛士や、あの店に人たちは、自分が同性とした付き合えないと知っても、否定することも拒絶することもなくありのままで受け止めてくれた。
だけど世間一般には直樹のような人間は奇異な存在で、異端の眼で見られることが当たり前だった。
その孤独感を、共存社会から弾かれる恐怖感を、常に抱え脅えている自分を察して欲しかった。
なのに雄輔はあんなにもまっとうなことばかりを言う。
そして彼が正しいから、尚更直樹は悲しくなってしまう。
やっぱり、雄ちゃんとボクは違うんだ。
雄ちゃんみたいになれるはずはないんだ・・・。
「野久保くん」
呼び止められて、泣き崩れた顔のままで立ち止まった。
驚いた様子で自分の腕を掴んでいたのは、あのときの男性だった。
「なんで塩沢さんがここに・・・?」
「いや、あの店の近くに行ったら君に会えそうな気がしたから。
まさか本当に会えるとは思わなかったけど、僕の勘も悪くないのかな」
塩沢、と呼ばれた男は、指先でそっと直樹の前髪を救い上げた。
泣きはらした、痛々しい目元が露にされる。
「どうしたの?まるで失恋でもしたみたいだ」
くすりと笑う口元とは裏腹に、彼の瞳は労わるように暖かな眼差しが宿っていた。
それくらい、『優しい人』を演じるくらい、きっと彼にはなんでもないことだ。
この人もずっと、周りの眼を偽って生きてきたのだから。
「・・っき、が・・・」
途端に新しい涙が溢れかえる。
込み上げる嗚咽に邪魔されて、上手く言葉が紡げない。
「・・・、無理、しなくていい」
塩沢の低い声に、思わずかぶりを振る。
「くる、しい・・・。息が、出来ない。
本当のボクで、いれる場所がない・・・!」
それだけを言葉にすると、唇を噛み締めてただ俯いて涙を流した。
諦めたようなため息が聞こえて、そっと引き寄せられる。
微かにしか伝わらない体温が、かえって暖かく感じられた。
「本当は美味い料理の食べれる店にでも案内したかったんだけど、その様子じゃ無理だね。
今日は車で来ているから、ボクのマンションにでも来るかい?」
その言葉の真意が分からないほど、直樹も子供ではなかった。
手馴れたやり口だ。雄輔の言うとおり、油断のならない相手なのかもしれない。
でも望まれるということ、自分を求められるということは、存在意義を認めてもらえるようなものなのだ。
何も偽らなくても良い、己を晒しても許される相手。
他人には理解してもらえない、同じ傷を抱える同胞。
「迷惑でなければ、お邪魔させてください・・・」
早く楽になりたかった。
ひと時でも全てを忘れられる時間に溺れたかった。
「じゃ、おいで。向こうに車が停めてあるから」
そっと手を繋いで、彼は導くように直樹の先を歩いていく。
涙で視界の悪い直樹を気遣うように、ゆっくりと。
ねえ、もう『良い人』を演じるのはここまでで良いから。
車に乗ったら、あなたのテリトリーに入ったら、嬲るように愛してくれませんか?
ボクの身体を積もり積もった鬱憤のはけ口にしてくれませんか?
ボクはもう、このまま
壊れてしまいたいのです。
何も分からなくなるくらいに
ひどく犯されたい気分なのです・・・。
続く