本作はフィクションです。
実在する人物・団体・法人等とは一切関係ありません。
すべて妄想の産物と理解してお読みください。
・・・・、なにげにBLです。
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直樹が私たちを振り切るように店から飛び出していくのを、不覚にも黙って見送ってしまった。
普段から大人ぶってしまっているだけに、咄嗟に行動が取れない自分が情けない。
「雄輔!」
「分かってる、すぐに追いかけるよっ」
「違う!ハウス!!」
「はぁ!?Σ( ̄口 ̄;)」
今にも駆け出しそうな雄輔の肩を抑えて、私はここに残れと指示した。
「お前が行っても堂々巡りだよ。私が直樹をつれて帰って来る。
雄輔はここで大人しく待っているんだ。勝手に逃げたりするなよ?」
剛士さんがするように人差し指をまっすぐ彼に向けると、雄輔はシュンと項垂れて動きを止めた。
興奮状態の雄輔を野放しにするより、ここでクールダウンしてもらったほうが後がやりやすい。
私はありったけの『女の勘』を総動員して、直樹の後を追いかけた。
あの泣きはらした状態で駅に向うことはないだろう。
どこか別の店に入っている可能性も低そうだ。
となると、一人で落ち着ける場所は・・・。
「平手公園、かな?」
タッ!と地面を蹴って走り出す。
これで外れてたら相当なタイムロスだ。
交差する路地の奥にも目を走らせながら、彼の姿を探す。
広くて逞しくて、だけどきっと小さくなってしまっているだろう背中を捜す。
そして。
「・・・ビンゴ!って、面倒なおまけが付いてるけどぉっ!!」
私は呼吸するのも忘れて一気に加速し彼の元へ急いだ。
直樹がこっちに気が付くより早く、彼の腕を掴んで引き戻す。
突然の事態に、直樹が驚愕した顔で私を振り返った。
「てるさん・・・」
「勘弁してよ、展開、早過ぎ・・・!」
呟いた途端、私は急に噎せ返した。
当たり前だ。普段から鍛えてもないし、こんなマジに走ったのは数年ぶりだ。
崩れそうになる膝を必死で押さえてどうにか立った姿勢を保つ。
その間も私は直樹から手は離すことはなかった。
「随分と元気な人だったんですね、驚きました」
直樹の反対側の手を取っていた男の冷ややかな賞賛。
わざと私を煽っているのだと知りながら、彼の知己に溢れる顔を睨みつけた。
「悪いけど直樹は返してもらうよ。この子、失恋してちょっと自暴自棄になっているんだ。
冷静に物事が判断できるようになるまで、手を出さないでくれないかな」
「申し訳ないですけど、女性の出る幕ではないですよ?」
「女性じゃねーよ、保護者だっ!」
噛み付くように啖呵を切ると、相手はクスクスと笑いながら直樹の手を離した。
「本当に面白い人が野久保くんの周りには沢山いるんだね。
敵を増やしても仕方ない。今日のところは大人しく帰りますよ」
それからそいつは、優越感たっぷりに微笑んで、直樹の黒髪に軽く口付けした。
恐れ多くも私の目の前で!!!
「塩沢さん、あのっ」
「彼女の言うとおりだ、今日のキミは少し興奮しすぎてる。
落ち着いてからまたゆっくり会ってもらえないかな?」
「それは・・・」
「そう簡単に諦めないからね。覚悟しておいて」
気障な台詞に洗練された態度で、彼は直樹の元をゆっくりと立ち去った。
未練一つ見せない背中が勝ち誇ったように見えたのは、私の気のせいか?
「直ちゃん、店に帰るよ。
今頃雄輔も落ち着いてきてるはずだから、感情に左右されないでちゃんと話をしなさい」
そう促しても躊躇して動こうとしないので、今度は私が直樹と手を繋ぎ引っ張るようにして歩き出した。
まさかこの歳になって、男の子と手を繋いで歩くとは思わなかった。
「歩きながらで良いから私の話も聞いて。返事はいらないから」
私より一歩送れて歩く直樹が、素直にうんと頷くのが分かった。
ああ、まるで始めてのおつかいに行かされる姉弟みたいじゃないか。
この時間にしては人通りが少ないことに私は心底感謝した。
「直ちゃんがいろいろと、ソッチ方面だって事を隠して生きてこなくちゃいけなかったことは分かる。
イヤだったろうね、真面目が取り得みたいなあんたが、常に周りにウソつかなくちゃいけないんだから。
でも、ね。
人は、誰でもどこかしらで自分を取り繕ってるよ。
本当の、まんまの自分を100パーセント晒して生きてる人なんていやしない。
みんな周りにそれなりに合わせて、その場所に馴染む自分を多少なりと演出して生きてるんだ。
直ちゃんみたいに特異な条件の人は少ないだろうけど、でも、みんな何かを隠して抱えてる」
誰しも、心の中の全てを明かすなんて恐ろしくて出来やしない。
自分の居場所を守るために不都合な自分を押し殺す。
人は、人の中でしか生きれないから・・・。
「輝さんもそうなの?輝さんも、自分を偽っているときがあるの?」
「そうゆうときもあるよ。
そのほうがみんなと平和に幸せに居れるなら、私は自分を偽ってしまうだろうね」
ショック、だったかな?
私までウソの仮面を被るときがあるなんて教えてしまうのは。
でもね、本当の自分と周りの眼から見た自分のギャップに苦しんでいるのは貴方だけじゃないから。
苦しんでいたり、諦めていたりする人も、知らないだけで沢山居るものなのだよ。
「直ちゃん、私は直ちゃんの傷の痛みを知らない、同じ苦しみを味わうことも無理だ。
だけど、直ちゃんがどれだけの痛みを抱えて頑張っているか、それはちゃんと分かっているよ」
直樹の足取りが少し重くなった。
私は気が付かないふりをして、前だけ見て彼の手を引いた歩いた。
これ以上泣いてる直樹は見たくなかったから。
続く