『終わりから続く始まり』 | 逢海司の「明日に向かって撃て!」

逢海司の「明日に向かって撃て!」

ご注意下さい!!私のブログは『愛』と『毒舌』と『突っ込み』と『妄想』で出来上がってます!!記事を読む前に覚悟を決めてくださいね(^^;。よろしくお願いします☆

この物語はフィクションです。
実在する人物・団体・会社法人等とは一切関係ありません。
脳内の妄想産物と重々ご理解の上、お読み進め下さいませ。
いくら似てても気の迷いです!

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眩しいくらい真っ白な封筒に、定規で計ったように規則正しい字で『崎本大海様』と認められていた。

音信不通同然だった旧友からの手紙に、当時の事がフラッシュバックして脳裏を駆け巡る。


「彼とは、大学時代の友人なんだって?」


その手紙を直接僕に運んでくれた人が、あまりにタイミングよくそんな質問をするので、僕はなんの抵抗も感じずに彼との出会いを語りだした。


「大学で同じクラスになって、彼のほうから演劇のサークルに一緒に入らないかと誘ってきました。

趣味の集まりみたいなトコだったので、気安い感じで一緒に入会したんです」


なかなかの美形だったので、女性にもモテていた。

その代わり遊びのほうも派手だったらしく、よくトラブルに巻き込まれていたが。


「あいつ、・・・高田と僕は背格好が似ているでしょ?

たまに間違えられて大変な眼にあいましたよ」


あいつはいつも人を試すようなことばかりしていた。

何かを投げかけて、人がどんな反応をするのか観察していたようにさえ思う。


『お前、なんで怒らないの?普通の人間なら怒るとこだろ?』


自分の反応が納得いかないらしく、何度かそんな質問をされた。


『普通がどうであっても、僕は僕だけの感性と感情で動くからね。

みんなが同じ反応をするとは限らないんだよ』


そう伝えると、彼は少し表情を止めた。

驚いたとか気に入らなかったとか、そんなありきたりのことではなく、彼の顔から表情らしく動きがふつっと消えたのだ。


『俺は、その感情がないからな』


何を言っているのかと顔を上げてると、彼は眼を奪われるほど爽やかな笑みを浮かべていた。


『俺は感情ってのがどんなものか分からないんだ。

演劇なんて酔狂に興じてるのも、感情の表現方法を知るためさ。

いろんな奴を見て、どんなときにどんな表情で返せば一番自然に見えるのか、

必死に探って学んでいるんだよ』


意味が分からないと告げると、それも想定の範囲内だと言わんばかりに笑っていた。

不自然すぎるほどの、浮世離れした柔らかい笑みだった。


『感情の受け止め方は人それぞれか。だったらポイントを絞ったほうが良さそうだな』


そう言ったあいつは、さらに僕に纏わりつくようになった。

本当にあいつに感情が無かったのか、未だにどちらの確信も持てないままだ。

ただずっと、読めない奴だとは思っていたけれど。


卒業後、あいつは意外にも警察官の道を選んだ。

理由を聞けば、一番正しい事が当たり前の場所だから、と言っていた。

感情なんて不安定で不確かなものを理解できない自分には似合いの場所だと。

彼の言う事は当っているようにも思えたし、間逆なようにも思えた。

ただ、間違っているとは言えなかった。




「あいつ、死んだんですか?」

「末期の癌で手の施しようがなかったらしい。恐がってなかったのがせめてもの救いだよ。

最後の潜入捜査のときに偽名で君の名前を名乗っていてね。俺もその名前に騙されたクチなんだが。

『本物の崎本大海に会ってきなよ』ってこの手紙を託された」


その人は、寂しそうに自嘲するように小さく笑った。

風変わりなあいつを救えなかった事を悔やんでいたのかも知れない。


ピンっと糊付けされた封を弾き、中の便箋を取り出した。

相変わらずの無機質な字は、懐かしさよりも切なさを僕に残した。




【崎本、元気でやってるか?

この手紙がお前の手元に着くくらいには、俺はくたばっているだろう。

恐くはない。前にも言ったと思うが、俺には感情がない。死を恐れる心も俺にはないんだ。

でもお前だって、本当は自分を演じていただろう?

自分で作った『崎本大海』という枠の中に自分を押し込んで、毎日を無難に生きてたはずだ。

そんなお前に、一時でもお前の名前と性格を借りていた侘びを用意した。


この手紙を持って行ってくれた人が、きっとお前を助けてくれる。

その人なら自ら檻に閉じ込めた『崎本大海』を解放してくれる。

そして多分、その人も本当の『崎本大海』を必要としているはずだ。

偽りの俺なんかじゃなく。


俺は結局生きている意味も生まれてきた意味も見つけられなかった。

俺にとって俺は虚無の存在だった。

だからせめて、お前とその人を巡り合わせたという役目を果たしたのだと思いたい。


まだお前が自分に何かを纏わせているなら、その人に手を差し出してみてるといい。

どうしても抜け出れなかったところから、きっと引き上げてくれるだろう。

そしてお前自身が、彼の救いになるはずだ。

いや、なってくれ。

そして、俺が生まれてきて意味があったのだと示してくれないか。

どうか俺が生まれてここまできた二十数年間が無駄でなかったと証明してくれ。

この世界から何も受け取れなかった俺の、最後の願いだ

よろしく頼む。


高田】




「・・・、どういう意味なんでしょうね」


抽象的なようで確信をついたものの言い方が気になった。

初めて会うこの人が僕を助けるなんて、なぜこうもはっきり言い切るのだろう。

彼のほうもむず痒そうに身体を揺すりながら困った顔をしていた。


「さあな、買いかぶりすぎなんだよ。俺はもう刑事でもないし」


茶化すように肩を窄めてみせるのだが、僕は驚いて眼を見開いてしまった。


「辞めたのですか?どうして・・・。まさか、高田のコトと何か関係が」

「そんなんじゃない。ただ自分の信じた正義が正しかったのか、自信が無くなっただけだよ」


あまり聞かれたくなさそうだったので、そうですか、とだけ答えておいた。

きっと自分が考えてる以上に何かが暗躍している場所なのだろう。

高い理想と信念を持っている者ほど、現実を見せつけられたときのショックは大きい。

この熱味を帯びた瞳を持つ人も、知らなくてもいい事実に打ちのめされたのかもしれない。


それ以上話が進まず、程なくして彼は、それでは、と立ち上がった。

引き止める理由もない。

お世話になりましたと頭を下げると、何か言いたげに見詰められたが、それだけだった。


送り出した後も、僕は彼が気になってしまって、窓から後ろ姿を確かめていた。

一人のガラのよろしくない男が近寄って何かを話しかけている。

話の途中で少しだけ彼がこちらを振り返ったが、そのまま男に伴われて歩き出してしまった。


視界からこのまま彼が消えたらそれっきりだ。

きっともう、二度と会うこともないだろう。もう、二度と・・・。


気が付いたときには、僕は走り出していた。

こんな中途半端なままで分かれてしまって、僕は納得なんか出来ない。

何か、突然現れた彼から答えを貰わなくては。


「待ってください、つるのさん!アナタの正義ってなんだったんですか?

高田は何故、僕とアナタを引き合わせたのですか?

答えを下さい、アナタが思うだけの答えで良い。でないと僕は・・・!」


僕は、何なんだ?僕自身、何を納得出来てないんだ?

最初の勢いとは反対に言い淀む僕を、彼の隣に立つ男がジロジロと見渡していた。

イヤに鋭い目つきだ。この人物の正体は、いったい・・・。


「顔もええし利発そうやし、真っ直ぐで綺麗なエエ目をしとる。うん、なかなかエエやんかっ。

よっしゃ、お前は今日から『お台場戦隊ヘキサレンジャー』のマスコットボーイや!!」

「・・・は?ナンですかその、なんとか戦隊って???」


僕の想定を大きく上回った発言に戸惑っていると、慌てたつるのさんが話に割って入ってきた。


「なっ!紳助さん!!ダメですよ、彼は普通の一般市民ですよっ!!

こんな滅茶苦茶なことに巻き込んで良いわけないでしょ!」

「なんや、つるのだって結構気に入ってそうな口ぶりだったやないか。

どうや青年、おれらと一緒に日本の平和のために戦ってみいへんか?」

「紳助さん!」

「もう、うっさいやっちゃなぁ。俺がこの子をスカウトしとんのや、お前は黙っとき」


突飛過ぎて意味が良く分からない。

だけど、何かのきっかけであることは間違いなさそうだった。


「そちらの、つるのさんも一緒にですか?」

「当然や、こいつがチームリーダーやからな」

「彼自身の正義のためでもあるんですね」

「まあ、そう言えなくもないな。自分の眼で確かめるっちゅうのもアリやと思うぞ」


高田、お前が何を望んだのか分からない。お前の狙いも。

もしかしたらお前に上手い具合に操られてるだけかも知れないけれど、僕も彼のことをもっと知ってみたくなってしまったよ。

どこか遠く、果てしない先を見詰める瞳の彼の事を。


「僕がどのくらいお役に立てるか分かりませんが、お世話になります」


僕が頭を下げると、その男はほれみぃと言わんばかりの満面の笑みを浮かべ、その横でつるのさんが浮き足立つくらいに慌ててバタバタし始めた。


「だ、ダメだよ崎本くん、このオッサンの口車に乗っちゃ!!

この人はそりゃ、海千山千で口先三寸だけでいろいろこなしてきた人なんだからね。

君みたいに若い純情な子を騙すなんて、朝飯前なことなんだからっっ!」

「おい、つるの、お前ひどい言い方やな」

「だってそうじゃないですかっ」


つるのさんが思っているほど、僕も純情だけの男ではないんだけどね。

面白そうだから、高田とこのおじさんの思惑に乗っかってみることにするよ。

騙されたと、この決断を後悔するときが来るかも知れない、けれど。


僕だって、自分が今ここで生きている意味を持ちたいと、そう思ってる小さな存在なんだ。


「それじゃ、よろしくお願いします」

「さ、さきもとく~~ん、なんで人生の一大事を簡単に決めちゃうの~?」


僕はこのとき、まだ何も知らなかった。

彼らが、いや僕までもがこの国や地球の平和を背負うことになろうとは。

そして責任以上に重い悲しみや苦しみを経験することになるとは、夢にも思ってなかった。


でも僕は後悔はしない、してない。

彼の、つるのさんの傍にいたいと願った瞬間の判断は間違っていなかった。

それだけは胸を張って言える。

何が起こっても、僕は受け止めて立ち向かえてきたのだから。

この人の隣で。





そして。






「崎本、行くぞ」

「はいっ!」


彼が纏う真新しいバトルスーツは今までの派手なカラーリングを抑え、漆黒にも似てるブラックシルバーの輝きを重く冷たく放っていた。

そして、それに対なすホワイトシルバーのスーツに身を包んだ僕が、彼の後に続く。


近付けは近付くほど、彼の目指す正義は見えてこない。

それでも僕は彼の信じたものを感じ、自分の目指す正義のためにココまできた。

仲間も得た、そして、失いもした。

恐くないと言えば嘘になる。でも。



高田、俺は自分の生きてる意味を手に入れたよ。

お前が生まれて来た意味はきっと、俺に未来の道標を残すためだったんだね。



魂に戻った彼は、笑う事ができるようになっただろうか?

それともどこかに生まれ変わってきてくれるだろうか?

叶うなら彼に聞きたい事がある、僕は自分が作った『崎本大海』の檻を壊せているか、と。


「・・・、恐いか?」

「いえ、平気です。つるのさんが一緒ですから」

「無理して笑わなくていい。こっちが辛い」


いいや、檻が壊せたかどうかなんて、どうでもいいことだ。

僕は今、僕として懸命に生きてる、それだけで充分だよ。


強気で、でも周りの人のことに関しては弱気になる『パートナー』の手を取った。

この人をこれ以上悲しませない。そのためにも、僕はもっと強くなる。

作られた出会いでも、僕に意味を教えてくれたのから大歓迎だよ。


高田、お前の読みはけっこうイイカンジに当ってたぜ?





end





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だって、『神の眼、無の時間』の今後が気になるってタクサン言われたんだもん。


・・・というわけで、何気にあそこから話が続いてます。

分かりにくいけど、本編で『崎本大海』を名乗っていたのは実は『高田』くんです。

高田くんとは『闇金 ウシジマくん』でサッキーが演じてた元ホストの闇金マンです。

調べたんだけど、あの役、原作もドラマも下の名前が無かった・・・。

あそこが一番しっくり来たので、強行突破で採用しました。

ただし作中の高田は決して闇金マンじゃありませんので、あしからず。


お忘れの方もいらっしゃるかも知れませんが、ヘキサレンジャーのつるのさんの前職は警察官でした。

(それ以前に『お台場戦隊』をどれだけの人が覚えているのか・・・(-"-;))

ちゅーかこの設定、自分の首を絞めてるように思えるのですが、どうでしょう。

いえ、確実に首を絞めましたね。

さ~~て、これから辻褄合わせが大変そうだじょ~~。