この物語はフィクションです。
実在する人物・団体・番組等とは一切関係ありません。
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『そう、やっぱり大阪も見送ったんだ…』
電話伝いに届く鼻に詰まった声が、何故だか遠くに感じる。
華やかなはずの街が暗く沈んでいるからか、それとも地震の影響で電波状況が悪いのか。
気を使ってくれてるだろう柔らかい声が、他人事のように遠く感じてしまう。
「みんなを元気付けたかったけど、そこで万一事故があっちゃまずいもんなぁ。
でもやれるコトはやるよ。やんなきゃ、悔しくて次に行けねーもん」
苦笑ともため息ともつかない息遣いが耳元に溢れる。
相変わらずって思っているんだろう。
『雄ちゃんはたまに、言ってるコトとやってるコトが一致しないから…』
「どうして?」
『一人一人で出来るコトは小さくても、積み重ねれば大きな力になる。
それは分かるよね?』
「分かってるよ、それくらい」
『あのね雄ちゃん。雄ちゃんも小さいコトを積み重ねる一人なの。
自分はみんなよりももっともっとしなくちゃいけないとか、出来るはずだからやらなきゃいけないってコトはないんだよ。
雄ちゃんもみんなと同じで良いの。芸能人だからとか船長だからとか、そんな風に肩書きを背負わなくて良いから』
どうしてこの人は、いやこの人たちは強くあろう逞しくあろうと自分を追い詰めるのだろう。
悔しい想い歯痒い気持ちはよく分かる。
でもそんな思いを抱えて歯軋りしながら過ごしている人は沢山いるのだ。
誰かが特別とかではない。
そして、誰かに先導してもらわねば動けないほど、愚かな人ばかりではないはずだ。
「でもさ、オレだから出来ることってあるだろう?
自惚れに聞こえるかもしんねーけど、絶対オレラはミラクルを持ってると思うんだ。
現に、あの時は無敵だったじゃないか」
自らで名乗った【無敵艦隊】は、名に恥じぬ大成を収めた。
全てが怖いくらいに上手く回って、いつでも周りは明るい笑顔に満ちていた。
きっとまた出来るはずだ。それだけの力はあるはずだ。
『雄ちゃん』
考えの先を遮るように、彼は静かに言葉を紡いだ。
『確かに【羞恥心】は僕ら三人だったよ。でもその後ろで紳助さんや神原さんやファミリーのみんなや番組のスタッフさんや、数え切れない仲間がボクらを案じて支えてくれていた。
あの膨大な後押しと愛情があったから、ボクらは無敵になれたんだよ。
雄ちゃんも一人で名前の全部を背負わなくて良い。力を蓄えておけって言ってる雄ちゃんが、一番無理しようとしてる』
だってお前がいないから。
あの時みたく無敵になるには、ソコを乗り越えていかなくちゃいけないから。
「ノク…」
『何もするなって言ってるんじゃないよ?
ただ焦り過ぎて自分を追い詰めないでって言ってるんだ。
耐えて待ったからこそ、分かることもあるからね』
きっとこいつは今頃。
停電地区でもないのに部屋の明かりを全部消して、揺らめくキャンドルの灯りに縁取られているのだろう。
携帯を握り締めながら、その闇より深い瞳は現状を伝えるテレビ画面に釘付けになっているのだろう。
雄輔には知らずに大人の表情を見せるようになった直樹の横顔が、目の前にあるかのようにありありと脳裏に浮かんだ。
『明日はヘキサの収録でしょ』
「そうだけど…」
『まずはソコでみんなから愛情を貰ってくるんだね。これからを乗り切る力を蓄えておかないと』
軽口のように言い放つ。
結局は、彼も雄輔が望むままに行くことを、そしてその先に広がる未来を信じてくれているのだ。
「お前は?」
『ボクが?』
「お前はライブがなかなか出来なくて落ち込んでいるオレに、愛情をかけてくんないの?」
『やだな』
あ、ヒドい。
つーのさんとはたまにッイッターとかで絡んでいるくせに、こっちは全然かまってくれてないじゃないか。
そんな不平を口に出そうとした時だった。
『こんなに愛してるのにまだ足りないの?ってか、伝わってないってことなの?
スッゴく心外なんだけど?』
ヤラレタ…。
くしゃくしゃに笑ったあいつのドヤ顔がすぐに頭の中で再生された。
「そんな言うならさ、今からソッチ行ってお前のアイジョウを確かめても良いでしゅ?」
『それは、もう遅いし、電力とガソリンが勿体無いから駄目』
「なんで!」
『なんでも(笑)
ちゃんと雄ちゃんのために時間空けるからさ、今日は諦めて』
絶対だからな!と念を押すと、約束は守るよ、と簡単に返された。
この考えてないような即答ぶりを信じて良いものなのだろうか?
少しばかり訝しげな思いが湧き上がってきた雄輔に、直樹は極めて冷静な口調で告げた。
『ボクだって本当は、雄ちゃんに会いたいんだから…』
終わり