和風居酒屋『六角亭』は、カウンター席とお座敷のあがり席が3つだけという、
こじんまりした中にも落ち着いた風情のある、居心地の良いお店だった。
派手な顔つきの割りに和服の似合うモナママは、訳アリの憂いがある美人さんだ。
博識で切符も良く、話も通じるというので人気者である。
初めて品川に連れてこられて以来、『羞恥心』のメンバーもこの六角亭が大のお気に入りとなった。
今日も大将と慕う品川と一緒に楽しく(侘しく?)男飲みを開催している。
「はっ?ニセ羞恥心?」
熱燗ポン酒に水炊き鍋、と日本の冬の味覚を堪能している最中に投げ込まれた言葉に、
羞恥心一同目を真ん丸くして情報源の品川に視線を注いでしまった。
「なんすか、それ?前に余興でやった『オヤジ羞恥心』と違って?」
「オレと赤信号研究所の渡辺さんと石井さんのだろ?それは関係ない。
巷に、お前らのテレビ出演用と全く同じ衣装を着た羞恥心の偽者が出没してんだって」
最近の羞恥心は、正義の味方としての出動以外にテレビ等のマスメディアへの露出が増えている。
分かりやすい奇抜な衣装も着ているので、真似しやすいと言えばやりやすいだろう。
「なんかね、街中に突然現れてはしょーもない悪戯をしていくんだって。
こないだは駅前の違法駐列してる自転車をドミノ倒しにして行ったっていうし、
その前は道路標識を梯子持参で次々とひっくり返していったって話だよ」
「しょーもな!!」
酒の力で半分閉じかけた瞼の雄輔が、つばを飛ばす勢いで一刀両断の一言を呟いた。
確かに、やってる内容は下らない。
「でもボクラの格好を真似てるってのは気になりますね。
本物と勘違いされるのが目的だとして、そんな悪さをしてるとしたら・・・」
「いんや、誰もお前らと間違えないと思うよ。見た目が全然違うもん。
心役のオッサンなんて、ただのメタボだよ?ベストのボタンが閉まらないくらいの。
羞の格好してるのは、小さい女の子だって話しだし。唯一背格好が似てるのは恥だけど・・」
チラっと心配そうに顔を曇らす直樹を見やる。
自分達に覚えのない悪行で悪い印象を持たれるのは気分の良いこっちゃない。
だけど、そこまで心配するほどでもないような気がする。
「恥の子さ、動きがえらい挙動不審らしいんだよね。めちゃくちゃ滑舌も悪いらしいし。
あんなグデグデの正義の味方は有り得ないって、満場一致で可決されたよ」
まとめて想像してみると、何が目的なのか分からない偽者である。
単に人気者にあやかって、悪戯を楽しんでいるだけなのだろうか?
「まあ、こっちも情報は集めておくよ。こーゆー草の根的な仕事はオレの担当だからね」
そう言いながら、品川はとっととつみれを丸めながら鍋の中に投入し始めた。
生のままで置いておくと、雄輔が直接食べそうで危ないのだ。
まったくもって、目の離せない連中である。
気ままに飲み食いしつくし、最後は品川と剛士が伝票を取り合って〆となった。
ちなみに対戦成績は7勝3敗で、今回の勝者は品川である。
笑顔でご馳走様でした♡(o´冖`o)とお礼を言って素直に奢られるのも年下の役目なので、
直樹は代わりに美味しいケーキでも品川さんにお届けしよう♪と考えていた。
雄輔は『おにーたん、ダイチュキ♡』とほっぺにチューして感謝の気持ちを表していた。
剛士さんはどーにかして品川大将を言い負かせらんないかと頭を悩ませていた。
三者三様の反応を、おもしれーなーと大将は堪能していた。(笑)
「明日も早いんだから、寄り道しないで帰るのよ」
会計後のママからの言葉に、品川が今度は苦笑する。
「モナさん、ここからどーやって寄り道するの?」
「あらやだ、部屋飲みってこともあるじゃない」
「部屋で飲むくらいなら、ここが看板になるまで飲んでるよ」
じゃあね、と陽気なママに手を振って暖簾をくぐる。
そこは北風厳しい街灯の下、ではなく、年中適温に保たれた基地内の廊下であった。
『六角亭』は基地の食堂奥に店を構える、お台場戦隊専用の居酒屋なのだ。
外に飲みに出るのも面倒臭いねん。基地内に飲めるところを作れや。
そんなトップの我が侭で出来たお店である。
お陰であの長いエレベーターを使わなくとも気軽に安く飲めると、
このときばかりは最高責任者の気紛れに感謝した一同だった。
「にしても、ニセモノって何なのだろう?」
「そうだなぁ~、ま、きっと品川さんが解決してくれるよ♪」
「うん、そーだね(o^冖^o)」
大将すみません、うちの弟どもは他力本願です・・・。
あまりに無邪気に無責任なことを言い放つ愛弟らに、思わず目頭が熱くなる剛士であった。
続く