男はバスルームから出てくると、冷蔵庫から冷えたコントレックスを取り出した。
日本人の口には到底合わない超硬水。
それをゆっくり口に含み、重たい喉越しを耐えて飲み込む。
ボクサーパンツにバスローブ一枚羽織り、頭からひっかけたバスタオルで髪の湿気をふき取る。
都心の高層マンション、ワンルームだが最新式の設備が整ったその部屋を彼は気に入っていた。
革張りのソファーに身を沈め、一息つきながらテレビの電源を入れる。
今日一日を締めくくるニュースが薄っぺらな画面に流れ始めた。
『今日14時35分、悪の一派FUJIWARAが富士急ハイランドに急襲しましたが、
現場に駆けつけた羞恥心によって撃退されました』
画面が切り替わり、特撮映画のように派手なヒーローと、動きづらそうなゴテゴテしい衣装の悪役が大立ち回りを演じている様子が映し出された。
富士急ハイランドじゃなくて、後楽園遊園地の間違いだろ?と突っ込みたいのを堪えてその陳腐な茶番が終るのをじっと待つ。
一体、どこまでホンキなのだろう?
悪の組織だとか正義の味方だとか。
どこかのテレビ番組か大手のプロダクションのやらせに見えて仕方ない。
いつまでもこの正義の味方ごっこから話題が離れないので、チャンネルを変えようかとリモコンをテレビに向けた瞬間、その男の動きが止まった。
画面には『無敵艦隊 羞恥心』のメンバーの顔が大写しになっている。
戦いが終った後のインタビュー映像のようだ。
彼らの目元は濃い色のゴーグルで隠されていたが、そんなものに惑わされなかった。
一番端っこ。
白地に青の戦闘服に身を包んだ男は、確かに自分の知っている人間に間違いなかった。
さらにインタビューの声が流れ、彼は確信した。
「ノッキー!何やってんだよ!!」
叫んだ男は向井理。
羞恥心ブルー、野久保直樹の親友である。
続く。