以下の文面はフィクションです。
実在する人物、団体、組織等とは一切関係がございません。
似てる人が居ても、それは偶然の一致です。
ですので、どっかに通報したりチクったりしないでください★
・・・、頼むよ、マジで (ToT)
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それからのことは、あっと言う間だった。
ただ一緒に居れる時間は、お互いに顔を見合わせれば笑っていた。
気がつかなかっただけで、ずっと、出会ってからそんな二人だったのかもしれない。
条件反射のように笑い合う二人を、剛士もいとおしげに眺めていた。
三人がそうやって笑っているので、周りの仲間たちも気に留めずに笑いかけてくれた。
幸せな時間に区切りがつけられている知っていたけれど、だからこそ、
沢山沢山笑って過ごしていた。
笑顔ばっかりの三ヶ月。
そして迎えた運命の日・・・
に、
涙腺崩壊☆
「んも~、超はずいんですけど!」
楽屋に戻った途端、雄輔は頭からタオルをかぶって蹲ってしまった。
あれだけ豪快に泣いてる姿をさらけ出したのだ、恥ずかしくて当然だ。
テレビ局が威信をかけた超特番の生放送のエンディング、しかも全国放送というおまけつき。
あれが恥ずかしくないから、何が恥ずかしいというのだろうか?
「すさまじい泣き顔だったね、ユーチャン。あーたの見事な泣きっぷりを見てたら、
却ってオレは冷静になれたよ」
ニヤニヤと笑いながら剛士が茶化すような事をいう。
絶対に剛士だって普通なら大泣きしてた場面のはずだ。
それを我慢するなんて、ずるい!と雄輔は思っていた。
「・・・、ノックは?」
「他の人のとこに挨拶に行ってる。付いていこうかって言ったんだけど、一人で行きたいってさ。
まぁ、そこまで過保護にするこたぁないんだろうけど、アニキとしてはね・・・」
言葉尻が彷徨うままに消えた。
彼と関わった人たちとの、それぞれの別れの場面を想像して感慨深くなってしまったのだろう。
「それじゃ、僕は先に上がらせていただきます」
雄輔達がまだ色違いの番組Tシャツを着ているのに、とっくに私服に着替えた崎本が
自分の荷物を抱えてペコンと頭を下げていた。
彼もまた、目元が少し赤い。
「え?もう帰るの?まだ直樹が戻ってきてないし、この後軽く打ち上げに行こうって・・・」
「今日はずっと一緒に居させてもらって楽しかったです。(o´冖`o)エヘ
僕はもう充分ですから打ち上げは三人水入らずで行ってください。それに」
ちょこっと、首を傾げるように笑う。
緊張の糸が切れたのか、いつもよりもずっと稚いように見えた。
「野久保さんにさよならは言いたくないです。だから、このままで帰ります」
失礼します、と再度頭を下げて退室する崎本に、剛士も雄輔も何も言えなかった。
直樹がこの特番以降、しばらくヘキサに出演しないというのは前からファンの間で噂になっていた。
それに伴い、一部の人から彼への風当たりが強くなり、槍玉に挙げられることが多くなっていることも耳にしていた。
だけど崎本は。
何も言わずキャラも変えず、テレビの前では小生意気そうに笑ってみせてた。
直樹もそんな崎本を気遣っていたのだと思う。
隙間のような時間に二人がこっそりと、でも楽しそうに言葉を交わしているのを何度も見ていた。
別の出会い方をしていたら、もっと違った話も出来ただろうに・・。
パキン★と音を立てて剛士が携帯を開く。
沢山のメールを受信していた。
だけどそれらへの返信を無視して、今、帰って行ったばかりの崎本に短いメールを送る。
みんなで撮った笑顔の写真を添付して。
「・・・・、沢山の人が来てくれたな」
「うん」
「長居はマジでビビッた。もし福岡に行けてたら、どんだけ来てたんだか」
「うん、行きたかったね」
「スタンド一杯にさ、手作りのうちわとかボードとか持って来てくれて、あれって愛だよな~」
埋め尽くされた人人人。
たった四人を見るために、ほんの数十分のために、どれだけの人が集まってくれたのだか。
「雄輔、俺たちは恵まれてるぞ。
ちょこっとメールや電話をするだけで直樹が何をしてるか知ることができる。
声を聞いたり会うことだって簡単に出来る、だけど。。。」
「分かってるよ、にーちゃん」
あそこで。
必死になって青いグッズや『恥』とか『ノック』って書いたうちわを振って応援してくれた人たちは、
これからは簡単に直樹の消息を知ることができなくなる。
教えたくても、妨害される。
そんなのオレにはかんけーねーじゃん。
そう言った雄輔に、直樹は素直に従ってくれと懇願した。
雄輔にこれ以上、迷惑をかけたくないから、と。
「オオバカヤロウだ・・・」
声が詰まって、鼻の奥にツーンとした痛みを感じた。
我慢して飲み込んでも、自然と目からあっついモノが零れてくる。
「泣き虫雄輔」
まるでえーとやうーたんをあやすみたいに、剛士はボサボサの雄輔の頭を優しく撫ぜてくれた。
「もうすぐ直ちゃんが帰って来るだろうから、早く立ち直りなさいよ」
「わーかってるって!もう平気だよっ」
涙を拭いきれぬまま、それでも雄輔は強気な返事を返した。
落ち込んでる場合じゃない。あそこで青色の応援グッズを持ってきてくれた人に
直樹の笑顔を返すまで、怯んでいる場合じゃないのだ。
頬に涙の跡を幾筋も残して、だけど剛士を見上げてる顔には笑顔が戻ってる。
いつまでも引き摺ってるほど弱くはないからな、俺も雄輔も、直樹も。
「ただいま~」
二人のやり取りがひと段落したのを見計らったようなタイミングで、直樹が楽屋に戻ってきた。
彼の両手は花束やらプレゼントやらで埋め尽くされている。
「おかえり。ずいぶんとたくさん貰ったね」
「なんか挨拶に行く先々で頂いちゃって。チョコが多いのには参りましたけど」
「え~、嬉しいんじゃないのぉ?せっかくだから、全部持ってるところを撮ってやるよ」
手に持っていた携帯を直樹に向けて、丁度よく収まるサイズを探す剛士。
あまりに真剣にカメラのモード調整をするので、思わず直樹も愛想笑いでない笑みで彼を見詰めていた。
「ああくそ、むずいな。照明が暗いんだよ、この楽屋は!」
「剛にぃ、だいたいで良いよ~」
「良くないっての!オレのこだわり!!」
誰に見せるってわけじゃないに。
今の直樹を、一番綺麗に残しておきたいんだ、この人は。
「なんかさ、すごいな」
雄輔が小さく呟いたので、直樹も剛士も不思議そうに、おんなじような表情で振り返る。
だって、当たり前みたいに直樹は「ただいま」って帰って来て、剛士も「おかえり」って迎えてさ。
ここは自分の家じゃないのに。
家じゃなくてもここが、三人でいる場所が帰って来る場所でなんだって、
当然のことのように認識して、思い込んでることがすごいなって、そう思ったんだけど。
オレも、同じように思ってるから。
三人で揃う場所が、本当の自分に帰る場所なんだって。
「なに、雄ちゃん?気になるから言いかけてやめるのは無しにしてよ」
「う~んと、あのね、ノックがいて、つーのさんがいるでしょ。で、ここはただの楽屋でしょ。
おれらも知り合ってよーやく2年ってとこで。だけど、すげぇホームを感じるの。あー、ここだぁって」
「・・・ユースケ、言いたいことが分かるようでイマイチ分かんないんだけど」
頭の上にそろって『?』マークを浮かべている直樹と剛士を見比べて、
やっぱり『この三人』なんだって思った。
いっぱいいっぱい考えていた、直樹を失わなくてすむ手段を。
こいつが納得して動いてたんだって分かっても、手を出さないで見てるなんて出来なかった。
頭ひねって秘策考えて、これならイケる!って提案しても、全然通用しなくて、
結局、何も出来なかったんだって、悔しくて落ち込みそうになった、だけど。
お前がオレの顔見て笑ってくれるから、傍にいるだけでも良いんだって。
オレとアニキが居る場所をお帰りの場所だって思ってくれるなら、
お前が見付け易い場所に踏み止まって立っているだけでも良いんだって分かったんだ。
他に出来ることが何一つ無いなら、せめて傍で笑って待ってる。
そのときが来るのを。
「サッキー、帰っちゃったんだ」
「でもメアドの交換はしたんでしょ?後でメールでもしてあげなよ。明日初『いいとも』だし」
「うん、そーする」
ふわって緩む直樹の頬にも、やっぱり涙の跡が残っていた。
だけど剛士の顔を見て安心したみたいに笑ってる。
第三者はまとめて「癒し系の笑顔」と言うのだろうけど、無意識に浮かべた直樹の笑顔は
剛士に向けたトキと雄輔に向けたトキでは違う性質が含まれているのに気が付いていた。
剛士は。
直樹の『こっち』の笑顔を守るために、泣くのも我慢して強がっていたのだ。
「ねねね、この後さ、オレの知ってる店に行こう。和食の落ち着いたトコだから」
「おー、雄輔のお勧め?いーじゃん、そこに行こう」
「久し振りだねー、三人だけっていうの」
頭寄せ合うと、なんだか笑みが込み上げてきて。
ああ、大丈夫だ。この三人はどー立場が変わっても一緒にホームを作れる。
もしかしたら、大事なホームを守るためにちょっとの無理はするかも知れないけど、
それだって三人でいれる喜びに比べたら微々たるものなんだ。
「どーしたの雄ちゃん、ニヤニヤしちゃって」
「これは地顔です~」
何時だって笑ってられるよ?だって大事な人が笑ってるから。
オレの笑顔は、いつだって。
君が守ってくれたんだから。