『チューイング症』とは、食べ物を口に含んで咀嚼した後、飲み込まずに吐き出してしまう摂食障害の症状のひとつです。

 

これを受けて、「食べ物がもったいない」「お金の無駄だ」「汚い」というような言葉が浮かぶ方も少なくは無いのではないでしょうか。

 

また、チューイングをしてしまった当事者の方の中には、周りに軽蔑されるのではないかという不安を抱えている方も多いのではないかと思います。

 

 

 

何を隠そう、私もチューイング症に悩まされた経験者です。

 

過去にも少しチューイングについて記事で触れた事がありますが、今回はチューイング症のきっかけや心境、どうして治していったのか、周りはどうしたらいいのか、などについて詳しくお話したいと思います。

 

 

 

【きっかけと症状】

 

当然、普段食事という行為に対して困難を抱えていない人であれば想像もつかないような行為でしょうし、

チューイングをしている自分が異常だということも、最初にあげたような感想を持たれて周囲に「信じられない」と軽蔑されることが多いだろうというのは安易に想像できました。

 

そのため、症状が出てしまったときは不安や焦りでいっぱいでしたし、母や主治医の先生に言うのにもかなり葛藤しました。

 

 

 

 

私にチューイング症状が出たのは、1人で学校から帰っている最中、コンビニで食べ物を買ってそのまま最寄りの駅のお手洗いでチューイングをしたのが始まりでした。

 

いつものように許可食を買おうとコンビニをハシゴしていたのですが、普段なら成分表示を見て商品棚へ戻すコンビニスイーツを、何故かその日は「食べたい」という欲求のまま手に取り、加えてその流れで菓子パンやお菓子などをコンビニ袋に1枚分いっぱいに買っていました。

 

 

最初なので恐る恐るだったのもあり、量は2,3人前程だったと記憶していますが、その後チューイングを繰り返す度にどんどん量が多くなっていきます。

 

 

チューイング用の食べ物を買い込む時、店員さんが「お箸何膳お入れしますか」「おしぼりいくつお付けしますか」にビクッとなる感覚は今でも忘れられません。

 

その店員さんも、まさか1度に1人で、しかもチューイングをするための買い物だったなんて想像もしてないでしょう。

 

 

 

ちなみに買った量が何人分なのかは分からなくなっているので、そんな時はとりあえず家族の人数分を答えるように決めていました。

(予め決めておくことで聞かれた時に挙動不審になりにくいので)

 

 

 

お手洗いでチューイングしている最中は、吐き出されていく咀嚼物が便器の中へ入るのを見つめながら、ただひたすら無心で食べ物を口に放り込み続けました。

 

田舎の駅のお手洗いの臭気の中、原型をなくした沢山の食べ物がどんどん積み重なっていく光景は、地獄のようでした。

 

 

 

もうここまで来ると、食欲とか食事を味わうとか、そういった感覚はありません

 

『食事』ではなく、『作業』に近い状態です。

 

 

 

チューイングをしてしまう根底には「飲み込まなければ太らない」という歪んでしまった考え方があるのですが、これでは何のために食べているのか分かりません。

 

もはや自分がどんな気持ちなのかもわからず、ただただ泣きながらチューイングをしていました。

 

 

 

その後も何度か帰りにコンビニに寄ってはコンビニや駅のお手洗いでチューニングをしましたが、当時高校生でバイトも禁止(というかバイトができる体力は無い)だったのでお金も稼げず、サプリメントの購入とチューイングの食糧代が重なり、すぐに小遣いが底をついてしまいました。

 

 

 

そんなタイミングで夏休みに入り、家で一人だった私はチューイング衝動がまた再沸し、家中のお菓子をかき集めて行うようになりました。

 

 

 

我が家は全員お菓子が好きなので、家の中は常にお菓子のストックがたくさんある状態です。

 

そんな中一人で長い時間家にいる(部活も行っておらず、外出もなるべく控えるように言われていました)と普段は外食時だけ過食衝動が出ていたのに、

急に頭の中が「食べたい」でいっぱいになり、気づけば今まで絶対に手を伸ばさなかった家の中のお菓子を目に入ったものからかき集めていました。

 

 

中には、消費期限が切れていたものも沢山ありました

時には液体や調味料を口に含むこともありました

 

 

 

きっとそれほど追い詰められていたのだと思います。

 

人間、本当に追いつめられるとこんなにも判断力が鈍るのだと、今書いていても恐ろしくなります。

 

 

 

【チューイング症が出なくなった経緯】

 

このような状態であった私に症状が出なくなった経緯は、

簡潔にいえば強制的にチューイングから切り離されたという感じでした。

 

 

私は大抵、一人でいる時にチューイングをしていたのですが、

1人で学校に通っていた1年生の前期や、独りの時間が多かった夏休みが過ぎると、主治医の先生から登下校は送り迎えしてもらうようにという指示が出され、登下校と放課後は家族の目がある環境になりました。

 

 

また、冬休みもずっと入院していたため、防犯カメラがある病室や他の患者さんが居るロビーでチューイングする訳にもいかず、

しばらくの間チューイングから離れた生活を送りました。

 

 

さらに退院したあとは、私が後に熱中するエンターテインメントショーに出会うので、

気づいた時にはチューイングする時間もタイミングも忘れていました。

 

一方で、退院したタイミングで過食の症状が出始めていたので、

もしかしたら過食が拒食やチューイングという選択肢ができない時の新しいストレス発散方法だったのかも知れません。

 

 

 

【当事者にかかる負担】

 

摂食障害自体に確実な治療法や薬がないように、過食や拒食・嘔吐同様、チューイングもこれといった治療法や薬は無く、またチューイングをしたいという欲求もコントロールできません

 

 

しかし今人体について勉強する中でチューイングが体に悪いことも科学的根拠から分かっていて、

 

具体的には、胃に何も入ってこないのに胃液(胃酸が活発になって荒れる)が分泌されたり、自律神経が乱れて情緒に影響を及ぼしたりすることがあります

 

 

なぜそうなるのかを簡単に言うと(ここで細かく話してしまうと難しくなってしまうので割愛します)

人の五感も消化液の分泌に影響していて、自律神経が摂食行動に大きく関わっているため、食べていなくても消化しようとして体が混乱してしまうのです。

 

 

このような事実を聞くとさらに「もし当事者がやっていたらすぐ辞めさせなければ」と思う当事者家族の方々が多くいらっしゃるのではないでしょうか。

 

 

確かに、体に良くない影響を及ぼしている事実には変わりないので辞めるに越したことはないのですが、上にも書いたように、

チューイングも過食や拒食・嘔吐と同じような原理で起きる症状ですので、本人にとってそれがある種のストレス発散方法であり、苦しみから逃れるための逃避行動なのです

 

 

そのため、本人のペースをお構い無しに強制的に抑圧してしまうと、かえってストレスが大きくなったり、他の症状が現れてしまう可能性も十分あり得ます。

 

 

 

また、これも最初のほうに書きましたが、チューイングをしている自分自身を常に責め続け、罪悪感や不安で気が張っている状態です。

 

 

これは過食や嘔吐にも言える事ですが、

やりたくてやっている訳じゃないし、「なんてことをしてしまっているんだ」という罪悪感と

「バレたら軽蔑されるに決まってる」という恐怖に毎回押し潰されそうになります。

 

 

もし私がそんな時にチューイングしているというのを親に指摘されて、強く言い寄られたとしたら、

もう顔も合わせられないし、自責と絶望感で耐えきれなくなっていたかもしれません。

 

 

 

 

【当事者のチューイング症に気づいたら】

 

では当事者がチューイングをしていると分かった時にどうしたらいいのでしょうか。

 

 

当事者の立場だけで言うとすれば、最も理想的なのは"症状を否定せず、軽蔑せず、普段と変わらずそばに居てくれること"です。

 

言い換えれば、"症状ではなく「私」と接して欲しい"とも言えます。

 

 

 

何故かと言うと

私がチューイングについて母や主治医の先生に打ち明けた時、案外すんなり受け入れてもらい、とてつもなく安堵したからです。

 

 

さらに、その後チューイングの症状が出ても"支援者に症状を否定されていない"というだけで何十倍も何百倍も自責の気持ちが和らいだといのも理由の一つです。

 

それがあるか否かで治療に対する心持ちもだいぶ変わるように思います。

 

 

 

細かく言うと主治医の先生の方は「あ、そうですか」くらいの反応だったので、『まあこういう症状が出ても不思議じゃないよね』という程度だったのだろうな、とは想像ができたのですが、母の方は意外でした。

 

 

自分の娘が食べ物をお手洗いでチューイングしているところを想像すれば、専門家ではなくそのような症例に免疫のない母にとっては受け入れられない可能性の方が大きいような気がします。

 

 

だから尚更、「きっと軽蔑されたり怒られたりするのだろう」と思っていた私にとって、母が反論も止めもせず、ただ症状を打ち明けてもなお私の手を握っていてくれたことは、かなりの救いでした

 

 

 

先日改めて、この時の母の考え方について聞いたところ

 

「"もう十分苦しめられてきたんだから、これ以上自分を責めて苦しまなくてもいいんだよ"と思っていたから、チューイング症についての抵抗は無かった。」

 

と言っていました。

 

 

 

「もう十分苦しめられてきた」「これ以上自分で苦しみを増やさなくて良い」

 

 

この言葉こそ、摂食障害と"私"を切り離して考えてくれている言葉だと私は感じます。

 

そういった点では、当事者の中で私はだいぶ恵まれた治療環境でした。

 

 

 

母も余裕のない中、こうして母が「私」を支えてくれたのは本当に有難かったです。

 

一方で、当時の私が母からこの言葉を受けていたら、もっと心が軽くなっていたかもしれないとも思いました。

 

 

 

【おわりに】

 

今まで書いてきたように、私はチューイング行為を打ち明けた先で否定された経験がありません。

 

そのため、理解されなかったときのお話や対処法をお伝えすることはできません。

 

 

 

しかし結局のところ、言いたいことはただひとつで、

いつもと違う状態だから症状が出るのであって、それは摂食障害が特別なわけでは無く、ほかの様々な病気と一緒であるという事です。

 

 

風邪や胃腸炎で戻したときや、酔っぱらって戻してしまったときも、体が本調子ではないから意図せず症状が出ます。

 

調子の良い時やシラフのときにわざと嘔吐する人は多分いないと思います。

 

 

 

それと全く一緒で、摂食障害という病気だからチューイングという症状が出てしまうのです。

 

これは嘔吐・過食・拒食・自傷行為……などなど、他の摂食障害の症状すべてに共通して言えることです。

 

 

 

だから、私のブログの記事では繰り返し言っている事なのですが、

 

当事者の方は症状が出ても自分を責めることはしなくて良いし、

支援者の方も万が一その場面を見てしまった・知ってしまったとしても当事者がやりたくてやっているわけでは無いという事だけは理解していただきたいです。

 

 

 

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